Last Updated on 2024年10月10日 by 菅間 大樹

せっかく入社した今の会社にいつまで務めますか?仕事内容や待遇、会社の将来性、障害配慮の度合いなどを理由に、転職するべきか悩む人も多いのではないでしょうか。ステップアップなど前向きな転職であれば良いですが、転職すべきでない人の特徴について解説します。

障害者の職場定着率は?障害種別により半数以上が退職することも

厚生労働省「障害者雇用の促進について 関係資料」よりhttps://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000657531.pdf

厚生労働省が2017年に発表した資料によると、障害者の職場定着率は障害種別により幅があることがわかります。発達障害者の入社一年後の職場定着率は最も高く71.5%で、知的障害者の定着率も68%となっています。

一方、発達障害を除いた精神障害者の入社一年後の職場定着率は49.3%で半数以上の人が退職していることになります。また、入社半年後の職場定着率も約60%で、精神障害者の定着は困難であることがわかります。

退職理由は障害種別を問わず「職場の雰囲気・人間関係」と「賃金、労働条件に不満」が上位に

少々古いデータになりますが、厚生労働省が2013年度に発表した精神障害者の離職理由では、「職場の雰囲気・人間関係」が33.8%で1位、次いで「賃金、労働条件に不満」が29.7%となっています。

厚生労働省「精神障害者の離職の理由(個人的理由)」よりhttps://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/18/backdata/01-01-01-38.html

身体障害者の離職理由についても「障害のため働けなくなった」「通勤が困難」といった理由以外では、「賃金、労働条件に不満」「職場の雰囲気・人間関係」が上位と、精神障害者と同様の結果があることがわかりました。

厚生労働省「障害者雇用の促進について 関係資料」よりhttps://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000657531.pdf

今の会社に不満がある場合は転職すべきなのか?

多くの人は職場の雰囲気や人間関係、待遇面に不満を持ち、退職を選んでいることがデータからも分かります。では、不満があるからと言って退職という選択をすることは本当に正しいのでしょうか。

もちろん、ストレスを抱えすぎて心身に影響を及ぼしたり、給与が低く生活面に支障をきたすようであれば環境を変えることが大切です。しかし、自身のキャリ・スキルアアップを目指すなど前向きな理由でなく、ちょっとした不満があるからといって転職を考えるのであれば、それは少し考えなおしたほうがよいかもしれません。

そこで「転職しないほうがいい」場合というのを考えてみましょう。

「転職しないほうがいい人」とはどんな人か?

あなたが転職を思い浮かべるのはどんな時でしょうか。「ここは自分には合わない」「もっと自分にあった会社や仕事がある」など一時の感情から転職活動を始めてしまうのは得策ではありません。そこで「転職しないほうがいい人」の例を以下に並べてみます。

1:ちょっとしたことで不満を持ち、すぐに転職が頭に浮かぶ人

仕事で少し嫌なことがあった、思ったような仕事ができない、などは、仕事をしていると日常的に発生する事柄です。それらが継続している場合は別ですが、仕事上の「ちょっとしたこと」を自分のなかで問題視し、「ここは自分がいるべきじゃない!」と現在の会社を辞めようと考えるのはやや早計です。

自身に問題がなかったのか、もっと改善できる点はなかったのか、将来的に良くなる可能性はあるのか、など冷静になって考えることが大切です。必要であれば上司などに相談し、改善を求めたり、自身の成長のためにアドバイスをもらったりすることも考えてみましょう。

2:障害受容がしっかりできていない人

次の会社に移るにしても、自身の障害受容がしっかりしているかが重要です。障害受容があまりできていないのであれば、転職を考えるよりも自身の障害について改めて見つめ直す必要があるでしょう。

現在の会社や仕事に関する不満はどこから来ているのか、それが解決できないのであれば転職という選択になるかもしれませんが、障害受容がしっかりできていない状態で転職しても、次の会社で同じような問題を抱える可能性が高いでしょう。

