総務専門誌「月刊総務」を発行する株式会社月刊総務は、全国の総務担当者を対象に「障がい者雇用についての調査」を実施。回答から、8割以上の企業が障がい者雇用に課題を感じていることが分かりました。なかでも「業務の切り出し」「適性・能力が発揮できる仕事への配置」「従業員の障害への理解」といった点で多くの企業が苦慮している様子です。

障がい者雇用の課題 1位「業務の切り出し」、2位「適性・能力が発揮できる仕事への配置」、3位「従業員の障害への理解」

『月刊総務』読者、「月刊総務オンライン」メルマガ登録者らを対象に、2023年7月13日〜2023年7月24日に実施されたアンケートで、有効回答82社から得た結果では、障害者雇用の課題1位「業務の切り出し」、2位「適性・能力が発揮できる仕事への配置」、3位「従業員の障害への理解」となりました。また、障害者の受入部門としては、総務・人事・経理などの「管理部門」で、業務内容としては、内容は「事務」「データ入力」「軽作業」などであることがわかりました。

このことから、企業が障害者雇用を進める際には、自社にどのような仕事があるかの棚卸をすることや、当人の障害特性を見極めたうえで、どのような仕事を任せることができるかの判断などが重要であることが分かります。また同様に、受け入れの際に一緒に働く社員の障害理解も重要です。障害特性の理解や業務上の配慮など、事前に受け入れ研修を実施するなど準備の有無は、配属後のスムーズな社員間コミュニケーション、障害のある社員の定着率などに大きく影響してきそうです。

【調査結果 概要】(以下、プレスリリースより)

  • 8割以上の企業が、障がい者雇用に課題を感じている
  • 障害者雇用の課題1位「業務の切り出し」、2位「適性・能力が発揮できる仕事への配置」、3位「従業員の障害への理解」
  • 障がい者雇用をしている企業は約8割。一方で約半数の企業は障がい者法定雇用率を満たせていない
  • 最も多い受け入れ先部門は、総務・人事・経理などの「管理部門」
  • 約7割の企業が、障がい者従業員に本業に関わる業務を任せている。任せている仕事の内容は「事務」「データ入力」「軽作業」など
  • 8割が「障がい者従業員は本業に貢献できている」

【調査結果 詳細】

8割以上の企業が、障がい者雇用に課題を感じている

障がい者雇用に課題を感じているか尋ねたところ、「とても感じている」が61.0%、「やや感じている」が19.5%と、合わせて8割以上の企業が雇用に課題を感じていることがわかりました(n=82)。

また、どのような課題を感じているか尋ねたところ、「業務の切り出し」が68.2%、「適性・能力が発揮できる仕事への配置」が63.6%、「従業員の障害への理解」が57.6%と続きました(n=66/課題を感じている企業)。

障がい者雇用をしている企業は約8割。一方で約半数の企業は障がい者法定雇用率を「満たせていない」

現在、所属している会社では障がい者雇用をしているか尋ねたところ、「はい」が79.3%、「いいえ」が20.7%と、約8割の企業が障がい者雇用をしていることがわかりました(n=82)。

一方、所属している会社が障がい者法定雇用率を満たしているか尋ねたところ、「はい」が40.2%、「いいえ」が51.2%と、約半数の企業が障がい者法定雇用率を満たせていないことがわかりました(n=82)。

<法定雇用率を満たせていない理由>

・雇用に対して消極的である

・適した業務が少なく、納付金を支払しているため

・障がい者に適した業務を用意できないから

・給与面での区別が難しく業務が簡単になりすぎて他の社員との不満がたまりやすい。

・受入態勢が整っておらず、積極的な障がい者雇用が難しいため

最も多い受け入れ先部門は、総務・人事・経理などの「管理部門」。最も雇用が多い障がい者は「中度・軽度の身体障害者」。

また、雇用した障がい者の受け入れ部門を尋ねたところ、「管理部門(総務・人事・経理)」が72.3%、「製造部門」が26.2%、「営業部門」が16.9%と続きました(n=65/障がい者雇用をしている企業)。

<その他の受け入れ部門(一部抜粋)>

・倉庫・運送部門

・研究開発部門

・理化学試験部門(試験用器材の洗浄・備品組立等)

・清掃現場

また、どのような障がい者を雇用しているか尋ねたところ、「身体障害者(中度・軽度)」が63.1%、「精神障害者」が47.7%、「知的障害者(中度・軽度)」が43.1%と続きました(n=65/障がい者雇用をしている企業)。

約7割の企業が、障がい者雇用を積極的に行いたい

障害者雇用を積極的に行っていきたいか尋ねたところ、「とても行いたい」が26.8%、「やや行いたい」が42.7%と、合わせて約7割の企業が積極的に行っていきたいと思っていることがわかりました(n=82)。

<障がい者雇用を積極的に行いたい理由(一部抜粋)>

・時代の流れ、人材の確保

・法定雇用率を満たすことは重要であるため

・法定雇用率もさることながら、社員のマインドの改善につながるのではと

・D&Iの一環として重要(男女機会均等ばかりでなく障がい者とともに働く環境づくりも重要)

