知的障害のある方への口腔ケア拒否、実は低栄養リスクのサインかも?九州歯科大学が研究結果を発表

公立大学法人九州歯科大学の泉繭依講師らの研究グループは、知的障害のある成人施設入所者を対象に、「口腔ケアの拒否」と「栄養状態」の関連性について調査を実施しました。この研究により、口腔ケアを拒否する行動が、低栄養リスクの早期発見に繋がる重要なサインである可能性が示唆されています。

研究の背景と目的

介護や支援の現場では、知的障害のある方々が歯みがきや口腔ケアを嫌がったり、口を開けることに抵抗を示すといった「拒否」の行動が日常的に見られることがあります。これまでは、こうした拒否がケアを行う上での「困りごと」として捉えられがちでした。しかし、本研究では、この「口腔ケア拒否」という行動が、単なる手技上の問題にとどまらず、対象者の健康状態、特に栄養状態と深く関連しているのではないかという仮説のもと、その関連性を明らかにすることを目的としました。

研究方法

研究は、熊本県の障害者支援施設に入所する知的障害のある成人55人(男性56.4%、年齢中央値57歳)を対象に、2025年2月から3月にかけて実施されました。

  • 口腔ケア拒否の定義: スタッフによる口腔ケア時に抵抗や不快の表出があることとし、過去1か月のケア記録に基づき、少なくとも2名のスタッフの合意によって判定されました。
  • 栄養評価: 低栄養リスクを評価する簡易スクリーニング「MNA-SF(Mini Nutritional Assessment-Short Form)」を用いて、「正常(12–14点)」と「リスク/低栄養(0–11点)」に分類されました。
  • その他の評価: 日常生活動作能力(FIM、Barthel Index)、体組成、舌の汚れ(舌苔)を評価する舌苔指標(TCI)なども同時に評価されました。

研究結果

調査の結果、栄養リスクがある群では、口腔ケアを拒否する割合が高いことが明らかになりました。

口腔ケアの拒否と低栄養リスクの関連性

  • 栄養リスク群(n=24)では50%(12/24)が口腔ケアを拒否していたのに対し、栄養正常群(n=31)では16.2%(5/31)でした。
  • 年齢や性別などを調整した分析では、口腔ケア拒否がある人は、栄養リスクとなるオッズが9.23倍(95%信頼区間 1.10–77.33)と有意に関連していることが示されました。
  • 一方で、舌苔の指標(TCI)には拒否の有無で差が見られず、口腔清掃状態そのものよりも、「拒否」という行動所見が栄養リスクの重要なサインになり得る可能性が示唆されています。

社会的意義と今後の展望

この研究結果は、知的障害のある方へのケアにおいて、口腔ケア拒否が単なる「手技上の困りごと」として片付けられるべきではないことを示しています。むしろ、それは対象者の栄養状態に異変が起きている可能性を早期に察知するための「行動マーカー」として捉えるべきだという新たな視点を提供します。

現場で口腔ケアの拒否が見られた場合、口腔ケアの手技を工夫するだけでなく、MNA-SFなどの栄養スクリーニングを実施したり、多職種連携を通じて対象者の体調や食事量の変化に目を向けることの重要性が高まります。これにより、低栄養状態に陥る前に対策を講じることが期待されます。

九州歯科大学口腔保健学科の泉繭依講師は、この研究について以下のようにコメントしています。

泉繭依講師
現場でよくある「歯みがきを嫌がる」「口を開けない」といった拒否が、栄養リスクと結び付く可能性を示しました。清掃手技の工夫に加え、拒否が見られたら体調・痛み・食事量の変化にも目を向け、MNA-SFなどの栄養スクリーニングや多職種連携につなげてほしいです。

用語解説

  • MNA-SF: 低栄養リスクを評価する6項目の簡易スクリーニング(0–14点)です。
  • TCI: 舌の汚れ(舌苔)を0–18点で評価する指標です。

論文情報

本研究の結果は、2026年1月2日にElsevierが発刊するSpecial Care in Dentistry誌の電子版に掲載されました。

  • 題名: Association between oral-care refusal and malnutrition risk among adults with intellectual disabilities: a cross-sectional study in two Japanese residential facilities.
  • 著者: Maya Izumi, Seijun Ganaha, Sumio Akifusa
  • 論文雑誌: Special Care in Dentistry誌
  • DOI: https://doi.org/10.1111/scd.70135

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(C)24K13245の助成を受けて実施されました。

九州歯科大学について

九州歯科大学の建物

九州歯科大学は、全国の歯学部・歯科大学の中で唯一の公立大学であり、歯学科と口腔保健学科からなる「口腔医学の総合大学」です。口の健康を通じて、人々の豊かな生活を支える医療を目指しています。歯学の専門家を育成するとともに、地域に密着した歯科の中核病院として、1914年の開設以来、地域医療に貢献しています。

  • 学校名: 九州歯科大学
  • 所在地: 福岡県北九州市小倉北区真鶴2丁目6番1号
  • 学長: 粟野 秀慈
  • 設立: 1914年
  • 公式ウェブサイト: https://www.kyu-dent.ac.jp/

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77