Last Updated on 2025年12月22日 by 菅間 大樹

現代のPTAに求められる対話の場

目黒区教育委員会が推進する家庭教育講座は、保護者が家庭教育のあり方を学び、共に成長する場として設けられています。しかし近年、子育てのテーマはスマートフォン利用や性教育など多様化し、保護者間でも価値観の違いから合意形成が難しくなっているという現状が見られます。

インクルーシブデザインについてのプレゼンテーション

このような背景から、油面小学校PTAは、従来の講師から「正解」を聞く講演会形式ではなく、多様な意見を認め合いながら最適解を模索するプロセスが必要だと考え、CULUMUのインクルーシブデザインの手法を導入しました。

多様な視点から未来の運動会を構想

ワークショップには、保護者と校長先生を含む19名が参加しました。デザイン思考のプロセス(多様性の認識→課題定義→アイデア創出)を用いて、「多様な人が楽しめる地区運動会」をテーマにワークが進められました。

「言葉を使わない」協力ワークで、前提の違いを体感

導入のアイスブレイクでは、チームごとにレゴブロックで一つの家を作るワークを実施。ただし「会話禁止」というルールの下、参加者それぞれに他人には秘密の「個別のルール」が与えられました。同じ目標がありながら個々の前提が異なることで生じる摩擦を疑似体験し、互いの背景を知ろうとする姿勢の重要性を共有しました。

レゴブロックで共同作業をする参加者

ペルソナになりきり、潜在的な課題を発見

本編では、CULUMUが独自開発した『インクルーシブペルソナカード』を活用。「車いすを利用する祖母」「日本語が不慣れな保護者」「聴覚過敏のある児童」など、具体的な人物像を設定しました。チームで徹底的に当事者視点に立って対話を行うことで、自分たちの視点だけでは見過ごしていた「困りごと」を可視化し、解決のためのアイデアを書き出していきました。

「競争」から「共生」へ。新たな価値の提案

不登校の小学生をペルソナにしたアイデア出し

各チームからの発表では、「勝敗を競うだけが運動会ではない」という視点から、「応援すること自体を競技にする」「休憩スペースをエンターテインメント化する」など、従来の枠にとらわれないユニークなアイデアが次々と生まれました。参加者全員で多様な参加のあり方を議論し、「誰一人取り残さない」ための具体的なアクションプランを共創しました。

参加者の声と得られた成果

目黒区立油面小学校の衣非まさ子校長は、今回のワークショップについて、「『今ここにいる子どもたちにとって、どんな運動会が相応しいのか』という原点に立ち返る貴重な機会となった」とコメントしました。

目黒区立油面小学校 校長 衣非まさ子 先生

議論を通じて、「競技に参加することだけが全てではない」という視点が得られ、無理に参加せず応援で頑張る子がいても良い、そんな多様な参加のあり方を肯定できる学校でありたいという思いが共有されました。また、「個にとって良い配慮が、結果としてみんなにとっても分かりやすい・学びやすい環境になる」というインクルーシブな考え方を再認識できたとのことです。

参加した保護者からは、「様々な人の立場に立つことで、多角的に物事を見ることが社会全体を良くすることにつながると実感した」「一人で考えていたら、これほどスムーズにアイデアは出なかった。他者と話し合うことで自分にはない視点に気づき、チームでアイデアを形にする達成感があった」といった声が聞かれました。

今後の展望:教育現場・企業におけるDE&I推進をサポート

CULUMUはこれまで、多くの企業でインクルーシブデザインを通じた製品・サービス開発支援を行ってきました。今回の小学校での実践は、この手法が「製品開発」だけでなく、「コミュニティ形成」や「組織の意識改革(マインドセット)」にも極めて有効であることを実証しました。

今後もCULUMUは、教育機関のPTA活動や教員研修、また企業のDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)推進やチームビルディングに対し、『インクルーシブデザインワークショップ』の提供を拡大していく予定です。

インクルーシブデザインスタジオ CULUMU について

CULUMU 支援メニュー

CULUMUは、高齢者や障がい者、外国人、マタニティ、Z世代・α世代など多様なユーザーや当事者と共創するインクルーシブデザインスタジオです。ビジネスコンサルタント、UXデザイナー、UIデザイナー、プロダクトマネージャー、エンジニアなど多数のスペシャリストが在籍し、様々な事業開発の支援が可能です。

5,000団体以上の非営利団体との繋がりを通じた調査パネルを基に、これまでリーチが困難であった人々を含む多様な人々とマッチングし、定性的な調査を提供しています。このサービスは「2024年度グッドデザイン賞」を受賞しており、その実績が評価されています。

詳細については、以下のCULUMUウェブサイトをご覧ください。
https://culumu.com/

株式会社STYZについて

株式会社STYZは、「民間から多種多様な社会保障を行き渡らせる」をミッションに掲げ、3つの事業を展開しています。

  • ドネーションプラットフォーム事業:非営利セクターを中心に新しい資金流入を促進。

  • インクルーシブデザイン事業:企業課題と社会課題の解決を共に目指す。

  • システム開発&エンジニアリング事業:次世代的なテクノロジーで人間ならではの体験を創造。

これらの事業を通じて、企業、行政、NPO、個人との媒介となり、社会の課題解決を促進しています。

株式会社STYZの詳細については、以下のウェブサイトをご覧ください。

今回のワークショップに関する詳しいレポートは、以下の記事でも紹介されています。
https://note.com/culumu/n/n1d314f36d761

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77