・共に働きやすい場を作ることは企業の社会的責任と考えるから

<障がい者雇用を積極的に行いたくない理由(一部抜粋)>

・費用対効果が悪いから

・少人数の会社であり、障がい者の雇用までは手が届かない。

・業務の切り出しと他の従業員への負担が大きいため

・環境的、業務的に受け入れ態勢が整っていない。障害の内容にもよるが、安全かつ適正にお願いできる業務がほとんどない。

約8割の企業が、障がい者への仕事の割り振りに難しさを感じているが、7割以上の企業が障がい者の適性・能力に合った仕事を割り振れていると回答

障がい者への仕事の割り振りに難しさを感じるか尋ねたところ、「非常に難しさを感じる」が33.8%、「やや難しさを感じる」が44.6%と、合わせて約8割の企業が仕事の割り振りに難しさを感じていることがわかりました(n=65/障がい者雇用をしている企業)。

一方で、障がい者の適性・能力に合った仕事を割り振れていると思うか尋ねたところ、「非常にそう思う」が18.5%、「ややそう思う」が56.9%と、合わせて7割以上の企業が適性・能力に合った仕事を割り振れていると思っていることがわかりました(n=65/障がい者雇用をしている企業)。

約7割の企業が、障がい者従業員に本業に関わる業務を任せている。任せている仕事の内容は「事務」「データ入力」「軽作業」など

障がい者従業員に、本業に関わる業務を任せているか尋ねたところ、「はい」が69.2%、「いいえ」が30.8%と、約7割の企業が本業に関わる業務を任せていることがわかりました(n=65/障がい者雇用をしている企業)。

また、任せている仕事の内容を尋ねたところ、「事務」が63.1%、「データ入力」が41.5%、「軽作業(運搬・梱包など)」が40.0%と続きました(n=65/障がい者雇用をしている企業)。

8割が「障がい者従業員は本業に貢献できている」

障がい者従業員は本業に貢献できていると思うか尋ねたところ、「とても思う」が38.5%、「やや思う」が41.5%と、合わせて8割の企業が本業に貢献できていると思っていることがわかりました(n=65/障がい者雇用をしている企業)。

<障がい者従業員により活躍してもらうために必要だと思うこと(一部抜粋)>

・一人一人の特性把握と、周囲の理解。

・定着しやすい環境作り

・個々の障がい特性への理解と、適性のある仕事配置

・障がい者の方がスキルアップできる研修制度を整えること

・まずは、大方針となる経営判断。あとはオペレーション設計。

障がい者従業員受け入れ後は、約7割の企業が「受け入れ部署がフォロー」。7割以上の企業が「フォローは十分にできている」と回答

障がい者従業員受け入れ後のフォローはどのように行っているか尋ねたところ、「受け入れ部署がフォロー」が69.2%と、約7割の企業は受け入れ部署がフォローしていることがわかりました(n=65/障がい者雇用をしている企業)。

また、受け入れ後のフォローを十分にできていると思うか尋ねたところ、「とてもできている」「ややできている」が合わせて75.4%と、7割以上の企業がフォローを十分にできていると思っていることがわかりました(n=65/障がい者雇用をしている企業)。

約半数の企業が障がい者雇用に関する助成金を「知っているが申請したことはない」と回答

障がい者雇用に関する助成金があることを知っているか尋ねたところ、「知っているが申請したことはない」が48.8%、「知っているが申請したことはない」が37.8%、「知らない」が13.4%という結果となりました(n=65/障がい者雇用をしている企業)。

総評

今回の調査では、障がい者雇用に対する課題が浮き彫りになった一方で、「適性・能力に合った仕事を割り振れている」「本業に貢献できている」などのポジティブな回答も多く集まりました。

課題としては業務の切り出しの難しさが挙がりましたが、これはまず、現場で各種業務が属人化していないかの確認が必要です。業務の見える化を進め、業務フローやタスクの標準化をしっかり行うことで、障がい者雇用においても任せる業務の割り振りが進みやすくなるでしょう。

2021年に障害者差別解消法が改正され、2024年4月より事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されます。ますます障がいへの理解が必須になるので、総務として社内理解も高めていく必要があります。

『月刊総務』10月号(9月8日発売)では「障がい者雇用」の最新動向や企業事例を紹介します。ぜひご覧ください。

  • 株式会社月刊総務 代表取締役社長  豊田 健一 プロフィール

株式会社月刊総務 代表取締役社長

戦略総務研究所 所長

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSCの代表理事、(一社)ワークDX推進機構理事、(一社)IT顧問化協会専務理事、日本オムニチャンネル協会フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。著書に『経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

※「働き方」「リモートワーク・テレワーク」「総務関連全般」等についても取材可能です。

株式会社月刊総務 会社概要

社名:株式会社月刊総務

代表:代表取締役 豊田健一

住所:〒101-0054 東京都千代田区神田錦町2-2-1 KANDA SQUARE 11F

設立:2018年8月

事業内容:

・日本で唯一の総務・人事部門専門誌『月刊総務』の発行

・バックオフィス業務の「困った」を解決する「月刊総務オンライン」の運営

・「総務セミナー」「総務サロン」の主催

・働き方改革関連コンサルティング 等

URL:https://www.g-soumu.com/

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77