フットマークが「1/1の視点」で向き合った、既存製品への「小さな声」

創業80年を迎えるフットマークは、「たった一人の言葉」を大切にする「1/1(いちぶんのいち)の視点」をものづくりの理念としています。同社が展開する通学カバン『RAKUSACK(ラクサック)』は、「カバンが重すぎて壊れやすい」という顧客の声から誕生し、子どもたちの体への負担を軽減することを目指した製品でした。この『ラクサック』は広く支持され、小学生向けの『ラクサックジュニア』も発売され、ランドセルリュックという新たな市場を開拓しました。

しかし、利用者のアンケートには「障害や発達特性により、ファスナーやマグネットが使いづらい」という声が2〜3%存在していました。フットマークはこの声を見過ごさず、特定の誰かのためのカバンを作る「インクルーシブデザイン」のアプローチで、新ランドセル『ぴったセル』の開発をスタートさせたのです。

約3年の歳月をかけた共創開発の道のり

一般的なカバン開発が1年程度で行われる中、『ぴったセル』の開発は2023年春から約3年もの歳月をかけて行われました。当初はフットマーク社内で検証が進められましたが、利用者の細やかなニーズをより高度に具現化するため、2023年夏にはプロダクトデザインを担う株式会社GKダイナミックスが加わりました。そして、インクルーシブデザインの視点からリサーチを行うパートナーとして、CULUMUがプロジェクトに参画し、3社による共創体制が築かれました。

「春のラン活に発売を合わせる」といった事業計画ありきではなく、「当事者の声に応える、本当に納得できるものを作る」という信念のもとで開発が続けられ、2026年4月の発売に至りました。

CULUMUが支援したインクルーシブデザインの具体的な取り組み

CULUMUは、『ぴったセル』の開発において、インクルーシブリサーチと公式Webサイト制作の両面でフットマークを伴走支援しました。

開発の土台となる生活密着型の「インクルーシブリサーチ」

CULUMUリサーチという、人の特性で探せる共創型リサーチサービスの広告

CULUMUは、当事者が抱える言葉にできない課題を明らかにするため、発達特性のある子どもを持つ25家族へのアンケート調査を実施しました。さらに、ご家庭へのデプスインタビュー(深掘り調査)を行い、単なるヒアリングにとどまらない、長期間にわたる検証プロセスをデザインしました。

子どもたち自身に専用の日記帳や動画を用いて日常の不便さやこだわりをレポートしてもらうなど、多角的な手法を採用。理学療法士の資格を持つ親御さんの専門知識や、朝の準備におけるストップウォッチを使った工夫など、アンケートだけでは拾いきれない「リアルな生活動線と感情」を抽出しました。この綿密なリサーチ結果は、「誰にとっても使いやすい」製品へと昇華させるための重要なインサイトとなり、優れたデザインへと繋がる架け橋の役割を果たしました。

インクルーシブデザインを体現する「Webサイト制作」

『ぴったセル』の魅力を社会に正しく届ける公式Webサイトの制作もCULUMUが担当しました。一般的なランドセルのWebサイトが「親向け」に作られることが多い中、CULUMUは「親子で一緒に見られるサイト」をコンセプトに設計。子ども自身が読んで理解できるよう漢字にふりがなを振り、メッセージをシンプルに絞り込む工夫が凝らされています。

このデザインの背景には、制作を担当したCULUMUメンバー自身の「自分の子どもが同社の製品に出会ったことで、学校に通えるようになった」という強い感謝と原体験が込められており、誰もが抱える悩みに寄り添う温かいサイトとなっています。

新しい通学カバン『ぴったセル』の製品概要

「ぴったセル」というランドセルリュックのプロモーション画像

『ぴったセル』は、使いやすさと機能性を追求したランドセルリュックです。主な仕様は以下の通りです。

品名 ぴったセル
品番 101317
サイズ 高さ32.5cm×幅23.5cm×厚さ17.5cm
容量 11L
カラー ブラック、ネイビー、ミント、ラベンダー、ピンク
素材 本体 / ポリエステル100%(表面はっ水加工・裏面塩化ビニル樹脂加工)、かぶせ / 合皮
税込価格 本体 / ¥27,500、着せ替えフラップ / ¥4,400
公式Webサイト https://pittasel.jp/

