Last Updated on 2023年7月16日 by 菅間 大樹
麻痺を抱えながら仕事している方の中には、うまく付き合いながら理想の職場で働いている方もいらっしゃれば、悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
例えば、通勤に時間がかかる、定期的な通院のために休みが欲しい、パソコンを使う仕事なら能力を発揮できるなど、疾患による特有の悩みや不安、そして仕事への要望はありませんか?
そんなときは、同じように麻痺を抱えながら仕事をしている方々の声に耳を傾けてみるとヒントがみつかるかもしれません。今回のコラムでは115人の麻痺のある方の口コミをもとに
・どのようなことに悩み、どのように解決しているのか
・仕事探しはどのように行ったのか
といったアドバイスをご紹介していきます。
目次
- 麻痺の特性による仕事の悩みと対策
- 麻痺のある方が職場で直面する悩みとその対策
- 仕事探しの時、麻痺があることをオープンにするかクローズにするか
- 麻痺のある方におすすめの企業・業界・職種
- 求人の見つけ方
- 企業情報の集め方
- 最後に
1.麻痺の特性による仕事の悩みと対策
麻痺とは、感覚が鈍くなったり、力が入らなくなったり、じんじんした感覚をおぼえたりすることで、手足が思うように動かせなくなることを言います。多くは神経系の病気が原因ですが、その他の原因があることもあります。またその症状がある部位も、症状の程度も個人差があります。
しかし、口コミを見ると、仕事の悩みについてはいくつか共通する傾向がありました。麻痺のある方は、仕事をするうえでどのような悩みを抱えているのでしょうか。口コミからは、以下のような悩みの傾向がうかがえました。
【麻痺による仕事の悩み】 1.期限や時間に追われる仕事への対応が難しい 2.通勤や仕事中の外出など、移動に困難を伴う 3.身体的な負担がある |
では、それぞれ具体的な内容とともに対策をみていきましょう。
1-1.期限や時間に追われる仕事への対応が難しい悩み
麻痺のある方は、身体的に素早い動きをすることが困難である場合が多いことから、期限や時間に追われるような業務への対応が難しいという傾向がありました。悩みについての具体的なコメントは次の通りです。
【悩み】
“ 装具や杖を突きながらの歩行が余儀なくされるので走ることや「テキパキ動く」ことができません。 ソフトウェア/ハードウェア開発、一般事務、女性 左手と左足の麻痺がありますので、思うように動かすことができません。歩くことはできますが、走ることはできず、左手は荷物をもつことができないため、右手のみを使って仕事をしています。主にパソコンワークを担当しているので時間はかかりますが右手のみで仕事をしています。 医療・福祉・介護、一般事務、女性 車いすでの生活なので身体を使った作業はできないし、移動速度ももちろん遅いので他の人より作業スピードが遅れて困ることがあります。 外食・フード、マーケティング、広報、宣伝、女性 手に障害があるためひとつひとつの作業に時間がかかったことです。(タイピングスピードなど)他の人の4倍の時間がかかっているといわれました。 団体・連合会・官公庁、女性 ” |
麻痺のある方にとって、仕事の作業スピードは自分でコントロールすることが難しい課題ですが、工夫して対策をしている方もいました。
【対策や工夫】
“ 仕事をする上では、何事にも時間に余裕を持って、会社の上司にも理解していただいて働いていました。 環境、営業事務、男性 自分に無理なことは素直に人に頼む。人に遅れないように10分早く行動を起こす。 団体・連合会・官公庁、総務 タイムマネジメントをしっかりし、仕事を積み残さない。自分がボールを持つ時間を短くする。 医療・医薬、営業、営業補佐 パソコンなど自分の使い勝手の良いように仕様を変更したり、職場の協力を得て動きやすいようにオフィス内動線を考慮してもらった。 団体・連合会・官公庁、公務員 ” |
仕事にかかる時間を逆算して早めに作業にかかるという対策をしている方が多くいました。また、身体的に対応が難しい仕事が発生した場合に周囲から協力を得やすくするため、事前に自分の症状を説明して理解を得ておくという対策をしている方もいました。パソコンを使う仕事に就いている場合は、ショートカットの設定などを行うことで作業時間の短縮を図ることも効果的と言えます。
1-2.通勤や仕事中の外出など、移動に困難を伴う悩み
特に毎日の通勤を伴う仕事の場合、通勤にかかる負担は大きな悩みとなり得ます。通勤以外にも、例えば客先への訪問など業務の一環として移動を伴う仕事に就いている方は、移動に伴う悩みを抱えやすい傾向があります。具体的な悩みの内容について見ていきましょう。
【悩み】
