「福祉とあそぶ」をテーマに活動する夫婦デザインユニット

HUMORABO(ユーモラボ)は前川 雄一さんと前川 亜希子さん夫婦によるデザインユニット。
「福祉とあそぶ」をテーマに、デザイナー夫婦ならではの男女それぞれの視点で、社会と福祉の楽しく新しい関係を探るためユニットとして活動をしています。

広告業界でデザインの仕事をしていた雄一さんと、テキスタイルデザインの仕事をしていた亜希子さんが福祉の仕事に関わるようになったのは2007年から。
障害のある人達のアート活動の支援やマネージメントを行うエイブルアート・カンパニーhttp://ableartcom.jp/top.phpからの依頼で、障害のある人が関わる商品を集めたショップ「HUMORA」のディレクションを担当したことが始まりです。

HUMORA

福祉商品の企画、販売を通じて、その魅力と課題を実感し、2015年にデザインユニットHUMORABOとしての活動をスタートします。

HUMORABOの名前は「humor-ユーモア」と「human-人」の掛け合わせ。
その名の通り、HUMORABOの仕事には、人の手を通じて生み出されるものの温かみや揺らぎ、そして楽しく遊ぶ感覚、ユーモアが感じられます。

products

「NOZOMI PAPER Factory」

HUMORABOの代表的な活動の一つが、NOZOMI PAPER Factory www.nozomipaperfactory.com/
宮城県南三陸町にあるNOZOMI PAPER Factoryは、全国や地域から届く牛乳パックや再生紙を手漉きの紙「NOZOMI PAPER®」として生産、併せて「NOZOMI PAPER®」を使った商品の制作をするファクトリーで、福祉事業所「のぞみ福祉作業所」を母体にしています。

その立ち上げから現在までHUMORABOがディレクションを務め、深く関わってきました。

nozomi paper factory

2011年に発生した東日本大震災。
震災直後から、エイブルアートカンパニーが東北を中心とした被災地の福祉事業所のケアや仕事作りなど支援を始めていました。
(参考:http://wawa.or.jp/supports/000200/)

その活動の一環で、翌2012年宮城県南三陸町にある生活介護事業所「のぞみ福祉作業所」の復興支援にお二人が関わることになったのが最初のきっかけでした。
当時はまだHUMORABOとしてではなく、雄一さんと亜希子さんはそれぞれデザイナーとして復興支援プロジェクトに関わっていました。

震災の津波により全壊したのぞみ福祉作業所は、プレハブの仮設事業所で新たなスタートを切ることになります。
震災前は内職などの作業しか行っていなかったのですが、復興支援として紙漉きの機械をいただいたことで、「紙漉き」の活動がスタートしました。

様々な個性の人たちが集まる事業所にとって、多くの工程によって作られる「紙漉き」は、どんな人でも作業に関わることができる親和性の高いものでした。

復興支援プロジェクトに参加していた雄一さんが最初に依頼されたのは、その紙漉きを生かして作る商品をデザインしてほしいというもの。亜希子さんは企業から復興支援のための商品を作ってほしいという依頼を受けていました。
そこで生まれた最初の商品がモアイのタオルです。

モアイタオル

のぞみ福祉作業所のメンバーが描いたモアイ像(南三陸にあるチリ政府から送られた本物のモアイ像!)をモチーフにしたタオルに、紙漉きで作られたモチーフがつけられています。

モアイのキュートなモチーフが好評となり、タオルは人気商品となりました。
それから3年間に渡る復興支援プロジェクトの中、人気のモアイをモチーフにしたTシャツやトートバッグなど新たな商品を望む声もありましたが、雄一さんが考えたのはもっと先を見据えた大きな視点でのデザインでした。

復興プロジェクトの助成金が終了する3年目、のぞみ福祉作業所の人達や作業の様子、日常に触れることでより良いアイデアを提案したいと、雄一さんは2週間、南三陸に滞在しました。

