Last Updated on 2023年10月3日 by 菅間 大樹

障害福祉・介護・保育のまるごと包括ケアシステムをめざすユーアイ村

ユーアイ村は、「障害福祉、介護、保育(子育て)」という3分野のまるごと包括ケアシステムを目指す社会福祉法人です。

障がい者の支援や自立、高齢者の介護、子育て、貧困など、地域には様々な課題があります。そして、それらは決して単独のものではなく、複雑に絡み合っていることが多いのではないでしょうか。ユーアイ村では、障がい者だけ高齢者だけといった区別された福祉ではなく、支援が必要なすべての人が安心できる地域社会を目指しています。

大洗鹿島線「東水戸」駅から徒歩1分、駅前通りをまっすぐ行くと見えてくるのが「まるごとカフェ」です。まるごとカフェのイートイン・カフェでは障害のある方が働いており、お惣菜やお弁当を提供しています。また、従来別々だった「障がい者・高齢者・子育て」の支援センターを統合した「よろず相談」窓口も作りました。ここはユーアイ村の玄関であり、地域と福祉をつなぐ役目も果たしているというわけです。

そして周囲には、障がい者のためのグループホームや就労支援・活動支援の場、高齢者のための特別養護老人ホームやケアプランセンター、保育園など、3分野を網羅する施設が建ち、「村」のようなコミュニティを形成しています。 今回は、そのなかのひとつ、ユーアイファクトリーについて紹介しましょう。

日中の活動をおこなう場 ユーアイファクトリー

ユーアイファイクトリーは、「障がい福祉サービス事業所(生活介護)」と呼ばれる福祉施設です。市役所の区分としては「中度・重度」の主に知的障がいのある方が通ってきて、日中の活動をおこなっています。

午前中は作業、午後はレクリエーションや外出などの活動が中心ですが、これをやると決まっているわけではありません。それぞれの特性や得意分野に応じて、自由に選択できるようになっています。例えば、箸袋を折る作業をしている人がいるかと思えば、刺しゅうをしている人がいる。その隣では黙々と絵を描いているといった具合に、みなさんバラバラです。

ユーアイファイクトリーでは、「できるだけ自分で選択して、主体的に行動し、楽しく生活すること」を目指しています。自主的な行動が苦手な方は、スタッフが一緒にやってみようと促しながら、本人の好きや興味を探るのだそうです。

❝選んで楽しむ❞活動をサポートする「タスカルカード」

タスカルカードは、障がいがある方の「苦手」を補うサポートツールです。すべての作業や活動がイラストになっていて、裏にはマグネットがついています。プログラムは種類ごとに色分けされているため、工賃が発生する作業なのか、自己を高める学習なのかといったことも一目瞭然です。

それぞれが自分で好きなプログラムを選ぶことで、主体的な活動を後押ししています。1日の流れが可視化されるため、「次になにをするのかわからない」といった不安解消にも効果的です。

また、ユーアイファイクトリーを利用する方は、言語でのコミュニケーションが難しいケースも少なくありません。気に入った作業を続けたい方もいれば、毎回違う作業を選択したいという方もいるでしょう。わかりやすく図案化されたタスカルカードを使うことで、意思を伝える側も受け取る側も楽になるというわけです。

ユーアイファイクトリーで楽しそうに過ごしていらっしゃる方が多い理由のひとつは、タスカルカードのようなちょっとした工夫が活きているからかもしれません。

「ちょっと変わったおもしろさと楽しさ」から経済的価値を創出するTシャツアート

ユーアイファイクトリーでは、利用者の方の創作活動や芸術活動といった多様な表現活動を広く社会に発信しています。

なかでも積極的に取り組んでいるのは、Tシャツをキャンバスに見立てた作品「Tシャツアート」です。

カラフルなイラストが描かれたもの、もしゃもしゃの毛糸がうねうねと踊っているもの、びっしりと路線図が敷き詰められたもの、ビーズのリボンが何本もさがるもの、などなど。Tシャツにしたことで形が揃って、それぞれの個性と魅力がより際立っています。

「Tシャツ」だと考えると、驚いてしまうかもしれません。でも、「ヘンテコだけど素敵」なものばかり。見ているだけで楽しくて、なんだか心が軽くなる作品ばかりです。

Tシャツ作りの取り組みかたにも個性が出ています

Tシャツアートは、隔年で発表イベントもおこなわれています。2023年の開催は5月4日~5日の2日間。「まるごとカフェ」の軒下で、80点以上のTシャツアートが風に翻っていました。

