全国調査で明らかになった「親なきあと」問題の実態

今回の全国調査は、「親なきあと」障害者の未来を支えるための全国調査〜「親なきあとノート」に関する調査〜と題し、2025年8月から12月にかけて、全国の障害者家族と支援団体を対象にインターネットおよび紙アンケートで実施されました。

有効回答数は家族237件、支援団体163件にのぼります。

1. 不安と準備状況の深刻な乖離

調査結果から、家族の85.5%が「親なきあと」に強い不安を感じているにもかかわらず、具体的な準備に着手しているのは57.0%にとどまることが明らかになりました。準備内容も「預貯金・保険」などの資金面に偏り、本人の意思や日常支援に関する情報を書き残しているのはわずか1割程度です。「何を書けばよいかわからない」(26%)、「書き方がわからない」(20%)といった戸惑いが、準備を進める上での大きな障壁となっています。

「親なきあとノート」を作成したことはあるか

2. 支援情報の「ブラックボックス」化

服薬、こだわり・パニック時の対応、身体介助の方法など、命に関わる支援情報の多くが親の記憶にのみ蓄積され、体系化されていない実態が判明しました。親の不在によって情報継承が途絶えることは、財産損失以上に当事者の生活基盤を崩壊させる重大なリスクとされています。支援団体でも「親なきあと」に関する相談は頻繁に寄せられている一方で、人的・財政的リソース不足から、受動的な対応にとどまらざるを得ない現状が浮き彫りになりました。

3. デジタル化への高い期待とセキュリティへの懸念

紙媒体の「親なきあとノート」に加えてアプリ化することについて、家族の75%以上が「有効」と評価しています。将来への備えとしてアプリに「関心がある」との回答は86%に上りました。期待される機能としては「親族・支援者との情報共有」(23%)、「情報の整理・共有のしやすさ」(23%)、「更新・保管のしやすさ」(20%)が上位を占めました。

「親なきあとノート」アプリへの関心度

一方で、「セキュリティ面の不安」(16%)、「データ消失のリスク」(15%)、「個人情報保護」(14%)への懸念も根強く、提供元の高い信頼性と強固なセキュリティ体制の整備が普及の鍵となるでしょう。

4. アプリ普及の鍵は「継続的なサポート体制」

アプリ利用促進に必要な支援策として、家族は「利用者への継続的なサポート体制整備」(28%)、「自治体・施設等との連携」(24%)、「専門家による情報管理アドバイス」(24%)を求めています。デジタル機器の操作に不安を持つ親世代への使い方講習会や、官民連携による伴走型サポートが不可欠であると考えられます。

専門家が語る「親なきあと」への備え

発表会では、行政書士・社会保険労務士で「親なきあと」相談室主宰の渡部伸氏と、一般社団法人親なきあと相談室関西ネットワーク代表理事の藤井奈緒氏が登壇し、質疑応答を行いました。

登壇者の様子

渡部伸氏は、「地域の支援者とつながること、本人を支えるチームを作ることが最も大切です。ノートからアプリになることで、書くのがおっくう、更新が面倒といった不便さが解消され、早い段階から『地域に託していく』という決心を後押しできることを期待しています。」と述べました。

藤井奈緒氏は、「障害のある娘を育てる母として、また専門家として『親なきあと』への備えの重要性を痛感しています。ノートを一人で書き上げるのは大変な作業ですが、同じ悩みを持つ仲間と集まり、笑いながら励まし合いながら少しずつ更新していけばよいのです。万が一何も準備が進まないとしても、人とのつながりさえあれば周りが助けてくれます。無理のない範囲で、やれることから始めていきましょう。」と、温かいメッセージを送りました。

デジタル技術が拓く「親なきあと」支援の未来

デジタル終活推進協議会は、日本財団(障害者の「親なきあと」サポートプロジェクト)と連携し、デジタル版「支援引継ぎカルテ(仮称)」の開発と制度化を推進しています。

Supported by 日本財団

親が長年蓄積してきた日常支援・療育に関する情報をICTで次の支援者(次世代)へ継承する仕組みを構築し、将来的には公的インフラ化を目指しています。2026年には、「支援引継ぎカルテ」に向けた要件定義と開発、そして「親なきあと」チャットボットの構築を進める計画です。

「親なきあと」チャットボットは、孤立しがちな障害当事者や家族が抱える具体的な不安に対し、専門家・家族・施設の知見を統合したAIチャットボットを相談窓口として整備するものです。24時間・匿名・低負担での情報アクセスを実現し、家族に寄り添う支援体制を構築することで、準備の早期化と不安の軽減、支援の平準化、そして制度改善への貢献を目指しています。

関連情報

今回の調査結果は、2026年4月以降にデジタル終活推進協議会のホームページで公開される予定です。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77