障がい者アスリートが直面するキャリアの課題と「デュアルキャリア」「セカンドキャリア」の重要性

パラスポーツの世界で活躍するアスリートたちは、競技に集中する一方で、その後のキャリアについても考える必要があります。ここで重要となるのが「デュアルキャリア」と「セカンドキャリア」という考え方です。

  • デュアルキャリア:アスリートが競技活動と並行して、学業や仕事などのキャリア形成も行うことを指します。競技引退後の生活を見据え、現役時代から社会人としてのスキルを培うことが目的です。

  • セカンドキャリア:競技を引退したアスリートが、その後の人生で新たな職業や生き方を見つけ、確立するキャリアを指します。競技で培った経験や能力を社会で活かすための支援が求められます。

障がい者アスリートの場合、これらのキャリア形成にはさらに多くの課題が伴うことがあります。企業による支援は、アスリートが安心して競技に打ち込み、引退後も社会で活躍するための重要な基盤となります。

ケイアイスター不動産が東京都の交流会で発表した革新的な雇用モデル

2026年9月9日、ケイアイスター不動産は、公益財団法人東京都スポーツ文化事業団(スポーツコミッション TOKYO)が主催する協賛企業・団体交流会において、パラスポーツ支援および障がい者雇用に関する具体的な事例を発表しました。この交流会は、東京2025デフリンピックをはじめとするスポーツ振興の推進と、協賛企業・団体間の連携強化を目的に開催されたものです。約30社、50名以上が参加する中、同社は「単なる支援で終わらせない相互に価値を生む雇用モデル」を共有し、多くの関心を集めました。

当日の発表では、多くの企業が課題として抱える「雇用の形骸化」や「選手引退後のキャリア支援」に対し、ケイアイスター不動産が取り組む独自の雇用モデルと具体的な成果が、以下の3つの軸を中心に紹介されました。

競技と仕事を両立する「デュアルキャリア型」雇用への移行とセカンドキャリア支援

ケイアイスター不動産では、所属するパラアスリートが定期的に出社し、業務と競技を高い次元で両立する「デュアルキャリア型」雇用を導入しています。この出社制度により、選手と一般社員との間でエンゲージメント(組織への愛着や貢献意欲)が高まり、選手が組織の一員としての帰属意識を持つことができます。また、競技に集中できる良好な環境が構築されているとのことです。

さらに、現役中の業務経験を活かし、引退後も安心して働けるよう、フル出社(正社員型)への移行スキームが構築されています。実際に、東京2025デフリンピックを機に引退した選手が2026年4月より正社員型へ移行するなど、長期的なキャリア形成が支援されています。

  • デフリンピック:聴覚に障がいを持つアスリートのための国際スポーツ競技大会です。夏季大会と冬季大会があり、オリンピックやパラリンピックと同様に4年ごとに開催されます。

アスリートの知見を社内還元する「パーソナル健康相談」

アスリートが持つ専門知識を社員の健康づくりに活かすため、「パーソナル健康相談窓口」を新設しました。この窓口では、ストレッチ方法やメンタルコントロールなどに関する相談に対応しており、これまでに約100名の社員が利用したと発表されています。選手と社員が直接関わる機会が増えることで、社内エンゲージメントの向上と健康経営の推進に寄与していると考えられます。

地域貢献活動を通じた社会的影響力の可視化

大宮の学校でのパラスポーツ授業(4年連続実施)をはじめ、年間41件に及ぶ社外活動を展開しています。これらの広報・啓発活動による波及効果は、ケイアイスター不動産の調査によると年間1億6,400万円相当(広告価値換算)と可視化されています。このような具体的な数値によって、選手自身が企画やメディア対応に主体的に関わるようになり、大きなマインドセットの変化が生まれているとのことです。

「ケイアイチャレンジドアスリートチーム」とは?その活動と実績

ケイアイチャレンジドアスリートチームは、「日本一挑戦するアスリートチーム」を理念に掲げ、障がいを乗り越え、さらなる高みを目指すパラアスリート集団として2019年4月に発足しました。現在、6名が所属し、デフフットサル、デフサッカー、ろう者柔道などの競技で活躍しています。

トップアスリートとして高いレベルのトレーニングと競技を続ける傍ら、社内研修の講師や商品開発に携わるなど、多岐にわたる業務を行っています。また、イベントや体験会を通してパラスポーツ認知向上のための啓もう活動も積極的に実施しています。これまでに、埼玉県本庄市を中心に県内外の企業や自治体、教育機関などと連携し、延べ5,000名以上がパラスポーツを体験しています。

チームの詳細や活動については、以下の公式サイトで確認できます。

まとめ:障がい者雇用の未来を切り拓くモデルケース

ケイアイスター不動産が発表したパラアスリートの「デュアルキャリア確立」と「セカンドキャリア支援」の事例は、障がい者雇用とパラスポーツ支援における新たな可能性を示しています。単なる経済的支援に留まらず、アスリートが企業の一員として価値を創造し、引退後も安定したキャリアを築けるような雇用モデルは、他の企業や団体にとっても非常に参考になるでしょう。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77