自身の障害受容ができていないと、次の会社にどのような配慮があるのか、また周囲にどのように障害を説明し、理解を得るのかが難しくなります。障害受容ができていれば次の会社の採用面接時などに明確に説明できますし、もしかしたら現在の会社でも改めて配慮事項などを整理し、改善につなげられるかもしれません。

3:今の会社で十分に実績や経験を積めていない人

仕事内容や給与に不満を抱えての転職を決意する人は少なくありません。しかし、少し思いとどまる必要があるのは「今の会社でやりきったのか」という点です。会社を移らなくても、今の会社でさらに経験を積んだり、スキルを伸ばしたりできるのかを今一度考えてみましょう。

仮に、今の会社で自身に合った仕事に就けていないとしても、それは経験になり、少なからずスキルアップにつながります。将来やりたいことが明確で現在の会社ではそれが叶わないなどであれば別ですが、「やりきった」感が薄いのであれば、まずは今の与えられた環境でベストを尽くしてみることをおすすめします。

一時の感情や短絡的な考えであれば転職しないほうがよいことも

以上のような人は「転職しないほうがいい人」かもしれません。現在の環境を冷静になって考え直してみたり、伸ばせるスキルなどがまだあると感じたりした場合は、今の会社にもう少しとどまることも検討してみましょう。すぐに転職を考えるのではなく、本当に転職がベターな選択なのかを、周囲に相談するなど時間をかけて決めても良いでしょう。

転職したからといって現状が改善されるかはわからない!

退職を決意し新しい環境を求めたとしても、次の勤め先が今以上に良いとは限りません。スムーズに転職先が決まり、給与・待遇が良くなり、人間関係にも恵まれるなどであれば良いですが、なかなか次の就職先が決まらず、年収も前職より下がってしまった、という例は障害種別を問わず十分ありうることです。

「今の環境から逃げ出したい」「転職したら今より良くなるはず」というのは楽観的過ぎるかもしれない、ということを頭に入れておきましょう。

1:年収アップだけが目的の転職は高リスク!

転職先の業界や職場が人手不足であっても、あなたが好待遇で迎え入れられるかはわかりません。十分なキャリアやスキルがあれば、次の職場での年収アップは望めるかもしれませんが、一方で、たんに「もっと高い給料を得たい」という理由だけの転職は、勤め先にも歓迎されません。

お金だけでなく、なぜその会社で働きたいのか、自身のスキルをどのように生かし、どうやって企業に貢献したいのか、など、お金以外の志望理由をしっかり固めておくことが大切です。

また、給与・待遇に関する交渉は簡単ではありません。自身で直接交渉するよりエージェントを介して希望条件を伝えるほうがスムーズな場合もあります。

2:退職理由や次の会社の志望動機に具体性がない

「年収アップだけが目的の転職は高リスク」とお伝えしましたが、一方で、キャリアアップとともに年収もアップさせたいという気持ちは、向上心の高さともいえます。楽して稼ぎたいというのではなく、転職先で与えられた仕事に意欲的に取り組み、スキルやキャリアを高めて結果的に年収アップにもつなげたいというのであれば大切です。そのような気持ちがある場合は、今の会社で実現できなかったこと、次の会社で叶えたいことなど、退職理由や志望動機をしっかり考えておきましょう。

退職理由や転職先の志望動機があいまいな場合、面接で不採用となる可能性が高まります。一方で、志望動機が具体的であれば、面接官に意欲が伝える可能性が高まります。企業研究をしっかりし、あいまいな動機のまま面接に臨まないよう気を付けましょう。

3:短期間での転職を繰り返している人は注意!