そこには、ボランティアの人達によって届けられた紙が、作業所のメンバーによって一つ一つ丁寧に工程を重ねて新しい紙に生まれ変わる様子と、そこで生き生きと働く人たちの姿がありました。

実際に目の当たりにした作業の様子やメンバーの姿に雄一さんは感銘を受け、それをもっと多くの人たちに伝えたいと感じました。

紙漉き作業1
牛乳パックなどの再生紙が届けられ、紙作りが始まります。
牛乳パックは食品の包装材なのでバージンパルプから出来ています。一つ一つ丁寧にビニールコーティングをはがすと、中はふわふわの上質な紙の原料になります。細かくなったふわふわの紙を水に溶かして、やっと原料の完成です。
紙漉き作業2
とろとろに溶かした原料を型に入れ成型、水を切り、慎重に型から外して、更に水を絞っていきます。そしてプレス、乾燥、検品を経て、肌触りの良いふっくらとした紙に生まれ変わります。

滞在も終わりに近づいた頃、雄一さんは作業所に新しい仕組みづくりを提案します。
単体で商品をデザインするのではなく、これからものぞみ福祉作業所が社会とつながり続けていくためのフレームをデザインし、提案したのです。
それが、のぞみ福祉作業所=「NOZOMI PAPER Factory」という在り方。

【そこは個性豊かな人たちが集まるファクトリーで、そこで働き自分らしく生きていくメンバー自身が「NOZOMI PAPER Factory」という一つのブランドなのです】

そんな思いを込めたこの提案は、作業所のメンバーを集めて直接行われることとなり、皆の合意を受けて、雄一さんと作業所が直接契約し「NOZOMI PAPER Factory」としての活動が始まりました。
そしてその翌年から雄一さんと亜希子さんによるデザインユニットHUMORABOとしての活動もスタートします。

nozomi paper仕組み図

「NOZOMI PAPER Factory」で作られる手漉きの再生紙「NOZOMI PAPER®」は、ふっくらとした優しい風合いや、複雑な形に成型できる技術などを生かし商品化されています。

nozomi paper

手漉き紙「NOZOMI PAPER®」はハガキサイズや名刺サイズの他、色々な形に成型され、販売されています。牛乳パック、新聞紙、チラシなど元の紙の個性によって、出来上がった紙にもそれぞれの個性が現れています。

そして「NOZOMI PAPER®」を使って、事業所に通うメンバーによるアートをモチーフにした製品も作られています。

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事業所に通うメンバーが描いたイラストや文字をモチーフにした「NOZOMI PAPER®」の商品。
味のあるイラストや文字も素敵ですが、こんな複雑な形に成型できるのは凄い技術だそう。
凹凸のある活版印刷がふわふわの紙の個性を引き立たせています。

デザイン業界では愛好者の多い活版印刷ですが、活版印刷をテーマにした本でも「NOZOMI PAPER®」の商品が沢山掲載され、「NOZOMI PAPER®」はデザインや印刷業界からも知られる存在になってきました。

HUMORABOの活動で特徴的なのは、単にブランディングやグッズのデザインをするということではなく、在り方や仕組み、その先まで考え、深く関わっていくことかもしれません。
紙を売るだけではなく、その先の使い方を提案するハンディサイズの凸版印刷機「くるくるレタープレスキット」の販売やイベントでのワークショップを開催し、「NOZOMI PAPER®」をより魅力的に紹介し続けています。

「NOZOMI PAPER®」と「くるくるレタープレスキット」は、HUMORABOのオンラインストアhttp://humorabo.base.ec/や、様々なイベントなどで継続的に販売されていて、着実にファンを増やしています。

くるくるレタープレス
「くるくるレタープレスキット」。凸版で作られた版をセットしてハンドルをくるくる回すだけで、文字やイラストが少し凹んでほっこりとした陰影を作り、刷り上がります。
ふわふわで厚みのある「NOZOMI PAPER®」との相性は抜群。