Tシャツアートの作成では、みなさんそれぞれの方法で表現活動を進めます。頭の中に描いたものをそのまま貼り付けるように表現する方、どんどん表現し続けられる天才肌の方、少しずつコツコツと成果を積み重ねていく方などなど。

ひとりで作成する方がいる一方で、スタッフと一緒に作りたいという方もいます。「何が好きなの?」「車」「どんな車?」そんな会話をしているうちに手が動き始めて、Tシャツアートができあがっていくんです。

自分の好きや得意を表現する過程も楽しんでいるから、どのTシャツアートシャツもキラキラと輝いているのでしょう。

どんどん広がるTシャツアートの活躍

障がいがある方の生み出した作品には、見る人を驚かせたり笑顔にさせたりするパワーがあります。ちょっと変わったおもしろさと楽しさがあって、見ているだけでわくわくしませんか。「また見たい。もっと見たい」と、気づけばファンになっていたという人も多いのではないでしょうか。

Tシャツアート展は、ユーアイファイクトリーの自主開催で始まりました。次第にファンが増え、今ではユーアイ村のイベントとして地域の注目を集めています。

そして、2023年はユーアイ村を飛び出して、「どうしようもなくTシャツが好き…そんなTシャツ好きにおくる展覧会!【Tshirts Complex vol.11】」(2023年5月13日~6月11日開催)に参加しました。Tshirts Complexは、イラストレーターや陶芸家、刺繍作家、写真家など多様なジャンルのアーティストが作るTシャツを展示・販売するイベントです。きっとここでもファンを増やしたことでしょう。

活躍の場を広げているTシャツアート。「見るだけではなく、着てみたい!」という人は、ユーアイ村のまるごとカフェで購入可能です。オンラインショップもありますよ。

<YOU I FACTORY ONLINE SHOP>

https://youifactory.base.shop/

スタッフの小さなストレスを減らす記録システム「ケアコラボ」

ユーアイファクトリーを利用している方は、約40名。送迎車の運転や給食の調理を担当しているスタッフを除くと、支援スタッフの数は18名ほどです。

利用者十数人ずつでひとつのユニットを組み、それぞれに担当スタッフがつきます。コミュニケーションを取るのが難しい方や、担当者が変わることで不安になってしまう方もいるため、担当者は毎回同じです。天候や環境に影響を受けやすかったり、持病があったりと、毎日見ているスタッフだからこそ気づく変化や予兆も多いでしょう。

気づいたことがあれば、1日の活動内容と合わせて日報に書き込みます。丁寧に記録された情報の共有は、利用者にとって過ごしやすく安全な環境を作るためにも重要です。また、利用者の家族と交わす連絡帳や毎月発行する活動新聞の「素」にもなります。だから、こまめに正確に記録することが大切なのです。

スマホやタブレットからもアクセス可能になり業務効率がアップ

ユーアイ村では、日報管理にケアコラボというシステムを導入しています。ケアコラボの特徴は、スマートフォンやタブレットといった端末で利用できるという点です。

ケアコラボ導入前も、日報を共有できる管理システムを導入していましたが、利用はPCに限られていました。起こったことを正確に記録するためには、とりあえず手元のメモに記入して後から転記をするか、利用者の方をサポートしている最中にすきをみてPC前に移動するしかありません。

ケアコラボなら、目の前のできごとを手元の端末ですぐに入力できるため、「とりあえずの手書きのメモ」 は不要です。また、必要な機能だけがアイコン表示されているため選択しやすく、パッと開いてサッと記録してパッと閉じるという一連の動作もスムーズで「小さなストレス」を減らせます。記録後すぐに共有できるため、スタッフ間での申し送り時間も短縮できるようになりました。

ユーアイファクトリーでは、スタッフが考えた「タグ」をつけてから本文を記入しています。例えば、【行動記録】【ヒヤリハット】といった具合です。タグをつけることで重要度が一目でわかり、後から検索もしやすくなります。現場から生まれたルールを決めることで、より使いやすくなるというわけですね。

こちらの画像は一例なので、実際のご利用者やユーアイ村とは関係ありません。

ケアコラボに入力した記録は、予め登録したご家族に公開することも可能です。利用者の活動している様子など、ご家族との情報共有にも使いたいところですが、そのためにはいくつかの課題があります。最も大きな課題は、利用者のご家族には高齢者やデジタル機器が苦手な世代も多く、利用方法を浸透させることが難しいというものです。こればっかりは、簡単には解決しそうにありません。

