Last Updated on 2023年1月16日 by 菅間 大樹

今回は神奈川・稲村ケ崎で障害者専門の旅行サービス「ツアードゥ」を運営している株式会社ロジナスさんを訪問。ソフトウェア開発会社であるロジナスの代表の山本啓一さん、旅行業務取扱管理者としてツアードゥを取り仕切る典子さん夫妻にお話を伺いました。

‐ツアードゥを立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。

啓一さん
私たちには、自閉症の診断を受けている今年20歳になる子供がいます。
障害のある子供を持つ家族向けのツアー会社のことを思いついたのは今から10年くらい前のことです。息子が10歳のとき、私たちが住む逗子市に多額の寄付をした人がいて、そのお金が福祉団体などに配られることになりました。
お金の活用法を話し合った結果、「普段できないことをやろう」となり、自閉症のある子供がいる、私たちを含む6家族で海外旅行をすることになったんです。
それがとても楽しい思い出として今も残っていて、また、こういった需要があるのだから事業としても成り立つのではないかと考えていました。

典子さん
それまで私たちの家族では国内旅行の経験はあったのですが、海外に行くとなるとやはり不安が大きく、二の足を踏んでいました。
例えば海外旅行の場合は国内と比べて飛行時間の長さや、入出国の手続きに時間がかかることがネックになります。
障害の特性により長時間待つことが苦手だったりするのでその点を配慮してもらえるよう、空港に掛け合ってみることもあるのですが、そういった手間がかかることが多いと、そっちに意識が取られてしまい、楽しみにしていたはずの旅行に対する気持ちが薄らいでしまうことが多かったんです。
そこで、適切な手配ができる旅行会社があれば良いな、というのがツアードゥを立ち上げようと思ったきっかけです。

出迎えていただいた山本夫妻。取材中の掛け合いも息ピッタリでした

‐旅行サービスを開始するまでに苦労されたことはありますか?

啓一さん
旅行業を行うには「旅行業務取扱管理者」という資格を取得する必要があります。合格を目指して試験を受けたのですが私はあえなく不合格となり(苦笑)、代わりに妻が合格してくれました。2016年のことです。そして、2017年に旅行業登録をし、2018年12月に晴れて初のツアーを開催することができました。

試験は大変でした(苦笑)。昔から試験ごとは得意としていたのですが、旅行業務取扱管理者は出題範囲が広いのに苦戦した感じです。JRの料金計算から世界遺産や世界各国のお祭りに関する問題などが出るのですが、なかなか興味が持てずあえなく不合格に。

典子さん
一方、試験内容の向き不向きもあるのかもしれませんが、私はそれが楽しくて仕方なかったんです(笑)。
試験勉強をしている時期は、ちょうど子供の具合が悪く、私自身も精神的にやや不安定でした。そんな時に、夫が買ってきた旅行業務取扱管理者の試験対策の参考書などが机に山積みになっているのを見かけ、手に取ってみたら楽しくて気づいたらのめりこんでいました。
勉強は子供のことで不安だった私の心の支えになっていた部分が大きいと思います。それで乗りに乗って勉強を続け、気がついたら合格していた感じです。

ツアードゥのコンセプト

啓一さん
ツアードゥの名称ですが、「ドゥ」は、私が所属している神奈川県中小企業家同友会の「同」から取りました。実は北海道にある航空会社のエアドゥは、北海道同友会の会員たちが発足させた会社です。そこで、私もそれにならって「ツアードゥ」という名前をつけることにしました。

ツアードゥとして大切にしていることは、障害のある子供たちを旅行に連れていくというよりも、「障害のある子供とその親も含めてみんなで楽しんでもらう、リフレッシュしましょう」ということです。

子どもたちの障害の特性については、ツアーの申し込みの時点で細かくヒヤリングし、把握するようにしています。そのうえで受け入れ機関にしっかり伝えるようにしています。また、特性を伝えるだけでは受け入れ機関はイメージしにくいので、具体的にどのような準備をすれば良いのかなど、細かく特徴を伝えることを心掛けました。

ツアー参加者に配布されたパンフレット。イラストなどを多用し理解できるような作りです

初めてのツアーの行き先はグアム

典子さん
今回は3泊4日で、参加した子供たちは15歳から20歳でした。すべてが初めてのことでしたが、各方面で予想以上に理解を得られ、配慮していただけました。

特に印象に残っているのはグアム空港での配慮です。通常は入国手続きに2時間くらいかかるのですが、特別に配慮していただき、ほとんど待つことなく入国できました。
また、一番心配だったのは機内です。自閉症の子どもたちですので、何が起きるか気にしていたのですが、暴れることもなくおとなしく皆、座っていてくれて、「意外とやれるものだな」と手ごたえを得ることができました。

現地でのスケジュールについては、夜ご飯を一緒に食べること以外は基本的にそれぞれの自由行動にしていました。ただ、実際には日中もいくつかの家族は一緒に活動していたようです。それも、他の家族と一緒にすごすということ自体が普段とは違った出来事で、お母さんたちには良いリフレッシュとなっていたようです。

参加した父兄からの感想としては
「思っていたより子供が平気だったことに驚いた」
「親が勝手にブレーキをかけていた。自分もとても楽しめていた」
「子供がいるから旅行に限らずいろいろできないことが多い、と思っていたけど、そうではないことが分かった」
などの声をいただくことができました。
子供のほうも 「また行きたい」「今度はいつ?」と言っているようです。

‐ツアードゥの将来について教えてください

啓一さん
まずはツアー第2弾をできるだけ早いうちに実現したいと思います。
ツアードゥの事業が拡大していけば、人手が必要になってきます。そこで考えているのは、保護者の方たちに手伝ってもらうことです。旅行業務取扱管理者の資格を取ってもらったり、ツアードゥの仕事をしてもらったりすることで私たちも助かります。また、保護者の人たちも仕事をすることで、私と同じように育児に追われるだけでなく、普段とは違った日々が送れ、精神的にも安定するかな、と考えています。

ツアードゥの母体である株式会社ロジナスには10年ビジョンというものがあり、ツアードゥの事業は中期計画として、11期には30ツアーの実現を計画しています。
また、本業であるシステム開発の技術も活用し、ツアードゥの事業の付加価値を高めることも実現していきたいですね。

ロジナス会社概要

社  名:株式会社ロジナス
代 表 者:山本 啓一(やまもと けいいち)
住  所:〒249-0007 神奈川県逗子市新宿一丁目1番10号
TEL:03-6379-8081 FAX:03-6379-8084
HP:http://www.loginas.co.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/tour.do.jp/
メール:eigyo@logins.co.jp

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77