「NOZOMI PAPER®」からその先へ

NOZOMI  PAPER Factoryの仕事で度々東北を訪れるようになったのをきっかけに、また新たな出会いや繋がりが生まれていきました。

その中の一つが「東北のスタンダードを、新しく作り直す」をコンセプトに、東北の民芸や伝統を再発見し、新しいスタンダードを提案している東北スタンダードマーケットと共同企画した「東北の手仕事と福祉」です。

NOZOMI PAPER®やファクトリーに通うメンバーが描いた東北の民芸品や名産品のイラストを、モチーフに商品化しています。

東北の手仕事と福祉

南三陸の名産品ワカメをモチーフに、北欧風のデザインに仕上げた「WAKAMEKKO手ぬぐい」は、仙台の染工場で丁寧に染め上げられています。
最初は「新ワカメ、生ワカメ、塩蔵ワカメ」の3色でしたが、3色のワカメグリーンを足して今では全6色のワカメグラデーションになりました。

ワカメグラデーション

ファクトリーのメンバーがこけし、赤べこ、だるま、鳩笛など東北の民芸品をモチーフにイラストを描いた「民芸ポストカード」も大人気で、イベントなどで販売するとすぐに売り切れてしまうそうです。

こけしポストカード

岩手の張り子職人にお願いして試行錯誤の上に完成した起き上がり小法師は、タオルでおなじみNOZOMI PAPER Factoryの人気キャラクター、モアイをモチーフにしたもの。

起き上がり小法師全体像
「多幸モアイ」と「モアイ抱き猫」の起き上がり小法師。
後ろ姿もたまらない可愛さ。底を覗くとそれぞれの名前が!

イベントでも人気の起き上がり小法師は、新しく「干支」シリーズが登場。 シリーズ第一弾は2020年の干支「ねずみ」をモチーフにしたものです。

干支小法師

NOZOMI PAPER Factoryのプロジェクトはこうして東北の手仕事と繋がり、新たな広がりを作っていっています。

新しい可能性

HUMORABOの二人が立ち上げから深く関わってきたNOZOMI PAPER Factoryは、震災後から仮設の作業所で活動を続けてきましたが、震災から8年を経た2019年ようやく仮設の建物から新しく再建された施設に移ることになりました。
7月には落成式も行われ、新しいファクトリーでの活動がスタートしました。

nozomi paper Factoryメンバー写真

HUMORABOのお二人にこれからやってみたいことを尋ねると、「ファクトリーへの見学ツアーをやってみたい」と答えてくれました。
それは、商品を介してファクトリーを消費者、社会に間接的に紹介することから、次は直接触れてもらう機会をもっと積極的につくれたら良いな、という思いから。

実際にファクトリーへ来る見学者も多くいるそうで、メンバーによる紙漉きの様子に感銘を受けたり、ファクトリー見学を楽しんでいる姿を目にしてきたそうです。
そうした機会を能動的に「ツアー」という形で提供できれば、施設と社会をつなぐ新たな関係性が生まれるのはないかと感じているそうです。

HUMORABOの名前の由来でもある「human-人」。
人の手によって届けられた紙が人の手仕事によって新たに作られ、人の手に渡った商品が手紙や名刺になってまた別の人につながっていきます。
ファクトリーを支える人と訪れる人、そこに生まれた関係性が、より心に残る体験や記憶となり、新しいつながりを作っていきます。
そのつながりを経ることで、作られる商品は大切な価値をもった特別なものとして、より良い形でその先につながっていくはず。

HUMORABOのお二人の話からは、ただ消費されるのでも支援でもなく、人から人への関係性、そこから生まれる温かいものが商品を通じて、大切につながっていってほしいという思いが伝わってきました。

新しいプロジェクト「RINNE」

HUMORABOの新しい活動の一つが、クリエイティブリユースのプロジェクト「RINNE(リンネ)」への参加です。
「RINNE」はモノを捨てることなくクリエイティブな価値観を見出し循環させていくプロジェクト。
クリエイターをはじめ様々なバックグラウンドをもつ有志が集まり立ち上げられました。

