研究の背景と目的
介護施設で発生する院外心停止の際には、心停止が起こる前に119番通報が行われるケースが一定数存在します。しかし、「心停止前通報(pre-arrest call)」と「心停止後通報(post-arrest call)」の違いが、その場に居合わせた人(バイスタンダー)による心肺蘇生(CPR)の実施率や、その後の生存率にどのような影響を与えるかは、これまで十分に解明されていませんでした。
この研究では、通報のタイミングと時間帯が、介護施設における心停止の転帰に及ぼす影響を明らかにすることを目的としています。
研究方法と主な発見
研究チームは、2017年から2022年までの全国データを活用した後ろ向きコホート研究を実施しました。対象となったのは、介護施設で発生した65歳以上で、心停止が目撃され、かつ心臓が原因と推定される院外心停止27,222例です。
心停止の目撃時刻が通報時刻より後だった場合を「pre-arrest call」、目撃時刻が通報時刻と同時またはそれ以前だった場合を「post-arrest call」と定義し、1か月生存率とバイスタンダーによる心肺蘇生の実施率を主要な評価項目として分析しました。
分析の結果、全体の39.6%(10,789例)がpre-arrest callでした。しかし、pre-arrest callの場合、バイスタンダーによる心肺蘇生の実施率が43.3%と、post-arrest callの84.4%と比較して大幅に低いことが示されました。
さらに、1か月生存率を見ると、日中に発生した心停止が8.0%と最も高く、夜間に発生した場合は3.3%と最も低いことが明らかになりました。多変量解析では、夜間発生(調整オッズ比0.44)とpre-arrest call(調整オッズ比0.78)が、それぞれ独立して生存率の低下と関連していることが示されました。


研究が示唆することと今後の展望
この研究結果は、介護施設における心停止対応において、「早期の救急要請」だけでは必ずしも転帰の改善に繋がらない可能性を示唆しています。通報後も継続して消防指令員による口頭指導を受けられる体制の整備や、特に夜勤帯の体制強化が、救命率向上の鍵となることが考えられます。
新潟医療福祉大学大学院の外山元さんは、「心停止例では早期119番通報が重要と考えられがちですが、介護施設では通報の“タイミング”や“夜間帯”が救命に影響する可能性が示されました。今後は、夜勤帯でも確実に心肺蘇生が開始される体制整備や、通報後の継続的な口頭指導を現場で実装できる仕組みの検討を進め、介護施設における心停止の転帰改善につなげたいと考えています」とコメントしています。
原論文情報
Toyama G, Takei Y, Omatsu K, Watanabe Y. Impact of EMS call timing on bystander CPR and survival after cardiac arrest in care facilities. Scientific Reports. Published online 09 Feb 2026. doi: 10.1038/s41598-026-39110-5