地域と切り離されていないユーアイ村だからできること

障がい者支援、高齢者支援、子育て支援、福祉は誰もがお世話になる可能性があります。しかし、普段は、まったく考えたことがない、目の前で見たことがないから別世界のように感じているという人が多いのも現実です。

ユーアイファイクトリーのスタッフには、様々な社会課題の解決を目指すNPO法人と関わる仕事をしていたという人がいます。支援活動のサポートをしているのに、「そういえば支援の対象になっている人たちに会ったことがない」と思ったのをきっかけに一念発起。社会福祉を学んだのだから、それを必要としている人のところに行ってみようと転職を決めました。ユーアイ村を選んだのは、地域と切り離されていない「地域まるごと福祉」に興味を持ったからだそうです。

ユーアイ村は、地域との接点を大切にしています。ユーアイファイクトリーでも、駅前清掃や花壇のお世話や保育園での交流を実施していて、今後は地域の小学校との交流も企画中です。

ユーアイファイクトリーが考える子どもとの交流の場は、何かを教える場ではありません。ちょっと触れあったり、お互いに別々のことをしたりしながら、一緒の空間にいることを大切にしています。それが、福祉と地域が地続きだと気づく種になるでしょう。交流の思い出がなんとなく記憶に残っていて、大きくなって障がい者を見かけたときに「そうだね。そういう人もいるよね」って感じてもらえたら、もうその試みは成功です。小さな花がたくさん咲くことを期待しています。

地域全体で一日中楽しめる「ユーアイ村まつり」

毎年10月に開催される「ユーアイ村まつり」は、ユーアイ村と地域とが一体となって楽しむビッグイベントです。

鹿島臨海鉄道「東水戸」駅からユーアイ村までの道が歩行者天国になって、様々な出店やパフォーマンスブースが並びます。ユーアイ村の各施設で作った作品や小物の販売、射的やパターゴルフなどのゲームコーナー、保育園の子どもたちによる発表も人気です。ユーアイファイクトリーでは、刺し子ワッペンやオーナメント、ポストカードなど利用者の方が作った作品を販売しています。そして、夜には打ち上げ花火も!大人も子どもも1日中楽しめるのがユーアイ村まつりです。

「駅前をきれいにしてくれている人たちって、誰なんだろう」

「Tシャツアートを生で見てみたい」

「地域まるごと福祉って、どんな空間なんだろう」

どんなきっかけでもいいから、ちょっとでも興味を持ってくれたら嬉しいとスタッフの方がお話してくれました。

「障がいを完全に理解しなくてもいい。配慮とか、難しいことは考えなくてもいい。ああこんな感じもあるんだと体感してくるだけでいいんです。いつでも、誰でも、遊びに来てくれたら嬉しいです!」

2023年のユーアイまつりは、10月21日の日曜日に開催されます。 お近くの方、ちょっと足を伸ばせば行けそうな方、是非遊びに行ってみてはいかがでしょうか。

【ユーアイグループ】

運営:社会福祉法人 ユーアイ村

・本部事務局

・ユーアイの家:特別養護老人ホーム(入所・ショート・デイサービス)

・ユーアイケアプラン:居宅介護支援事業所・障害者相談支援

・水戸市東部高齢者支援センター

・ユーアイホーム:障害者グループホーム(共同生活援助)

・ユーアイキッチン:障害福祉サービス事業所(就労継続支援B型事業)

・ユーアイほいくえん:認可保育所

・ユーアイ子育て支援センター:子育て支援拠点事業

<ユーアイファクトリー>

共生型サービス事業所(障害:生活介護・介護:通所介護)

〒310-0827 茨城県水戸市吉沼町1843-3

https://you-i-mura.com/disabilities/factory/

・株式会社 ユーアイデザイン

https://www.you-i-design.jp

ケアコラボとは

ユーアイグループで利用している「ケアコラボ」は、ケアコラボ株式会社が提供しているケア記録・支援記録システムです。日々の生活の様子や支援の記録をご利用者中心に集め、ご利用者に関わるすべてのスタッフとご家族に共有することができます。支援記録を共有することにより、スタッフ同士だけでなく、スタッフとご利用者、スタッフとご家族の相互理解を深めることができます。

商号:ケアコラボ株式会社carecolLabo Inc.

事業内容:ケア記録システム「ケアコラボ」のサービス提供(導入支援・開発・運用)

住所:〒145-0071 東京都大田区田園調布2-14-5

メール:info@carecollabo.jp

設立:2015年11月11日(介護の日)

ケアコラボについてはこちら:https://page.carecollabo.jp/referral/?referrer=find-good

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77