誰もが働き続けられる社会へ:公共調達と中間支援が描く未来

2025年大阪・関西万博で「いのち宣言」と「アクションプラン集」を発表したいのち会議は、その宣言の一つである「企業と社会が対話を深め想いと信頼にもとづいた共助の経済システムをつくろう」を実現するための具体的なアクションを紹介しました。

今回焦点が当てられたのは、「価格だけでなく『雇用の数を競う』公共調達と『雇用の質を問う』中間支援組織の連動で、皆の『働きはじめる』『働きつづける』を支えよう」という取り組みです。これは、障害のある人々が社会で活躍し、自立した生活を送るための重要な基盤を築くものです。

大阪府の「行政の福祉化」が示す道

今から25年前、知的障害を取り巻く環境は大きく変化しました。1998年には法定雇用率の算定基準に「知的障害」が含まれ、1999年には「精神薄弱」という用語が「知的障害」に改められました。さらに、2000年には社会福祉基礎構造改革により、サービス利用が「行政措置」から「利用契約」へと移行しました。

このような時代背景の中、大阪府では財政危機に直面しながらも、新たな予算を投じることなく既存の施策や府有資源を活用し、障害のある人々の雇用・就労機会の創出と自立支援を目指す「行政の福祉化」という独自のアイデアが生まれました。特に清掃業務の公共調達において、価格だけでなく「障がい者の雇用」を評価する総合評価一般競争入札が導入されたことで、多くの雇用が創出されました。現在では、大阪府の大規模物件の清掃入札に参加するビルメンテナンス企業の障害者雇用率は10%以上に達し、産業全体がソーシャルファーム(障害のある人など多様な人が働く事業体)へと変貌を遂げています。

エル・チャレンジ みらい宣言

雇用の質を支える「エル・チャレンジ」の役割

清掃現場での「知的障がい者等の就労訓練」を受託する大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合(エル・チャレンジ)は、2019年に大阪府の「障がい者等の職場等環境整備組織」として第1号認定を受けました。エル・チャレンジは、大阪府から清掃業務を受託する企業と雇用される障害のある人々の間に立ち、働きやすい職場づくりを支援しています。

その役割は、単に雇用率を達成するための形式的な雇用、いわゆる「障がい者雇用率ビジネス」とは一線を画します。障害のある人々が真の戦力として活躍できるよう、企業と共に働きやすい職場環境を構築し、能力開発を推進するプロセスを重視しています。

政策的有効性と未来への展望

2050年には日本の人口が約9,500万人と推計され、高齢層の増加と生産年齢層の減少により、社会保障費の増大と税収の減少が予測されています。このような状況下で、従来の社会福祉制度の維持は容易ではありません。

大阪府の総合評価一般競争入札は、2017年に実施された「社会的コスト推計」調査によって、その政策的有効性が実証されています。この調査では、総合評価入札にかかる経費と障害のある人々の就労による利益(社会保障給付費の削減など)が比較され、コスト面からもその効果が明らかになりました。この結果は、大阪府のハートフル条例(2018)改正の追い風となり、他には富士市のユニバーサル就労条例(2017)や東京都のソーシャルファーム条例(2020)など、同様の就労支援条例が策定されています。

いのち会議は、2050年に向けて、行政・産業・福祉の三者協働で生まれた「行政の福祉化」の25年間の経験を、他の地方自治体や一般事業者にも広げ、「大阪の福祉化」へとつなげていくことを目指しています。エル・チャレンジをはじめとする関係各所と協働し、政策目的を持った公共調達の仕組みづくりを推進することで、誰もが「働きはじめる」「働きつづける」社会の実現に貢献していきます。

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findgood

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77