『就労支援フォーラムNIPPOIN 2023』基調講演登壇者:野添葉音さん インタビューvol.1

2023年12月16日(土)、17日(日)の2日間、東京・渋谷にて日本財団が主催する「就労支援フォーラムNIPPOIN 2023」が開催されました。

就労支援フォーラムNIPPONは2014年に始まり、今年で10回目を迎えます。毎回、全国の障害者就労支援事業者や企業、自治体・行政、医療・研究・教育機関、そして障害当事者やその家族などが、それぞれの視点で捉えた課題について活発な議論をおこなってきました。

コロナ禍を脱し、久しぶりの対面開催となった今回のフォーラムで、ひときわ注目を集めた登壇者がいます。基調講演に登壇した高校3年生(当時)の野添葉音さんです。

野添さんは、障がい者を取り巻く環境をまとめ、基調講演で発表しました。調べていくうちに抱いた違和感についても熱く語り、会場に集まった当事者・関係者たちから好評を得ています。

そこで、findgoodでは、野添さんにフォーラムのこと、障がい者支援を調べ始めたきっかけ、これからのことについてお聞きしました。

就労支援フォーラム基調講演のこと

就労支援フォーラム基調講演のこと

―――フォーラム登壇お疲れさまでした。実際に講演を経験して、どうでしたか

今は、終わったということについて、とにかくホッとしています。正直、あまり実感はないのですが、それでもあの場に立ったことが、自分の今後の人生において大きな分岐点になったと感じています。

私は、これまで障がい者就労にかかわる事業所や企業に出向き、お話をうかがってきました。でも、発表する場を持っていなかったので、さまざまな思いや疑問といったことは、ずっと私ひとりの中にあったんです。だから、フォーラム登壇という機会をいただいて、初めて、誰かに伝わったと感じました。

―――これまでは、どのような活動をしていましたか

障がい者を取り巻く問題を考える学生団体に所属しています。普段の活動は、ディスカッションや啓発活動などで、それをSNSで発信しています。

でも、障がい者問題の中でも「雇用」に関しては、私が個人的に知りたくて調べ始めたことなので、学生団体での活動とは別にひとりで動いていたんです。

―――そういった活動が、どのようにフォーラム登壇につながったのでしょう?

きっかけは、私が日本財団さんに連絡したことです。そのとき、対応してくださったのがフォーラム主催の竹村さん(日本財団公益事業部 シニアオフィサー 竹村利道氏)でした。

最初は、日本財団さんがおこなっている多角的な支援事業の中に障がい者支援事業があることを知り、障がい者就労のロールモデル事業運営や就労支援フォーラムについてお話をうかがいたいと思って連絡したんです。また、障がい者を取り巻く環境や一部の福祉施設に対して、私自身が違和感を覚えているということもお伝えしました。

そうしたら、実際にお会いしたときに、竹村さんが「就労支援フォーラムであなたの想いを伝えてみないか」とおっしゃって。そこから、私が話す場を作ってくださるって話になったんです。でも、当初のお話では発表時間は10分くらいというお話だったので、まさか基調講演になるとは思いませんでした。

―――思っていたよりも大役になったのですね

はい。でも、とても嬉しいお話だと思いました。それに、これまでにお話をうかがった方々への恩返しができるのではないかという期待もあって、すぐに「やります」と答えたんです。

私は、この活動を始めて、これまでに本当にいろいろなところにお邪魔してお話をうかがってきました。さまざまな分野の方にお会いしたんですが、どこにうかがっても、大人の方たちが仕事中に時間を作って、私の疑問に対して丁寧に答えてくださいました。本当にたくさんのことを教えていただけたと感謝しています。

だから、フォーラムでの登壇は、私がうかがったお話やお気持ちを代弁できるチャンスだと思いました。

―――基調講演の準備は、大変だったのではないですか

とても大変でした。登壇が決まったときはやる気に打ち震えていました。でも、いざ原稿を書くとなったら、まったく書けなくなってしまったんです。

私は、自分なりに興味や疑問を持って、いろいろなことを調べたり、仮説を立てたり、当事者の方々にお話をうかがったりしてきました。でも、その一方で、私自身は第三者だということも自覚しているんです。

現場のことも知らないのに物申していいのだろうか、私のしていることは偽善ではないのだろうかという葛藤が大きくなり、ひとりで準備している間ずっと不安を抱えていました。

―――なるほど。葛藤と戦いながら準備を進めていたんですね。実際に基調講演をおこなってみてどうでしたか

会場の方たちがあたたかくて、ホッとしました。

講演はとても緊張しましたが、終わったときに盛大な拍手が聞こえて、「ああ、認めてもらえたんだ」と感じました。誰かに認められることを目的として活動してきたわけではないのですが、「私がやってきたことは、ムダではなかったんだな」と感じることができて嬉しかったです。

でも、私が移動するたびに「本当によかったです」と拍手してくださったり、「すごいね!」「高校生なのにがんばってるね!」なんて声をかけてくださったりすることは想定外だったので、本当にびっくりしました。
突然、大勢の人に褒められたので、正直なところすこし戸惑ってしまいました。

フォーラムでは、ご自身も驚くほどの大役を立派に果たした野添さん。高校生ならではのまっすぐな視点、率直な疑問に会場全体が大きく揺さぶられ、賛同と賞賛の声があがっていました。野添さんは、戸惑ってしまったとのことですが、あの日の会場の大人たちは野添さんの登場に確かな希望を見いだしたことと思います。若い世代がここまで興味を持ち、調べてくれたということを頼もしく思った人も多かったでしょう。次回は、野添さんが障がいに興味を持ったきっかけについて、お聞きします。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
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