Rinne member

プロジェクトの第一弾は、2020年春に東京の御徒町にオープン予定の「Rinne.bar 」。
不要になったものを素材にして、お酒を飲みながら皆でワイワイものづくりを楽しむバーです。
準備中のバーは、古民家から回収した建材や家具を内装に利用。搬送や内装もメンバーが参加して行っています。

Rinne bar Table制作風景
Rinne bar Table
制作に使われた工具もモチーフの一部として使われたRinne.barのテーブル。
Rinne.bar

バーのオープンに先駆けて各地でワークショップやイベントも開かれています。
東京の広尾で開かれたワークショップRinne.barには多くの人が参加し、皆が思い思いに創作を楽しんでいたそうです。

Rinneワークショップ風景

RINNEが目指すのは商品をつくることではなく、自発的にリユースを楽しむ人を増やすことです。

11月にはNOZOMI PAPER Factoryがある南三陸でも「RINNE」プロジェクトの講演が行われました 。

NOZOMI PAPER®の原料になっている新聞紙や牛乳パックをはじめ、古着やハギレ、毛糸、使用済の切手など、元々福祉施設には多くの廃材が集まってきます。
リユースは福祉の世界にはとても馴染み深いもの。福祉施設にはまだ可能性が沢山眠っているはずです。
古布を使った裂織りや、新聞紙や米袋、スーパーのビニール袋などを利用したバッグや雑貨など、廃材を利用したユニークでクリエイティブな商品を作っている福祉施設もありますが、それを生かしきれずに悩んでいる施設も多く存在しています。

例えば、材料の宝庫である福祉施設でRINNEのワークショップが開かれるなど福祉の世界でもRINNEの活動が広がっていけば、いろんな人のアイデアに刺激を受けて、悩みが楽しみに変わるかもしれません。
RINNEのプロジェクトは福祉の世界にも新しい可能性をもたらす予感。これからの活動が楽しみです。

HUMORABOのテーマ「福祉とあそぶ」とは?

HUMORABOのテーマは「福祉とあそぶ」こと。
「あそぶ」ということは対等であること、関わる双方が楽しいことを意味しているといいます。
楽しいということは幸せだということかもしれません。
支援や請負でする仕事ではなく、福祉とあそぶというコンセプトで関われるものがHUMORABOとしての活動の基準。
福祉をどうにかしたいのではなく「楽しいから一緒にあそびたい」お互いその関係性を保ち、「やりたいから続けたい」という感覚を大事にしているそうです。

自分達が「楽しくあそんでいる」からこそ、一緒にあそびたいと新しい仲間が加わり、新しい可能性がまた広がっていきます。
それこそが「福祉とあそぶ」ことがもたらす大きな作用なのではないでしょうか。

そうして楽しく「福祉とあそぶ」HUMORABOの活動は、福祉の垣根を越えて、いろんな人や場所をつないでいきます。
お二人の話からは、モノを作るだけでなく、コト、場所、コミュニケーションのより良い形を想像して、その仕組みを創造する、そんな「デザイン」の力が持つ可能性を感じました。

そしてその可能性が、「社会と福祉の楽しく(幸せな)新しい関係」をこれからも広げていくに違いありません。

HUMORABOお二人
前川雄一さんと亜希子さん。トーク中の掛け合いやフォローも夫婦ならではのコンビネーション。
男女ならではの違った二つの視点を持ちながらも、一緒に「福祉とあそぶ」仲間同士でもあります。

【HUMORABO(ユーモラボ)】
前川 雄一(mu)さんと亜希子(ma)さんによる夫婦デザインユニット。
「福祉とあそぶ」をテーマに、福祉施設と一緒にプロダクトの開発やブランディング、販売などの活動を通して、デザイナー夫婦ならではの二つの視点で、社会と福祉の楽しく新しい関係を探っています。

website     www.humorabo.com/
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