過去20年で最悪の数字を記録

東京商工リサーチが1月30日に発表した資料によると、昨年倒産した障害者福祉事業者の数が前年比30.4%増の30件にのぼったとのことです。この数字は過去20年で最多になります。その背景には、小規模事業者の販売不振や放漫経営、人手不足があるとされています。

中でも目立つのが、「安易な参入」です。
2013年に13年施行された「障害者総合支援法」以降、就労継続支援事業所、就労移行支援事業所は激増しました。
特に就労継続支援事業所A型に参入する民間企業が増えたのもこの時期になります。
一部の事業所は雇用契約を結ぶことで得られる給付金や補助金を頼りにした運営をしたり、労働の実態がなかったりし、「悪しきA型」という言葉も生まれました。

かじ取りが難しい福祉事業所

障害者福祉事業の中で就労移行支援事業所と就労継続支援事業所A型の運営は特に難しく、就労者を出すという本来の役割を達成するたびに、代わりの利用者を入れなくてはいけない就労移行支援事業所は、定員割れになりやすいという実情があります。
定員オーバーで利用待ちとなっている人気の事業所であれば良いですが、そうではない事業所にとっては、就労者を出すことは、実は経営の観点からみると、売上的にはマイナス要因となりかねません。もちろん、就労者が出ることは翌年以降の加算対象となりますが、目の前の数字だけを見ると、多少なりとものネガティブ要素となります。

就労継続支援事業所A型においては、就労移行支援事業所よりも非常にリスクのある経営を続けることになります。
A型の場合、利用者と雇用契約を結ぶ必要がありますので、最低賃金の支払いが発生します。そのため固定費+人件費以上の金額を売り上げ続けないと赤字になります。A型事業所が安定的な売り上げを記録するのは一般の企業が売り上げを伸ばす以上に困難です。
福祉事業所の場合は支援者の配置が一定以上求められるため、一般の企業のように営業や広告宣伝に力を割くことがなかなかできません。また、経営者やスタッフも営業活動や売り上げを伸ばすことに長けているとは限らず、利用者支援等で手一杯になりがちです。
売上をほぼ間違いなく計算できる取引先(親会社など)がないと、事業として大きくなることできず、利用者(障害者)に賃金を払い続けることが難しくなります。
(言い換えれば、親会社やグループ会社などからの定期的な発注がある事業所は毎月の工賃が見込まれるため、結果的に利用者も安定しやすくなる傾向にあります)
売り上げが伸びないのにスタッフを抱えることは困難ですので、倒産数の増加は起きるべくして起きたといえなくもないでしょう。
ちなみに倒産した事業所には、障害者を対象としたグループホームの運営なども含まれます。こちらも、障害福祉における適した人材の採用・育成の不足や、方針・計画のない安易な経営参加などが一部要因といえます。

関連記事

<中日新聞>障害者、働く場ピンチ 新型コロナで作業所の半数が減収
https://www.chunichi.co.jp/article/67389

<上毛新聞>障害者優先調達 7町村、実績ゼロ 18年度
https://www.jomo-news.co.jp/news/gunma/society/217780

<山陰中央新報>障害者の就労支援施設にも影響 注文減で作業なくなる
http://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1590804488479/index.html

<西日本新聞>一時は閉店の話も…「障害者の働く場守る」レストランの挑戦
https://news.yahoo.co.jp/articles/207b4a87022eb9b6289b2b81b2920c19aeae9c37

<西日本新聞>ビュッフェから注文制へ 障害者の雇用を守るレストランの挑戦
https://news.goo.ne.jp/article/nishinippon/bizskills/nishinippon-1000613901

A、B型事業所に就労目標値が設定されることに

そんななか、厚生労働省では、2021年から3年間の障害福祉の基本指針が社会保障審議会障害者部会で検討されています。
福祉施設から一般就労への移行等についても審議され、今後はA型、B型事業所の利用を経て一般就労に移る人の数に目標値を設けることになりそうです。

