【内容情報】(出版社より)
失語症の研究の歴史が、私たちに教えてくれること。
本書の目的は、失語症を鍵として、人間の言語の本質を言語学、心理学、哲学、あるいは人類学といった広い視点から紐解いていくことです。
失語症は明らかに人間の言語の本質に関わる問題であり、人間の精神活動、さらには人間存在の根底を支える能力に対する脅威です。失語症からの回復をめざすリハビリテーションの実践には、失語症というものをどのような本質の問題として理解するのかという基礎知識が欠かせません。
本書ではこれまで主として脳・神経科学的あるいは神経心理学的な機能研究によって理解が深められてきた失語症に対して、「日常言語」、すなわち人間のコミュニケーション行動を言語がどのような形で成立させているのかという観点から光を当てることによって、よりいっそうリハビリテーションの実践に近接した知識を提供しようというものです。
失語症のリハビリテーションに携わる言語聴覚士はもちろんのこと、失語症を有する感覚・運動障害のリハビリテーションに携わる理学療法士、作業療法士にとっても必読のテキストです。
❖目次❖
【第1章】フロイトとベルクソンの失語症論
・失語症研究,多様な視点から論じる必要性
・フロイトの失語症論-脳局在論批判-
・ベルクソンの失語症論-『物質と記憶』・第2章における議論-
【第2章】ヤコブソンの言語論と失語症論-言語学からみた失語症-
・ヤコブソンの失語症への取り組み
・ヤコブソンの音韻論研究
・音韻論研究からみた幼児の言語発達と失語症者の言語の退行
・言語学者ヤコブソンの失語症論の特徴とそれが意味するもの
・ヤコブソン、その学問的影響の広がり
【第3章】ヴィゴツキーの言語論-言葉とその働きを考える-
・ヴィゴツキーの人間精神に対する基本姿勢-社会文化的接近-
・思考することと話すことの間の相互性
・ヴィゴツキーの心理学理論の根幹にあるもの:文化的発達論と心理システム論
・ヴィゴツキーの層理論
・具体的な存在としての人間:ヴィゴツキーの具体心理学と情動の理論
【第4章】ルリヤの心理学研究と失語症研究
・具体の世界に生きる人たち:認識の文化比較研究
・ルリヤの言語研究:言葉の発達とその障害への新しい接近
・脳損傷者の手記と脳の機能連関
・ルリヤの前頭葉シンドロームと随意行動の傷害
・ルリヤの理論と実践の融合:ロマン主義科学
【第5章】バフチンの対話論-社会的活動としてのことば-
・バフチンの言語論:生活の中の生きたことば
・バフチンの生きたことばへのこだわり:ソシュールのラング論批判
・社会的な活動としてのことば
・バフチンの対話におけることば的意識論と身体論
・バフチンの自己・他者論
・改めて日常生活の中のことばと対話を考える
【第6章】日常場面での失語症者のコミュニケーション
・失語症のコミュニケーション的アプローチ
・日本における失語症のコミュニケーション研究
・グッドウィンのフィールド研究:相互行為と会話の組織化
・失語症者の日常におけるコミュニケーション行動:グッドウィンの研究
・失語症者の日常の会話
・ユニークな失語症のコミュニケーション訓練
・失語症のコミュニケーション研究のさらなる展開に向けて
【第7章】日常言語の世界とその言語活動
・日常言語学派の言語研究
・オースティンの発話行為論
・発話行為論の限界:発話媒介行為と約束の問題
・日常的言語活動を基礎にした失語症の言語訓練
・ウィトゲンシュタインの日常言語研究
・日常言語学派から示唆される失語症者のコミュニケーションとその在り方
・ヤコブソンからシルヴァスティン、そしてハンクスへ
・本章のまとめとして
- 出版社 : 協同医書出版社
- 発売日 : 2023/1/31
- 単行本(ソフトカバー) : 220ページ