“ 階段などが大変なので、電車通勤は大変。 コンピュータ・通信・精密機器、営業事務、女性 下半身不随により歩くことができないため仕事上で移動する時にとても困った。他の人の助けが必須で申し訳ないと思ってストレスがどんどん増えていった。 団体・連合会・官公庁、男性 通勤に電車を利用していましたが、車椅子を利用しているため、悪天候の時は欠勤しなくてはなりませんでした。それゆえ、仕事に対してやる気はあるのですが、その意志とは裏腹にどうしても欠勤しなくてはならないという歯がゆさがありました。 医療・福祉・介護、男性 車いすでの生活なので通勤が大変であることです。基本的に電車通勤ですが、ラッシュ時など電車に乗ることができません。また、天候にも左右されやすく、雨の日は傘をさすことができなくてずぶ濡れになってしまいます。 専門店、男性 ” |
コメントを見ると、麻痺のある方は、移動による負担だけでなく、介助を頼むことへの精神的ストレスも抱えていることがうかがえます。また、車いすや松葉づえを利用している方は傘をさすことができず、天候によっては欠勤を余儀なくされる場合もあります。では、こうした状況についての対応策を見ていきましょう。
【対策や工夫】
“ 移動に時間がかかるため、1時間程度の余裕をもっていつも行動していました。 システムインテグレータ、経理、女性 仕事上、電車での移動や物を運ぶことがあった為、一緒に仕事をする人には事前に自分の障害の概要と出来る事、出来ない事を伝えるようにしています。 ソフトウェア・ハードウェア開発システム、エンジニア、女性 雨が降っていても傘を差せないので、タクシーを利用する。必要経費と割り切ってタクシーを使う。出張の際は配偶者に付いてきてもらい、グリーン車を利用する。一緒に仕事する人には今の私の状況を伝える。 マスコミ・広告、出版、デザイナー・クリエイティブ ” |
移動時間に余裕をもって行動することは、比較的取り入れやすい対策かもしれません。仕事中の移動を同僚や上司と共に行動する場合は、移動の際に時間を要することや介助が必要となりそうな場面などを事前に伝えておくと協力が得やすくなるでしょう。また、障害者手帳を所持している場合、タクシー乗車時に提示することで運賃の割引を受けることができます。急ぎの移動時など、タクシーの活用も必要に応じて検討すると良いでしょう。
1-3.身体的な負担についての悩み
麻痺のある方は、麻痺のある部分をカバーするために身体の他の部分に負荷がかかることがあります。また、服用している薬の副作用などにより、身体的な負担が積み重なりやすい傾向もあります。口コミから悩みの詳細を見ていきましょう。
【悩み】
“ 左半身に痺れがあり動かしづらい。薬の副作用により居眠りしやすい。免疫力が弱っていて感染症になりやすい。 ソフトウェア・ハードウェア開発、総務、男性 麻痺があった為に長時間の歩行や座ったままの状態、階段の登り降りも負担で辛くなる事がありました。 専門店、女性 右脚が歩行不可というほど悪くなく、かといって健常者よりも躓いたりしやすい。ずっと立っていると疲労が溜まりやすい。 チェーンストア・スーパー・コンビニ、女性 右側に温度感覚が無く、仕事でハンダゴテを使用するとき注意が必要。また右半身に感覚がほとんどなく、右靴は視覚でしか確認できない。 メーカー・製造系、技術系、男性 ” |
こうした身体的な負担の蓄積について、働いている方々はどのように対処しているのでしょうか。対策方法を見ていきましょう。
【対策や工夫】
“ 疲れると持病が再発しやすくなるので、適度に休憩を取ることを上司と約束している。 メーカー・製造系、営業 身体的に困難な作業は、時間や日を短くする等、上司と相談し無理しない程度にしています。片麻痺なのでなるべく健常者と同じような作業を工夫して行っています。どうしても出来ない作業は周りの従業員の方にフォローしてもらっています。 医療・福祉・介護、清掃 疲労骨折も怖いので、疲れたら休憩をとる。無理をしない。とくに、骨に負荷を掛けないようにする。 化学・素材、一般事務、男性 ” |
とにかく休息を取り、疲れを溜めないよう心がけている方が多くいました。体調が優れない時に休息が取りやすいよう、日ごろから周囲の理解を得ておくことが大切ですね。
2.麻痺のある方が職場で直面する悩みとその対策
口コミをみると、麻痺のある方は多様な職種や業界で活躍していることがうかがえます。しかし、職場の悩みについて見ていくと、次のような共通点がありました。
【麻痺による職場への悩み、その傾向】 ・休みを取りにくい ・正当な評価を得ることができない ・能力を発揮できない、やりがいを感じない |
それぞれの具体的な悩みの内容と、その対策についてアンケートの回答結果を見ていきましょう。
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