方針としては、2023年度までにA型は19年度実績の1.26倍以上、B型は1.23倍以上とする方針です。
福祉計画は今後作成されますが、就労継続支援事業所には、これまで以上に就労者を出すことに注力する必要があります。
一般企業へのステップとしての位置づけという、本来の目的に立ち返った審議・方針ですが、居場所的、ただそこで働き続けているということで止まってしまっている事業者にとっては運営方針の見直しが迫られることになりそうです。
急増した障害福祉事業所の適正化た審議ではありますが、さらなる倒産、撤退を引き起こすことになるかもしれません。

2020年4月28日にNHKが以下のようなニュースを伝えました

障害者福祉サービス全国900事業所が休業

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/34874.html

コロナウイルス感染症の影響で、全国の約900の障害者福祉サービス事業所が休業したとのことです。知事から休業要請のあったデイサービスなどの「通所型」とショートステイなどの「短期入所」の施設が休業に入ったとの報道です。

これと同様のことが、就労継続支援AおよびB型事業所、就労移行支援事業所も緊急事態宣言以降に起きていることが予想されます。

多くの事業所はオフィス型というかたちで訓練を行っており、室内で十分なスペース、換気などを確保することは容易ではありません。また、利用者の通所リスクもあります。障害特性上、体調を崩しやすかったり、体力的に十分でなかったり、精神安定に支障をきたしたりすることもあります。
そのようなことから通所を避ける利用者も増え、また施設も通所を強く進めることはできません。結果として通所者数が下がり、それは施設の報酬請求に影響を及ぼします。

就労継続支援事業所の場合は特に深刻で、通所者数が減ったり施設を一時閉鎖したりすることは、事業所が請け負っている作業を行えないことにつながります。利用者の工賃減はもちろん、事業所の売り上げも下がります。これも事業所の運営に影響を与えることになります。

在宅での支援に切り替え、可能な限り運営を続けている事業所もあるようですが、すべての事業所が十分な支援ができるとは限りません。

新型コロナウイルス感染症の影響は今後も続くことが予想されます。すでにいくつかの就労継続支援事業所は、閉所やA型からB型への変更を決断したところもあるようです。
様々な業種が打撃を受けていますが、なかでも飲食店や製造業の経営悪化は長引くとされ、事業の縮小などを余儀なくされている企業も少なくありません。飲食店や製造業は、一部業務を就労継続支援事業所に発注しているところもあり、企業の事業縮小は、就労継続支援事業所の作業数減となり、それは利用者の工賃低下を意味ます。もちろん、就労体験を兼ねてレストランなどを運営している事業所も、一時的に店舗を閉めたり、営業時間を短縮したりするなどコロナウイルス感染症の影響を受けながら苦しい運営を続けています。

福祉事業所の在宅支援が可能に

自治体によっては、福祉事業所の在宅支援を認めているようです。
通常、通所をすることで利用記録となるところを、メール、電話等で一日数度の支援を行えば利用とみなすなどとなっているようです。
これにより、閉所している事業所も在宅支援をすることで一定程度の報酬を確保できることになります。

ただ、苦しいのは、新規の利用者を増やすことが難しい点ではないでしょうか。事業所が利用者を増やすには、生活支援センターなどへの営業からはじまり、事業所内外での説明会、体験通所を経て正式な利用に至るのが一般的なパターンです。

現在は営業活動ができないことに加え、事業所で説明会を開くことができません。オンラインで説明会を開くことは可能ですが、体験通所などは行えず、アセスメントの作成にも苦慮するところです。しばらくは利用者増が見込めないことが想定され、体験通所などが通常通り実施できるようになるのは秋口になるとみている事業所もあります。

政府の2次補正予算案に福祉事業所支援策も

令和2年度 厚生労働省第二次補正予算(案)の概要
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/20hosei/dl/20hosei03.pdf

