Last Updated on 2023年6月28日 by 菅間 大樹
【内容情報】(出版社より)
自らも精神科病棟に入院し、ケアされる側の本音を知った看護師が見出した「訪問」だからこそできる真の精神科看護
家族背景、生育歴、生活スタイル……
患者のすべてを知り、徹底的に寄り添える「精神科訪問看護」で行き場のないすべての精神疾患患者のケアを目指す
昨今、精神疾患や障がいをもつ人たちが地域でともに暮らせる社会の実現が求められています。
しかし行政のかけ声だけは威勢がいいものの、その実現は簡単なことではありません。
精神疾患患者が地域で安心して暮らすために必要なのが精神科訪問看護師という存在であると著者は考えます。
著者は、もともと精神科看護師として病棟勤務をしていました。ひと月に夜勤12回を超える過酷な病棟業務をこなしていたため体力、気力ともに限界を超え、精神科病院に入院することとなります。そして社会から隔離され殺伐とした病棟に入院したことで、患者同士の触れ合いや看護師との対話などが想像以上に大きな励みになるということに気づき、初めて「ケアされる側の心」を知ります。
それから、退院後に精神科訪問看護という仕事を始め、病棟看護では分からなかった「患者が病気になってしまった本当の理由」を自宅訪問で理解することができたのです。病棟時代には知り得なかった貴重な情報が溢れている精神科訪問看護の現場こそ、著者が理想とする
患者に寄り添ったケアが実現できる場所でした。
そして、さらなる理想の看護を実現するために事業所を立ち上げ、ひきこもりや虐待、ネグレクトといった困難ケースといわれる難しい事例であっても目を背けず、根気強い関わり方で患者の社会復帰のサポートに邁進していきます。
本書には患者の立場も経験し、もがきながらも精神科訪問看護という天職によって自分自身も救われた著者の半生と、この職業のやりがい、社会的意義が余すところなく記されています。
精神科訪問看護や誰もがともに暮らせる社会づくりに興味をもつ人に読んでほしい一冊です。
【目次】
はじめに
プロローグ
第1章 暴力、拘束が当たり前の閉鎖病棟――社会から孤立した精神疾患患者たち
虫の観察が唯一の楽しみだった子ども時代
2浪の末、医学部に進学
医学部を退学し引きこもりの私を救ってくれた妹
看護学校に入学し看護師の道へ
精神科の看護師として第一歩を踏み出す
すべてが驚きの連続だった初めての精神科病棟
第2章 夜勤回数月12回超、過酷な病棟勤務、うつの発症
――自らが患者となって理解したケアされる側の本音
メンタルへの負担が大きい女性の閉鎖病棟
精神科病棟は年配の看護師が働く場所だった
精神科の入院には3つの種類がある
ドラマのように簀巻きにされて担ぎ込まれる患者たち
宇宙、隕石、天皇陛下…… 現実離れした妄想の数々
精神科病棟は衝撃エピソードの連続
患者のケアに恐怖を感じることも
保護室に入るとなぜか裸になる女性患者
陽性症状と陰性症状がある統合失調症
10年間入浴せず髪の毛がコンクリートのようになった患者
治療によって別人のように穏やかになって退院する患者も
中学生の統合失調症患者との出会い
児童心理学に興味をもち通信制の大学に入学
夜勤と勉強を両立できず、睡眠薬に頼るように
事故を起こしたのに記憶がない恐怖
恋人と同僚によって精神科に強制入院
目が覚めたらそこは保護室だった
生まれて初めてケアされる立場を経験
人生の指針になった主治医の言葉
第3章 家族背景や生育歴、生活スタイルまですべてを知ってケアする――患者に寄り添える訪問看護に精神科看護の理想を見出す
離婚をした矢先に妊娠が発覚
ひどいつわりで仕事ができず、たちまち生活が困窮
お金がメンタルに影響を及ぼすことを痛感
シングルマザーになって精神科訪問看護師として仕事復帰へ
