精神障害を抱えながら仕事している方で、仕事が続かない、仕事ができないと悩んでいる方はいらっしゃいませんか。多くの方は、仕事を始めるとき「この職場で長く働きたい」と思うことでしょう。しかし、精神障害のある方の約半数が、1年以内に離職しているというデータ※があります。
病気や障害が悪化した、体調が優れないなど、ご自身に負担がかかる状況が続く場合は、無理をせず、休職や離職、転職を検討することも必要です。
しかし、体調悪化の原因以外に、職場での「働きにくさ」を感じて転職や離職を考える方も多くいらっしゃいます。一度働きにくいと感じた場合でも、ご自身による少しの工夫や職場のちょっとした配慮により状況が改善され、働きやすい状況に好転することがあります。
このコラムでは、精神障害者手帳をお持ちの方で、障害者雇用で就職(転職)した408人の方から寄せられた口コミをもとに
・仕事を続けられない悩み
・仕事を続けるための工夫や対策
をご紹介していきます。
また、障害者雇用の専門家 水谷愛さん(精神保健福祉士、公認心理師)にもアドバイスをいただいています。
離職や転職について悩んでいる方、仕事を続けたい方は、ご自身に合った環境で長く働くためにご活用ください。
※参考:障害者雇用の現状等(2017年9月20日、厚生労働省職業安定局)
*この記事は水谷愛さんに監修していただきました 水谷愛さん 精神保健福祉士(精神科ソーシャルワーカー:社会福祉専門職の国家資格)、公認心理師、臨床心理士、産業カウンセラーの資格を取得。精神障害者デイケアにて5年、スクールカウンセラーとして10年、発達障害者就労支援センターにて4年の経験を積み、現在は障害者就労移行支援事業所にてサービス管理責任者として勤務しています。著書『「がんばり屋さん」のこころのトリセツ』も好評。 |
目次
- 仕事を続けられない悩み
- 仕事を続けるための工夫や対策
- 職場から得られた合理的配慮
- 専門家からのアドバイス
- 最後に
1.仕事を続けられない悩み
精神障害といっても、多様な病気や障害があります。たとえ同じ病名であっても、その症状は一人ひとり異なります。しかし、様々な精神障害を抱える方から寄せられた口コミには、障害者雇用で入社しても、仕事を続けられないという悩みについて、次のような傾向がありました。
【仕事を続けられない悩みとその傾向】 ・仕事内容が病気や障害の特性に合わない ・職場に状況を理解してもらえない ・ハラスメントがある ・キャリア構築が困難 |
それでは、それぞれの悩みをさらに詳しくみていきましょう。
1-1.仕事内容が病気や障害の特性に合わないという悩み
面接時や入社時にはできると思えた業務内容も、体調の波や症状の変化によって仕事が続けられなくなることがあります。また、あらかじめ仕事内容を確認し了承していたとしても、仕事を始めてみると、その仕事内容が自分に向いていないこともあります。
【悩み】
“ 料理がすきだったので、できただけで、仕事はきついし、朝は早いので、大変なだけ、よくはないので、続けることができなかった。 双極性障害、小売・流通・商社系、飲食、女性 公務員は、休職などの制度は整っています。人数も限られ、病気であっても与えられた仕事は責任をもってやらなければなりません。うつ病で休職し、戻った時医師には無理をしないこと、残業もダメと言われましたが。薬のせいもあり注意力が持たず、時間もかかりミスもあり、残業してもうまく行かなくて続けられませんでした。 うつ病、女性 最初は単純作業で体を動かす仕事でしたので、何も考えずにひたすらもくもくと仕事をやり続けました。しかし慣れてきたころに、単純作業とプラスして管理業務や細かい事務作業を任されるようになりました。そのためかわからないですが、頭や神経(気)を使うようになり、うつ状態になる時が多くなり休みがちになりそのまま長期休暇→退社となってしまいました。 うつ病、メーカー・製造系、男性 最初は清掃だけだった事もあって、親身になって色々教えてくれ、自分のペースで働きやすかった。しかし半年と少し働いたところでフロントもやらなければならなくなってしまって、覚える事が増えてストレスが溜まりやすくなってしまった。 その他の精神疾患、IT・通信・インターネット系、清掃、男性 ” |