厚生労働省第二次補正予算が発表されています。
具体的には、感染防止策への支援、在宅支援等への補助金の支給、新型コロナウイルス感染症の影響で売り上げ減となった事業所への利用h差工賃の確保などを目的とした予算になっています。

○ 介護・障害福祉分野における感染拡大防止等への支援 3.3億円
介護・障害福祉分野における感染防止等の取組を支援するため、事業所等の職員が医療的見地からの相談を受けられる窓口の設置、感染対策マニュアルの作成及び感染症対策の専門家による実地指導や研修、業務継続計画(BCP)の作成支援、職員のメンタルヘルス支援等を行う。

○ 放課後等デイサービス事業所による代替的な支援の推進 11億円
放課後等デイサービス事業所が、新型コロナウイルス感染症の影響で利用者が通所できない場合に行う代替的な支援(電話や訪問等)を行った際に発生する利用者負担について、補助を行う。

○ 就労系障害福祉サービスの活性化等福祉サービス提供体制の確保 22億円
生産活動が停滞し減収となっている就労継続支援事業所に対し、その再起に向けて必要な費用等を支援し、利用者の賃金・工賃の確保を図るとともに、在宅生活が長くなった障害者等の職場復帰・再就職に向け、障害者就業・生活支援センターの生活支援体制を強化する。
※ 介護人材については、人手不足が更に深刻化していることから、既定予算を活用して、即戦力として期待される離職した介護人材の呼び戻しを促進する再就職準備金貸付事業を拡充する。

また、以下のような支援も実施されるようです。

障害者就労継続支援事業A型、B型事業所への一時金が、1事業所当たり最大50万円になるようです。新型コロナウイルスの影響で生産活動収入が相当程度減った事業所に限り、支出分の補てんとして受け取ることができる模様です。

予算額は16億円で、一時金の使い道は「生産活動の再起に要する費用」(厚労省障害福祉課)で、家賃などの固定費、設備のメンテナンス費用、生産活動に特化した職員の人件費などが想定されています。

企業の解雇・雇止めの影響も

新型コロナウイルス感染症による各企業の経営悪化が今後、各福祉事業所に影響を与えるかもしれません。

経営が厳しくなる業種は、感染拡大の影響で非正規社員を中心に解雇や雇い止めをはじめています。当然、安易な解雇は許されるものではありませんが、有期雇用・パートアルバイト契約が多い障害者はその対象となることは否定できません。

新型コロナウイルス感染症の影響で経営が悪化した企業は、採用数を絞る可能性があります。実際、来期の新卒採用を見送ることを決めた大手企業もあります。
企業の多くは新卒・中途採用から採用計画を立てるため、障害者の採用契約はどうしても後回しになります。また、新卒・中途採用数を絞る企業が障害者採用数はそのまま、もしくは増加となるとは考えにくいのが現状です。
これまで障害者雇用数は全国的に伸びを見せていましたが、今後数年は鈍化もしくはマイナスとなることもあるでしょう。
障害者雇用をひかえる企業が増えるということは、支援事業所から一般企業に就職する障害者の数も減ります。支援事業所からの就労決定者が少なくなると、将来的に事業所の報酬に影響を及ぼすことになります。

たとえば、就労移行支援事業所は利用者を一般企業に就労させると、報酬が加算されます。また、その利用者の就労後のサポートとして就労定着支援を行うことでも報酬が加算されます。
それが、一般就労をした利用者が会社を辞めた場合、報酬は加算されなくなります。また、そもそも就労する利用者がいなければ、事業所としては将来的な報酬加算の機会を得ることはできません。

報酬単価の積み上げは就労移行支援事業所にとって売り上げの天井を押し上げることになります。それが、単価が変わらないままであれば売り上げは伸び悩んだままとなり、職員にとっては昇給などへの還元が見込めないことにつながります。
企業の業績が回復するには容易ではなく、数年を要することが想像されます。一般的に、障害者雇用については依然、後回しとなることが予想されるため、それが現実となると、就労や定着支援による報酬加算に多くの期待はできないことになるでしょう。
※報酬加算等については厚生労働省のページをご覧ください

<NHK NEWS WEB>障害者福祉サービスの休業が倍増 神奈川 新型コロナ影響
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200519/k10012436241000.html

【厚生労働省】平成30年度障害福祉サービス等報酬改定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202214.html

人員配置の指定基準が経営を逼迫?