ランドセル選びの多様化と深刻な社会課題「ランドセル症候群」

近年、ランドセル選び「ラン活」は早期化し、購入価格も高騰化する傾向にあります。加えて、小学生の重い通学荷物が心身に不調をきたす「ランドセル症候群」が深刻な社会課題となっています。

フットマークが発表した「2025年版/小学校の荷物重い問題 最新レポート」によると、教科書を入れたランドセルの平均重量は初めて4kgを下回り3.94kgに減少したものの、依然として小学1〜3年生の90.4%が「通学時にランドセルが重い」と感じています。また、90.7%の児童がランドセル以外のカバンも持ち運ぶ「2個持ち」が常態化している実態も明らかになりました。

入学後に「カバン自体が重い」などの理由で買い替えを検討した親は過去最多の9.2%にのぼり、布製ランドセルの認知度も64.6%に拡大するなど、通学カバンにおける選択肢の多様化が急速に進んでいます。『ぴったセル』は、特定の仕様に対する使いづらさだけでなく、こうした社会課題にも悩む多様な子どもたちとご家族へ向けた、新たな通学カバンの選択肢として期待されています。

インクルーシブデザインスタジオ CULUMUとは

イノベーションコンサルティング、インクルーシブデザイン、建築、アクセシビリティ、AIデザインスプリント、共創型組織変革といった6つの主要なビジネスおよびデザインサービス領域を提示

インクルーシブデザインスタジオCULUMUは、高齢者や障がい者、外国人など、多様な当事者と共創し、事業開発を支援する専門家集団です。5,000以上の非営利団体とのネットワークを活かした独自の調査パネルが最大の特徴で、これまでリーチが困難だった人々とのマッチングや定性調査を可能にしています。この仕組みは「当事者と近い距離で開発を支援する」と高く評価され、2024年度グッドデザイン賞を受賞しました。

CULUMUは、大手企業からスタートアップまで100件以上の取引実績を持ち、NPOや研究機関などのパートナーと共に、社会課題解決やDE&I(多様性、公平性、包括性)を推進するプロジェクトを多数手掛けています。

CULUMUの提供サービスに関するお問い合わせ

  • インクルーシブリサーチ・新規事業開発伴走について
    特定の課題を持つ当事者と共に課題を発見し、新しい製品やサービスのアイデアを共創するリサーチ支援を行っています。
    お問い合わせフォーム: https://culumu.com/service/research

  • インクルーシブなWebサイト制作・デザイン支援について
    多様なユーザーにとって使いやすく、ブランドの想いが正しく伝わるWebサイトやデジタルプロダクトの制作・UI/UXデザインを行っています。
    お問い合わせフォーム: https://culumu.com/service/digital

まとめ:『ぴったセル』が示すインクルーシブデザインの未来

フットマークとCULUMU、GKダイナミックスの共創によって生まれたランドセルリュック『ぴったセル』は、発達特性や手足に麻痺のあるお子さんの「使いづらい」という声に真摯に向き合い、インクルーシブデザインの考え方を社会実装した素晴らしい事例です。既存の製品では解決しきれなかった課題に対し、当事者の声を深く掘り下げ、約3年という時間をかけて丁寧に製品を開発する姿勢は、多くの企業にとって大きな示唆を与えるでしょう。

『ぴったセル』は、特定の誰かのためのカバンであると同時に、ランドセル症候群といった社会課題に悩むすべての子どもたちと家族に、新たな選択肢を提供します。このようなインクルーシブなものづくりが、今後さらに社会全体に広がり、誰もが使いやすい製品やサービスが増えていくことを期待します。

 

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77