財団設立の背景

ヘラルボニーはこれまで、国内外79の福祉施設、293名以上の作家とライセンス契約を締結し(2025年12月時点)、作家の表現を社会に発信してきました。事業の成長とともに、障害に対するイメージが少しずつ変化し、新たな価値観が社会に根付き始めているという声も聞かれます。

しかし、その一方で「アートを描く作家しか、ヘラルボニーの事業の対象にならないのでしょうか」という問いが、多くの障害当事者の家族から寄せられていました。

日本国内では、障害のある人の総数は人口の約9.2〜9.3%、およそ9人に1人と推計されています。人工呼吸器や経管栄養など、日常的に医療的ケアを必要とする「医療的ケア児」は約2万人。重度の知的障害と肢体不自由のある重症心身障害児・者を含め、24時間の介護や医療的支援が必要な家庭は増加傾向にあります。医療的ケア児の家族の6割以上が慢性的な睡眠不足や外出困難に悩み、希望する働き方を実現できている人は1割にも達していません(厚生労働省・三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社『令和元年度障害者総合福祉推進事業 医療的ケア児者とその家族の生活実態調査報告書』より)。

このような現状を受け、ヘラルボニーは既存の事業モデルでは十分に目を向けることができなかった「届かない場所」や「見過ごされる声」にも向き合うため、財団の設立に至りました。

創業者の想いと財団設立の原点

ヘラルボニー財団の創立には、株式会社ヘラルボニーの創業者である松田崇弥氏と松田文登氏が抱き続けてきた、「兄が幸せに生きる社会」を願う深い想いが原点にあります。

田園風景の中のベンチに座る3人の男性

松田兄弟の4歳年上の兄・翔太さんには、重度の知的障害を伴う自閉症があります。翔太さんは福祉施設でアート活動をしているわけではありません。このことから、「兄の幸せを願う想い」は、アートを描く才能の有無にかかわらず、社会で暮らすすべての障害のある人の尊厳が守られ、ありのままに生きることのできる社会の実現を指していることが分かります。

ヘラルボニー財団の設立日である1月7日は、松田崇弥氏と松田文登氏の兄・翔太さんの誕生日です。重度の知的障害を伴う自閉症のある翔太さんの存在は、ヘラルボニー誕生の原点であり、社名もまた、翔太さんが小学生時代に自由帳へ記した謎の言葉に由来しています。

創立者からのメッセージ

創立者である松田文登氏と松田崇弥氏は、財団設立にあたり、次のようなメッセージを寄せています。

「息子は寝たきりで、何もできないんです。
ヘラルボニーを応援しているけれど、悲しくなることもあるの」
活動していく中で、こんな言葉をいただくことがあります。
「生きているだけで尊い」「存在そのものに価値がある」
頭の中には、いくつもの正しそうな言葉が浮かびます。
けれど、声をかけてくださった方の、ここにいたるまでの時間や痛みを思うと、私たちはすぐに言葉を返すことができません。
兄が知的障害と診断されたとき、「社会は、この子を受け入れてくれるのだろうか」と、不安に思った母の話を何度も聞いてきました。
それは今もなお、多くの家族が誰にも見えない場所で抱え続けている現実です。
だから私たちは、正しく綺麗な言葉だけで、簡単に片付けたくないのです。
同時に、あきらめることもしたくない。
できる・できない。役に立つ・立たない。
社会が無意識のうちに引いてきた、その線の外側にあるとされる命を、それでも、圧倒的に肯定したい。
誰もが社会の一員として、当たり前にそこにいられるとはどういうことか。
生きることの豊かさとは、どんな瞬間に宿るのか。
その問いに、明快な答えはありません。
“障害福祉”という言葉には、簡単に整理できない矛盾や、痛みや、祈りが折り重なっています。
だからこそ、この財団は、ただ答えをだす場所ではなく、命そのものに想いをめぐらせ、立ち止まり、問い続ける場所でありたいのです。
生きることは、時に苦しく、報われないと感じる瞬間もある。
それでもなお、あなたとともに、この問いを抱え続けたい。
私たちがこの活動に、人生をかける理由です。

このメッセージからは、障害のある人やその家族が抱える複雑な感情や、社会の現状に対する真摯な向き合い方、そして「命そのものを肯定したい」という強い願いが伝わってきます。

今後の展望

ヘラルボニー財団は、これまで培ってきた広報・クリエイティブ・社会を巻き込むネットワークの力を活かし、行政・企業・市民をつなぐハブとして機能しながら、制度や慣習の外側に置かれてきた声に寄り添い続けます。障害のある人だけでなく、すべての人にとって「誰もが尊厳をもって生きられる社会」とは何かを問い続けることで、ありのままの生が肯定される社会の実現を目指し、長期的な視点で活動を展開していく方針です。

株式会社ヘラルボニーについて

株式会社ヘラルボニーは、「異彩を、放て。」をミッションに、障害のイメージ変容と福祉を起点に新たな文化の創出を目指すクリエイティブカンパニーです。障害のある作家が描く2,000点以上のアート作品をIPライセンスとして管理し、正当なロイヤリティを支払うことで持続可能なビジネスモデルを構築しています。

自社ブランド「HERALBONY」の運営をはじめ、企業との共創やクリエイティブを通じた企画・プロデュース、社員研修プログラムの提供、国際アートアワード「HERALBONY Art Prize」の主催など、アートを軸に多角的な事業を展開しています。2024年7月には、海外初の子会社としてフランス・パリに「HERALBONY EUROPE」を設立しました。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77