とことん患者と向き合える訪問看護の仕事に魅了される
患者宅は貴重な情報の宝庫
生活に密着した情報がケアのヒントになる
訪問看護では本人だけではなく家族の状態も見えてくる
症状の悪化をもたらすストレスの正体
原因が分かれば対処法も見えてくる
患者を良い方向に導くことができる看護の力
第4章 暴力、暴言、妄想などの「困難なケース」――行き場のない患者を救うために独立開業
理想の精神科看護を目指して独立を決意
ステーションを開設し困難事例にも果敢に取り組む
病識の有無でケアの方法は大きく変わる
副作用の有無で服薬を確認する方法も
ペットボトルに針で穴を開けて液薬を仕込むことも
民間救急は最後の手段
ケアが難しい統合失調症
患者が逆上する地雷を避けてコミュニケーションを図る
病識がない患者の場合、会うことが第一の関門に
自宅の壁一面に罵詈雑言の張り紙が貼られていた男性患者
訪問看護の目的は他者へのトラブルを防ぐこと
統合失調症で通行人に卵を投げつけるAさん
黒い服で訪問したら自分の葬儀を連想して逆上
地域住民に詰め寄られても患者情報は伝えることができない
担当制を敷くことで患者と信頼関係を築く
地域の会議でも議題に挙げられたBさん
ネズミもゴキブリもペットだったCさん
訪問を拒否し続けたDさん
不在でも諦めない! 情報は一つでも多く取るのがモットー
家族全員が精神疾患をもつEさん
ゴキブリ天国だったEさんの自宅
母子の共依存は解消できず
凶暴性が高かったFさん
他害により警察に連行されてしまうことも
覚醒剤が絡むケースも増加傾向に
キャミソール一枚の姿で男性看護師を待つGさん
依存症に対しては期待し過ぎない姿勢も重要に
第5章 患者が自立して社会復帰するために――
薬物療法だけに頼らない看護を実践する
患者自身が自己コントロールできる力を身につけるために
できるだけ入院させないことも目標
兆候に気づいたらその原因を考える
医師の処方意図まで読み取れる看護師に
兆候と原因が分かったら、対処法を検討する
症状に適切に対処していくには
生活保護費の残高が体調に直結も
日中の家事は2つまでというルール
認知行動療法やSST、アサーションなどを取り入れる
たった一つの成功体験が患者には大きな励みになる
ほかの診療科と異なる点はすぐに成果を求めないこと
最終的なゴールである地域での自立を目指して
一流企業に勤めながらも双極性障害を発症したHさん
少し改善すると急に何十社も面接を受け始める
数年掛かりで症状をコントロールし、見事大手企業に就職が決まる
ASDでトゥレット症候群のⅠ君のケース
引きこもりで昼夜逆転生活が続く
理学療法士になりたいと願い、専門学校に合格を果たす
早期に治療を始めた発達障害は改善の可能性が高い
オーバードーズを繰り返していたASDのJさんのケース
母親との関係性に課題が見えてくる
医者になりたいと努力の甲斐あって医学部に合格
多職種チームで患者を支える訪問看護
成長過程にある小児に関われるのは、言葉に尽くせないほどのやりがいに
最後まで見捨てないのは、地域にいる者の使命感があるから
縁の下の力持ちとして患者の人生を支える
第6章 社会復帰、就労支援、発達障害児支援――
精神疾患をもつすべての人のケアを目指す
子どもの精神疾患や発達障害を家族ごとケアする
家族全体をケアしなければ負のスパイラルが続いてしまう
自閉症の子どもに対する支援が足りていない
小児に特化した専門部署の立ち上げを準備
精神疾患をもつ患者の地域の居場所づくりも目標
グループホームを活用して地域での自立を目指す
デイケアがなくなれば地域の居場所が減ってしまう
同じ病気や悩みをもつ人同士が話し合える場を提供
おわりに
- 出版社 : 幻冬舎
- 発売日 : 2023/2/2
- 単行本(ソフトカバー) : 200ページ