【内容情報】(出版社より)
「この卓越した本を読む者は、真に読むということの驚異を感じずにはいられない。……本書は読書についての本だが、私がこれまで出会ったどんな本とも違う。」(S・クーシスト「本書に寄せて」より)
◆『白鯨』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』『?心は孤独な狩人』などの傑作小説を6人の自閉症者とともに読んだ読書セッションの記録。自閉症者は「心の理論」を持たない、想像による遊びができないといった偏見は早々に覆されるが、それだけではない。自閉症者たちがカテゴリー化される以前の「感覚」を通して物語と交わることで、並外れて鮮烈な読書体験をしていることが明らかになる。
◆おのおの独特の症状や経歴をもつ彼らの、物語への感受性はときに痛切とも言えるほど鋭敏だ。たとえば『白鯨』を読む第一章では、言葉を話さない自閉症の青年ティトが、どの登場人物よりも鯨に自分を重ねながら小説世界を「泳ぎ」、その感覚を詩に綴りはじめる。『白鯨』のモチーフはやがて、ティトと著者の生活全体を呑み込んでいく。
◆著者は近年の脳科学的知見にもとづいて、「神経多様性(ニューロダイバーシティ)と読書」というテーマをかつてないほど掘り下げている。そこでは、自閉症者と定型発達者、双方の読み方の特性が互いを照射し合い、読むという行為の無辺の可能性が浮かび上がる。だからこそ、本書の読後に強く実感されるのは、多様な脳と交感する文学の大いなる力だ。
- 出版社 : みすず書房
- 発売日 : 2021/6/18
- 単行本 : 376ページ