Last Updated on 2023年4月12日 by 菅間 大樹

平成29年11月、厚生労働省の社会保障審議会障害者部会から、障害者総合支援法内の「就労定着支援」についての見解が「新サービスの基準について」として示されました。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000185297.pdf

そのなかには、

○ 就労移行支援等を利用し、一般就労に移行する障害者が増加している中で、今後、在職障害者の就労に伴う生活上の支援
ニーズはより一層多様化かつ増大するものと考えられる。
○ このため、就労に伴う生活面の課題に対応できるよう、事業所・家族との連絡調整等の支援を一定の期間にわたり行うサービス
を新たに創設する(「就労定着支援」)。

とあります。せっかく支援事業所を通じて就労しても、すぐに退職してしまっては意味がありません。就労した当事者はもちろん、雇用した企業、支援者の誰もが残念な思いを抱えます。特に精神障害者においては、1年後も継続して就労している方の割合は5割以下ともいわれています。

厚生労働省が報酬改定を行ったのも、このような事実を受けてのことでしょう。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けた障害者支援事業所は今後どうなる

さて、では障害者支援事業所(ここでは、就労移行支援事業所、就労継続支援A型、B型をさします)は今後どうなるでのでしょうか?

昨今では新型コロナウイルス感染症の影響は支援事業所にも及んでいます。通所ができなくなり自宅でのトレーニングに切り替えたり、在宅での支援をはじめたりしている支援事業所がありますが、通所時ほど支援の質を保つのは困難で、また通所者を増やす活動にも限りがあります。(ZOOMでの説明会などを行っている事業所もあります)

就労継続支援事業所の大きな目的の1つである「就労」も、コロナウイルス感染症の影響で、今後は困難になってくると思われます。

企業の業績悪化に伴い、健常者の新卒、中途採用の数が激減するということは、障害者の一般就労の数も同じく減ることを意味します。特に、軽作業を中心とした障害者就労を行っていた企業はリモートワークの定着によって業務が減少したこともあり、今後は就労数の削減や、契約満了による人員削減に踏み切ることも予想されます。

また、障害者の就労に欠かせない職場実習などが行えなくなっています。就労継続支援事業所からの就労を目指す利用者にとって、自身と職場のマッチングを測るために重要なことですが、新型コロナウイルス感染症の影響で、企業は人との接触機会をできるだけ減らす方針を取っています。

そのため、人が関わることが欠かせない職場実習の機会もおのずと限られます。また、面談もZOOM等では適性の見極めなどが限られると思われ、結果として、障害者採用を見送る企業が増えてくることが考えられます。

一部の事業所ではオンライン面談対策などを実施するなど、急速に進む企業のオンライン化に合わせた対応をしています。コロナ禍における就労状況や企業の環境変化への適応が支援事業所にも求められているといえそうです。

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増えすぎたA型事業所は今後「淘汰・個別化」される時代に?

話は戻りますが、新型コロナウイルス感染症の影響のあり、障害者支援事業所は「淘汰・個別化」の時代に入ると思います。

ここ10年近くで、障害者支援事業所は全国的に爆発的に増えました。「増えすぎた」といっても良いかもしれません。社会福祉法人やNPOが設立しただけでなく、株式会社も参入し、上場する会社も出てきました。

事業所が増えるということは、当事者がいくつもの事業所のなかから、自分に合ったところを選べるようになることにつながります。当事者にとって事業所との相性はとても大切です。事業所が多く誕生することで選択肢が増えるのはとても良いことだと思います。

就労継続支援事業所A型ですすむ「玉石混交」化

ただ、事業所が爆発的に増えたぶん、玉石混交になっていることは否めません。特開金など制度の美味しいところだけを狙った、いわゆる「悪しきA型」問題などもその一つと言えるでしょう。また、就労移行支援事業の中でも、年間で一人も就労者を出していない事業所が全国で1割、2割程度存在するといわれています。

厚生労働省の報酬改正は、これ以上事業所が増えすぎず、また、丁寧にサービスを提供している事業が報われるような内容を目指しています。それに伴い、福祉サービスの美味しいところだけを狙った事業所は今後、旨みがなくなりますので、事業を停止するところがあるでしょう。さらに、A型も最低賃金の支払いが経営に重くのしかかっており、事業所を閉じたり、やむを得ずB型に移行するところも増えています。

今後、福祉事業所は、大手が伸びていくことが予想されるのと、小さくてもしっかりしたサービスを提供し、独自の(特徴ある)支援で成果を出しているところが残っていくと思われます。

また、組織のトップは「福祉」という枠にとらわれず、経営についてよく考えていくことがより重要になってきます。福祉事業所といえど黒字経営を続けていくための数字管理や、職員の賃金アップ、待遇改善などについてもいっそう意識していかなければならないでしょう。

特に障害者スタッフと雇用契約を結むA型事業所は、最低賃金をしっかり支払えるビジネスモデルを構築する必要があります。その他の事業所も同様です。「福祉」ではありますが、その世界だけで頑張っていたり、福祉制度の美味しいところを取ろうとしたりする事業所にとって今後は厳しくなると予想されます。

閉鎖が相次ぐ就労継続支援A型事業所

障害者就労継続支援A型事業所の閉鎖が全国で相次いでいます。それに伴い、事業所を解雇される、障害のある方が多数います。

A型事業所は、ここ数年で急増しました。そのなかで、運営が順調な事業所もあれば、給付金などを目当てに設立し、ビジネスモデルとして失敗している事業所もあるのが事実です。

閉鎖や、B型事業所への移行を余儀なくされた事業所を見てみると、大きく以下の2つにわかれるように思います。

・運営能力(ビジネス的観点)が低い
・給付金等目当ての設立

このようななか、A型事業所の運営は岐路に立っているといえるでしょう。

2番目の理由は論外だとしても、1番目の理由での閉鎖は非常に問題です。運営側(法人)の責任を問うことはもちろんですが、一番気にかけなくてはいけないのは、閉鎖された場合、そこで働いていた障害者たちはどこへ行くのか? ということです。

一般就労へのステップアップの道が閉ざされる、定期的な収入が断たれる、など生活が一変し、未来が奪われてしまいかねません。

ではなぜそのようなことが起きてしまうのか。それはやはり、ビジネスプラン通りに経営が行かなかったということになるでしょう。

福祉事業所といえど「経営感覚」は欠かせません。通所者増による利益アップはもちろん、職員の賃金増はキャリア形成とともに欠かせません。職員に十分な沈金を払えない場合「やりがい搾取」になりかねません。単価増のための中長期計画、複数施設の運営など、福祉の志に加え「経営」として以下に事業所の舵を取ることができるかが、これからの福祉事業所にとって重要になるでしょう。

(追記)

8月1日、厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会は、2022年度の最低賃金の目安を全国平均で961円にすると発表しました。引き上げ額は最高となる31円となります。これは利用者と雇用契約を結んでいるA型事業所にとってさらに痛手となる決定と思われます。1人あたりの時給が31円アップするので、利用者10人の場合は310円、1日5~6時間程度勤務と考えると1人あたり150~200円弱、10人が働くとなると1日あたり1,500~2,000円程度、1カ月あたり30,000円以上のの人件費増となることが想定されます。

これを補填できるなにかがあれば良いですが、たんに事業所の負担が増えるだけであれば、より事業所運営を困難にさせ、事業継続を諦める=事業所閉鎖の判断を下すところがでてくるかもしれません。

※当コラムは別サイトに2017年10月に掲載した記事に加筆・修正したものです。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77