入社一年以内など、就職してあまり月日が経っていないうちに転職するのは一般的に好ましいといえません。応募先の企業からも良い印象を持たれないでしょう。勤め先の障害配慮に関する問題やパワハラ、障害の進行などが原因であれば別ですが、短期間で転職を繰り返している場合、面接官は「採用してもすぐに退職してしまうのでは」と感じます。

「ここも自分が求めている環境ではない」「いつか良い会社に巡り合えるはず」と転職を繰り返すのではなく、一つの会社である程度勤めあげることも大切です。

転職を成功させるためには何が大切か?

安易な転職はオススメしませんが、それでも転職を決めたのであれば、必ず成功させたいものです。では、転職を成功させるためのポイントはどこにあるのでしょうか?

1:就業条件や待遇、配慮事項などをしっかり確認する

現在の会社と比べて年収が上下するのかは大きなポイントです。納得したうえでの収入ダウンであればよいですが、入社してから就業条件が違った、というのであれば自身が苦しくなり、最悪の、早期の退職につながります。入社前にしっかり確認しておきたいところです。

また、産業医やカウンセラーが在籍しているか、どのような障害配慮事項があるかなどもよく確認しておきましょう。自身の障害に関する理由で転職を決めた場合、次の会社でも同じような環境だと、転職した意味が薄れてしまうかもしれません。

また、配慮を求めるばかりでなく、どのような環境であれば自身が仕事で安定したパフォーマンスを発揮できる、といったことを企業にしっかり伝えておきましょう。

2:社風や過去の障害者雇用状況なども調べておく

現在、障害のある社員が何人くらい就業しているのか、定着率や障害種別などもわかれば自身の働くイメージが浮かんだり、入社後に就業モデルとなるような人が見つかるかもしれません。一年以上勤務している社員がどの程度いるかなど、自身で聞くことが難しい場合は転職エージェントを通して確認すると良いでしょう。

3:過去の退職理由と自身の障害について分析する

キャリアアップを重ねている場合は別ですが、そうでないのなら、毎度、同じような理由で退職することは避けたいものです。短期間での退職が続いてしまっている場合は、なぜ早期退職となるのか、その理由をよく考えてみましょう。ちょっとした人間関係や仕事上の不満を言い訳にしていないか、自身のことを顧みず他責にして逃げていないか、など思い当たる事柄があれば、改める必要があります。そのうえで、やりたいことがある、キャリアアップなど前向きな理由で次のステージに進むための退職であることを明確にしたいところです。

また、退職理由でマイナス面だけを並べるのではなく、転職理由をポジティブに置き換えることも大切です。置き換えることはなかなか難しいので、転職エージェントの協力が得られると効果的でしょう。

もちろん、障害受容がしっかりできているかも見直しておきましょう。自身の障害上困難なことは明確にし、そのうえでどのような能力を発揮でき、キャリアアップをしていきたいのかが明確であれば、企業側も、あなたに任せたいと思う仕事のイメージがわきやすくなります。

4:自身がやりたいことについて深く考える

仕事内容に不満で退職する場合は、次の会社でどのような仕事ができるかよく確認しましょう。同様に、伸ばせるスキルやどのような経験が積めるかなども調べておきたいところです。

1人での転職活動は困難。転職エージェントに相談することからはじめたい

障害者雇用率のアップや人手不足が叫ばれるなかでも、簡単に転職できるとは限りません。退職を繰り返すことは「履歴書を汚す」ことになり、将来的に自身のキャリアを傷つけてしまう可能性があります。

また、転職活動を1人で進めることはなかなか難しく、思うように事が運ばないという場合もあるでしょう。自身がなぜ転職したいのか、次にどのような会社でどのような仕事をしたいのかなどを、エージェントと一緒に考えるのも1つの方法です。転職エージェントの利用を考えてみましょう。

転職エージェントの多くは無料で登録できます。障害に関する知識が豊富なエージェントが、あなたの希望条件や障害特性をふまえ、企業を紹介してくれます。

企業の紹介に限らず、志望動機のブラッシュアップや提出書類の添削、面接対策などさまざまなサポートがありますので、転職活動を成功させるためにも積極的に相談してみると良いでしょう。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77