得意なことや好きなことを仕事に選んだ場合でも、働き方や勤務時間が特性に合わないことがあります。 精神障害のある方は、悪化や再発を防ぐために、規則正しい生活をおくることが必要です。そのため、たとえ自分の好きな仕事に就いたとしても、早朝勤務や深夜シフトなど不規則な勤務時間を強いられる場合は、生活リズムを整えることが難しくなるため、ふさわしい仕事とは言いきれないでしょう。
また、面接時には自分の特性に合っている仕事内容だと思っても、体調が悪化することもあります。さらに、職場の都合で業務内容が追加や変更されることもあります。その場合は、働き続けることが難しくなることもあります。
1-2.職場に状況を理解してもらえないという悩み
本人と職場との意思疎通が十分に図れていないと、精神障害のある方の離職は高まるようです。働きはじめると、入社時とは違う悩みも生じますが、その悩みが放置されたり、本人にとって働きにくい状況が続いたりすることで、働きづらくなるからです。
【悩み】
“ 業務に対する相談をしても、解決しない。言ったことを守ってくれず、負荷がかかりサービス残業となる。業務に対して上司の確認が無く、失敗すると担当が全責任を取らされる。 精神疾患になっても、会社は特に何もしてくれない。自分で病院を探して行くか、会社を辞めるしかない。 様子がおかしくても放置。 双極性障害、IT・通信・インターネット系、エンジニア・技術職、男性 悩みごとがあっても、気軽に相談できる人がいない。 一般の方と変わらない、仕事量だと感じる。急がなくていいといいながら、急がなくてはいけない雰囲気しかない職場環境。 忙しすぎて、心も体も調子を崩すことが多い。 そのため、度々休むことがある。休職も2回目。 自分自身の心と体が持つまでは、頑張りたいけど、いつまで、辞めないでいられるか、わからない。 強迫性障害、小売・流通・商社系、軽作業、女性 面接の時に障害のことは伝えたうえで、採用してもらいました。ただ、精神・身体ともに見た目では分かりにくい障害であるため、不調を訴えても十分に理解してもらえなかった。 適応障害、メーカー・製造系、飲食、男性 時々、予想外に沢山の書類整理をさせられたことでストレスがたまりました。周囲の話し声と笑い声が気になり、仕事に集中できないので上司に相談した。しかし、職場環境が良くならないのでその後退職しました。 統合失調症、金融・保険系、事務、女性 ” |
- 悩みを相談したにも関わらず何の対処も行われない
- 仕事に対する不満や困りごとがあっても相談できる人が職場にいない
このような職場は、環境の改善を望めません。やがて、職場への信頼感が揺らぎ、自ら職場を離れるという選択に至るケースもあります。
また、人手不足などにより慢性的に忙しい職場では、日々時間に追われながら仕事することになります。休暇の取得など、職場へ何か相談することがはばかられる状態にもなりかねません。
さらに、体調が悪いときも言い出しにくく、無理を重ねた結果、離職せざるを得ない状況になることもあるでしょう。こうした状況は、職場と十分にコミュニケーションが図れず、業務量の相談や調整が上手くなされなかったことが原因で起こります。
1-3.ハラスメントによる悩み
障害者雇用枠で働いた精神障害のある方の口コミからは、離職や転職の要因を、職場でのハラスメントと述べている方も多くいらっしゃいました。
【悩み】
“ 病状への配慮や理解が全く無く、言葉も態度もキツかった。「いない方がマシ」と言われ続けたのは、およそ2年前のことなのに未だに夢に見ますので、同じような職場には行きたくないという思いがあります。 うつ病、メーカー・製造系、エンジニア・技術職、女性 以前の仕事場では障害者認定されていないこともありましたが、現場の人間と上司(現場を知らない)との考え方の溝が大きく、且つ上司が高圧的だったため、ミス1つで大小に関わらず、大声で正確や人間性を否定され続けました。それはほぼパワハラで、私以外にもそのせいで多くの人が病気になったり、退職されたりしていました。 気分障害、サービス・外食・レジャー系、男性 調子が悪くなり、失敗すると厳しく指摘されてしまう。障害に関する理解が進んでいなかったので、誤解が生まれている時点では、自分の立場がどんどん厳しくなってしまっていた。時に応じて精神保健福祉士の職員の助言がないと、勤務し続けるのはしんどいなと感じた。 統合失調症、サービス・外食・レジャー系、販売・接客・サービス、男性 ” |
