Last Updated on 2025年12月26日 by 菅間 大樹

生活保護費引き下げ「違法」判決、当事者の声から見えた日本の貧困の現在

2025年6月、最高裁判所は2013年から段階的に行われた生活保護費の引き下げを「違法」と判断しました。この画期的な判決を受け、格安スマホサービス「誰でもスマホ」を提供する株式会社アーラリンクは、生活保護受給者525名を対象に緊急実態調査を実施。「日本の貧困の現在」を当事者の声から浮き彫りにしました。

調査の背景と目的

生活保護は、憲法で保障された「健康で文化的な最低限度の生活」を送るための国民の権利です。しかし、制度を取り巻く社会の誤解や偏見は根強く、必要な支援につながれない人々も少なくありません。今回の調査は、最高裁判決という大きな転換期において、当事者の生の声に耳を傾け、その実態を社会に伝えることを目的としています。

今回の調査に回答した生活保護受給者525名の年代構成は、70代以上が21%、60代が36%、50代が20%と、高齢層が大きな割合を占めました。30代以下も11%存在し、幅広い年代が生活保護を受給していることがわかります。

生活保護を受けることになった理由

生活保護受給理由の棒グラフ

生活保護を受けることになった理由として最も多かったのは「自身の病気・ケガ」(35%)で、次いで「身体的・精神的な障害」(28%)、「失業・事業失敗」(16%)と続きました。これら3つの理由で全体の約79%を占めており、多くの受給者が病気や障害、失業といった「不可抗力」によって生活保護に至っている実態が明らかになりました。

社会には「怠けている」「働けばよい」といった誤解や偏見が存在しますが、調査結果はそれとは大きく異なる現実を示しています。生活保護は、まさに「社会の最後の砦」として必要不可欠な制度であることが改めて浮き彫りになりました。

  • 「働き続ける体力が限界で、生活が立ち行かなくなりました。」(30代/一人暮らし)

  • 「うつ病で離職し、住まいも失うところでした。」(50代/施設)

  • 「介護離職で収入が途絶えました。」(40代/一人暮らし)

  • 「病気と孤立でどうにもできませんでした。」(60代/一人暮らし)

生活保護費の充足度と不足点

生活満足度の棒グラフ

生活保護費について「まったく不十分」「不満足」と回答した人は約3人に1人にのぼり、「最低限の生活」を維持することすら困難な状況が明らかになりました。特に住居費、食費、医療費、通信費の不足が深刻で、物価高騰の影響を強く受けていることがうかがえます。憲法が保障する「文化的な最低限度の生活」という理念との乖離が進んでおり、基準額の見直しや生活支援策の強化が急務であると言えるでしょう。

  • 「家賃でほとんど消えてしまいます。」(50代/一人暮らし)

  • 「子どもの服を買えません。」(40代/家族)

  • 「食費が足りず栄養が偏ります。」(60代/施設)

  • 「余裕は一切ありません。」(20代/一人暮らし)

やむを得ず行った行動

やむを得ずとった行動の棒グラフ

食事の量を減らす、暖房を極端に我慢する、通院を先延ばしにするなど、生命や健康に関わる行動を「やむを得ず行った」人が多数存在します。生活を維持するために「身体を削る選択」を迫られており、これは制度本来の目的である「健康の保持」に反する状態です。受給者の行動は、生活保護制度が機能不全に陥りつつある実態を浮き彫りにしています。

  • 「1日1食にした時期があります。」(40代/一人暮らし)

  • 「子どもの学習費を削りました。」(50代/家族)

  • 「売れるものはすべて売りました。」(30代/一人暮らし)

  • 「薬を間引いて飲んだことがあります。」(60代/施設)

仕事への意欲

仕事への意欲の円グラフ

「働きたい」と答えた人が60%にのぼり、「生活保護は働かない人が受けるもの」という社会的偏見を大きく覆す結果となりました。働けない主な理由は、病気・障害、精神的負担、環境要因などであり、「働きたくない」のではなく「働けない」状態にあることが示されています。就労支援の充実や環境整備が、受給者の自立を大きく後押しする可能性を秘めています。

  • 「働きたい気持ちはありますが、病気が妨げます。」(20代/一人暮らし)

  • 「いつか社会復帰したいと思っています。」(50代/一人暮らし)

  • 「就労支援が身近にあれば挑戦できます。」(40代/施設)

  • 「働ける自信がまだありません。」(30代/一人暮らし)

不正受給報道への感情

不正受給報道への感情の棒グラフ

不正受給はごく一部であるにもかかわらず、センセーショナルな報道が偏見を助長し、3人に1人の受給者が「自分が疑われてつらい」と感じています。このような偏見は、当事者の尊厳を傷つけるだけでなく、本来支援を必要とする人々が制度の利用をためらう要因にもなっています。生活保護をめぐる報道姿勢と社会意識の改善が強く求められます。

  • 「一部の人のせいで、全体の印象が悪くなります。」(40代/一人暮らし)

  • 「誠実に暮らしているのに疑われます。」(60代/施設)

  • 「虚しくなってしまいます。」(50代/一人暮らし)

  • 「もっと正確な報道を望みます。」(30代/一人暮らし)

生活保護費引き下げ「違法」判決を受けて

判決への受け止めに関する棒グラフ

最高裁判決によって「違法」と認定された生活保護費の引き下げ。当事者の受け止めは一様ではなく、今後の改善を期待する声がある一方で、不安を抱える人や判決を知らない人も一定数存在します。この結果は、制度の運用改善だけでなく、情報格差の是正や相談支援体制の強化が必要であることを示しています。判決を契機に、生活保護制度が本来の機能を取り戻し、当事者が安心して暮らせる環境の整備が求められます。

  • 「判決を知り、やっと声が届いた気がしました。」(50代/一人暮らし)

  • 「改善につながってほしいが、本当に変わるのか不安です。」(40代/一人暮らし)

  • 「行政への期待はありますが、自分の生活が良くなるかは分かりません。」(60代/施設)

  • 「判決そのものを知りませんでした。支援情報がもっと届く仕組みが必要です。」(30代/一人暮らし)

調査を終えて

今回の調査は、最高裁判決をきっかけに、生活保護の実態と当事者の声を社会に届けるために実施されました。生活保護は、困窮する人々の命と尊厳を守る重要な権利です。しかし、偏見や誤解により、必要な支援につながれない人がいます。

調査を実施した株式会社アーラリンクは、通信料金の滞納などによりスマートフォンを持てない人々が、再び社会とのつながりを取り戻すことを支援する「リスタートモバイル市場」の第一人者として事業を展開しています。同社が提供する「誰でもスマホ」は、クレジットカードや審査なしで契約できる格安スマホサービスで、通信に困っている人々の生活をサポートしています。

株式会社アーラリンクは、通信と調査を通じて、誰もが安心して制度を利用できる社会づくりに貢献していくとしています。今回の調査結果が、生活保護制度への理解を深め、より良い社会の実現に向けた議論のきっかけとなることが期待されます。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77