【内容情報】(出版社より)

近年、インターネットを介したネットワーキングなど、人と人とのつながりを重視した状況を指して、ソーシャル時代という言葉がよく使われている。ソーシャル時代を肯定的にとらえる傾向は、人と人とのつながりの促進が、人の幸福につながるという楽観論に基づいている。
しかしながら、社会福祉学や社会学をはじめ、関西大学人間健康学部で研究が進められている諸領域が明らかにしているように、人と人がつながることはよいことばかりとは言えない。そうした状況を反映して、実際に、ソーシャル時代という言葉が使用され続けている状況と並行して、「ポスト・ソーシャル時代」という言葉も使われている。


奇しくも2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の拡大にともなうさまざまな影響は、ポスト・ソーシャル時代の性質を深化させている。人と人とが触れ合うことが称揚される社会が、それを抑制することが求められる社会に急変した。大学の遠隔授業の例だけでなく、これまでの社会のいろいろなやり方が通用しなくなり、それに対してある程度、対応できる人・組織と、対応がかなり困難な人・組織との格差が拡大し続けている。まさに社会は「アノミー」状況を呈している。
いわゆるコロナ禍に対する考え方や感じ方、立場は多様であり、合意形成が困難な状況にある。社会や「ソーシャルなもの」、つまりさまざまな人と人とのつながりに関する既存の考え方や方法が通用しなくなるなかで、混乱の要因を探し出して排除しようとする雰囲気も生まれている。
本書では、この「ポスト・ソーシャル時代」という言葉で、「ソーシャル時代」に軽視されがちな、地域福祉など草の根の福祉実践をはじめとして、ネットメディアによる「身体溶解」時代にこそ必要な「こころ・からだ・くらし」の人間健康学の意義について示すことができればと考えている。本書の第1部において明らかになるように、人間健康学は、「こころ・からだ・くらし」の学として、福祉に関する横断的な視点を提供してくれる。

さらに、そのような横断的な視点は、第2部で浮かび上がるように次世代の子どもを育てる視点や、第3部で明らかになるように、次世代の職業的/日常的「専門家」を育てるような縦断的な視点を示してくれる。横断的かつ縦断的な視点をもつ福祉実践は、人と人とが容易につながることが困難なポスト・ソーシャル時代において、その有効性が試されることになる。言い換えれば、現世代から次世代へと継承・展開していくポスト・ソーシャル時代の福祉実践の可能性について考察するものである。

  • 発売日 : 2021/3/29
  • 単行本 : 186ページ
  • ISBN : 978-4873547312
  • 出版社 : 関西大学出版部
  • 言語 : 日本語

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Written by

今井 靖之

findgood編集者、ライター。

大手電機メーカーで半導体電子部品のフィールドアプリケーションエンジニア、インターネットサービスプロバイダのプロモーションやマーケティングに従事。以後フリー。

身内に極めて珍しい指定難病者を抱える。

神奈川県川崎市在住。サブカルヲタク。「犬派?猫派?」と聞かれたらネコ派、猫同居中。