残念のことですが、ミスに対して必要以上に高圧的な叱責を受けた方もいます。こうした職場は、障害者雇用の実績や経験が浅く、病気や障害への理解が進んでいないのかもしれません。
ハラスメントが発生したり、ハラスメントを容認したりする職場は、精神障害の悪化を招く可能性があるため、無理にその職場で働き続ける必要はありません。
しかし、採用時にすり合わせた自分の特性や要望が、職場に伝わっていないことも考えられます。採用担当者や職場の上司などに相談することで、状況が変わる可能性もあります。
1-4.キャリア構築が困難という悩み
仕事を続けられない方の中には、その職場での将来のビジョンや、ステップアップするイメージが描けないから、という理由を述べる方もいます。
【悩み】
“ 障害者は原則契約社員としての採用で、昇給賞与なし。正社員登用の機会が与えられる人は1割に満たない。キャリアパスが描けない。 双極性障害、事務、男性 職場で上司とのやり取りがかみ合わず、人間関係でストレスばかり感じる。煩雑な業務ばかり任せられるのに、無駄に忙しいばかりで、やったことがしっかりと評価されない。障害者の雇用なので、給料が当初最低賃金以下に設定されており、働き続けていても、手取りの給料で生活していくこともままならない。 統合失調症、事務、男性 仕事量に対して、業務量が過多な為、給料が増えないし、環境も悪化しているため。 うつ病、事務、男性 やはり、障害を持っているという事だけで、補助的な仕事しか与えられず、責任を持たしてくれない。賃金が安い。 うつ病、サービス・外食・レジャー系、教育、男性 介護福祉士の資格も持っていても清掃や雑用等がメインで就労しています。ステップアップしたいですし、雇用形態、条件も昇格して働きたいです。 統合失調症、サービス・外食・レジャー系、清掃、男性 ” |
口コミを見ると、次のことに不安を感じている方も多くいらっしゃいました。
- 低賃金
- 昇給、昇格の機会がない、または機会が少ない
- スキルアップの機会がなく、やりがいを感じられない
- 将来のキャリアをイメージできない
将来に不安を覚えると、長く働き続けることは難しくなります。
ここまでは、仕事が続けられなくなる理由を、精神障害のある方から寄せられたコメントとともに見てきました。 悩みのない職場に出会い、長く働くことは理想ですが、就労前に職場の様子を全て知ることはできません。
それでは、思い描いていた職場とのギャップを感じたとき、そして、自分の特性には向いていないと感じたときは、退職するしか方法はないのでしょうか。
口コミをみていくと、職場で長く働いている精神障害のある方は、必ずしも最初からイメージ通りの職場環境であったわけではないようです。自ら工夫や対策を講じて、自分が働きやすい環境になるように、職場へ働きかけている様子がうかがえました。
次は、その工夫や対策など、自ら行える取り組みについてみていきましょう。
2.仕事を続けるための工夫や対策
今の職場が働きづらいと感じたときや、入社時とのギャップを感じたとき、状況を改善するにはどうしたらよいのでしょうか? ここからは、口コミを参考に改善策を以下の3つに分類して紹介していきます。
【仕事を続けるための工夫】 ・体調に合わせて休憩をとる、勤務日数や雇用形態を変更する ・自分にとって働きやすい環境を整える ・周囲の理解を得る |
さらに、職場へは何をどのように働きかけるべきかという点も一緒に整理していきましょう。
2-1.体調に合わせて休憩をとる、勤務日数や雇用形態を変更する
フルタイムで働く契約で就職し、体調が優れないときも無理をしてそのまま働き続けた方が、症状の悪化を招いてしまうという口コミがありました。どんな場合でも、条件を変えず働き続ける必要はあるのでしょうか?
職場は、一度採用した従業員は、できるだけ長く働いて欲しいと考えるものです。そのため、勤務時間や雇用形態の調整や変更が必要な場合は、従業員の希望を考慮してくれることもあります。また、自分の体調に合わせて休みをとることも、働き続けるためには大切です。
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