福祉事業所には、職員配置基準があります。※就労移行支援は6:1以上など
これは、簡単には人員減などが行えないことを意味します。

一般企業であれば、固定費削減の手段の一つとして、一時解雇や休業要請などを行うこともできなくはありません。しかし福祉事業所の場合、職員配置基準を満たしていないことは報酬減につながります。なお、介護サービスについては厚生労働省が「柔軟に対応する」と発表しています。

「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて」のまとめ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000045312/matome.html

ただ、配置基準を満たさなくても報酬減の対象にならないことが決まっても、配置人数減は、十分な支援ができないことにつながります。
また、緊急事態宣言が解かれ、コロナウイルス感染症が終息を迎えても利用者が即、戻ってくるかは不透明で、かつ通所や支援による報酬(一般企業でいう売り上げ)が事業所に入ってくるのは当然先のことになりますので、かじ取りは難しいものになります。

これまで、福祉事業所の倒産は安易な参入や、ビジネス的なスタンスの欠如などが主な要因とされてきました。しかし今後は一般企業同様、コロナウイルス感染症の影響を原因とする事業所の閉鎖、倒産が福祉事業所でも増加する可能性があります。
国のさらなる支援への期待もありますが、速やかに利用者の在宅支援体制を整えたり、事業所継続のための融資を実施したりするなど、福祉事業所も福祉サービス提供法や経営判断が迫られることになりそうです。現状、右肩上がりの福祉事業所はほぼないでしょう。しかし、この状況下でスピード感・柔軟性を持って対応できた事業所が「アフターコロナ」でも素早い立て直しを実現するのかもしれません。

以下、関連ニュース

※7/11追加<西日本新聞>コロナ禍…苦境に立たされた障害者事業所 公的支援も乏しく
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/622922/

※7/1追加<福祉新聞>あんまや鍼灸営む視覚障害者 新型コロナで運営が窮地に
http://www.fukushishimbun.co.jp/topics/24141

<京都民放web>障害者就労B型事業所に工賃助成 府・京都市が創設、障害者団体の要望実る
https://www.kyoto-minpo.net/archives/2020/05/31/post-24874.php

<カナコロ>休止相次ぐ障害者施設 「福祉成り立たぬ」関係者危惧
https://www.kanaloco.jp/article/entry-362773.html

<yomiDr./ヨミドクター(読売新聞)>3万円の給料が払えない! 新型コロナ 障がい者就労支援施設にも深刻な打撃
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20200521-OYTET50005/

<毎日新聞>障害者の働く場苦境「工賃払えない恐れ」 コロナで受注激減 感染防止策の難しさもhttps://mainichi.jp/articles/20200519/k00/00m/040/126000c

<毎日新聞>障害者の働く場苦境「工賃払えない恐れ」 コロナで受注激減 感染防止策の難しさも
https://mainichi.jp/articles/20200519/k00/00m/040/126000c

<ニコニコニュース>【事例】在宅訓練で学びをとめない! 障害者就労移行支援manaby
https://news.nicovideo.jp/watch/nw7215325

<日本経済新聞>障害者支援チャレジョブ、通所できぬ利用者を在宅ケア
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58828700X00C20A5L72000/

<時事ドットコムニュース>障害者の労働環境に変化 手作りマスクに活路も―新型コロナ
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020050900288&g=soc

<Yahoo!ニュース>WEB会議システム使い自宅で訓練(富山県)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200504-00000313-knb-l16