耳が聞こえない、あるいは聞こえにくい方と、周りの方との意思疎通をスマートフォンで手軽にサポートしてくれるアプリをご存じでしょうか。

その代表格である聴覚障害者支援アプリ「こえとら」が、2026年8月24日より、クラウドファンディングサービス「READYFOR」にて常設寄付を開始しました [2, 12]。

これまで10年以上もの間、個人向けに完全無料で提供され続けてきたこのアプリが、なぜ今「寄付」という新たな一歩を踏み出したのでしょうか [2, 3]。この記事では、福祉や情報アクセシビリティに関心のある皆さまへ、「こえとら」の歩みと、彼らが目指す「社会全体で支えるサステナブルな未来」について分かりやすくご紹介します。


聴覚障害者支援アプリ「こえとら」とは?一通のメールから始まった奇跡

「こえとら」は、音声認識と音声合成技術を活用し、耳が聞こえない・聞こえにくい人と健聴者とのコミュニケーションを円滑にするスマートフォンアプリです。

この画期的なアプリの始まりは、2011年秋に届いた「一通のメール」でした。

当時、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)で音声翻訳アプリ「VoiceTra」の開発に携わっていたメンバーのもとに、熊本県立熊本聾学校の山田教諭(当時)から次のような要望が寄せられたのです。

「VoiceTraに、あえて翻訳をしないモードを作ってほしい」

「翻訳をしないモード」があれば、音声認識を**「聞こえない人の耳の代わり」に、音声合成を「話せない人の声の代わり」**にすることで、聴覚障害者と健聴者の日常的なコミュニケーションにそのまま役立つという、現場ならではの素晴らしい着想でした。

この声に応える形で、全国の聾学校の教員や生徒、そして多くの企業の協力を得ながら実証実験が重ねられ、2013年に「こえとら」として一般公開されました。


140万ダウンロード突破!「なくてはならない存在」への成長と評価

その後、2015年2月に総務省の協力と電気通信事業者5者の協賛を得て、現在の運営元である株式会社フィートへと引き継がれました。

以来、同社はスマートフォンの新しいOSへの対応やメンテナンスを重ね、個人の利用者へ「完全無料」での提供を続けています [5]。その実績と評価は、数字や数々の受賞歴にも明確に現れています。

  • 驚異の普及実績:2026年時点で累計140万ダウンロードを突破。2025年度のアクティブユーザー数は年間9万人以上に達しています。
  • 高い社会的評価
    • 2017年:第15回「産学官連携功労者表彰 総務大臣賞」受賞
    • 2024年:総務省「情報アクセシビリティ好事例2023」選定

「こえとら」は単なるアプリの枠を超え、多くの当事者とその周囲の人々にとって、まさに「社会的なインフラ」としての役割を果たしてきました。


なぜ今「常設寄付」が必要なのか?企業協賛から「社会全体で支えるサービス」へ

現在も「こえとら」は電気通信事業者などからの協賛金に支えられており、「今すぐサービスが終了してしまう」という危機的な状況ではありません

しかし、一部の特定企業による協賛を、将来にわたって「無期限」に前提とし続けることは、サービスの持続可能性という観点からリスクがあります。

そこで、株式会社フィートは未来を見据えた**「大きなシフトチェンジ」**を決断しました。

特定の企業だけに頼るのではなく、このサービスの意義に共感してくださる個人、企業、団体など、「より多くの皆さま(社会全体)に支えていただける仕組み」を作りたい

未来へ向けたロードマップ

  • 2年後の目標:クラウドファンディングなど、新たな支援の仕組みに確かな目処をつける。
  • 5年後の目標:これまでの電気通信事業者からの協賛金に依存せずとも、自立して「こえとら」を無料提供し続けられる「強固な運営基盤」を構築する。

今回の常設寄付は、現在の協賛制度を急に廃止するためのものではありません。これからの未来も、必要とするすべての人に無料でアプリを届け続けるために、**「みんなでサービスを育てる第一歩」**となるチャレンジなのです。


READYFOR「こえとら」常設寄付プロジェクトの概要と参加方法

今回の常設寄付で集まった支援金は、株式会社フィートの利益ではなく、すべて「こえとら」の運営・維持費のみに使用されます

具体的には、音声認識・音声合成・チャットサーバーの運用費用、新OSや新機種への定期的なアプリアップデート、アクセシビリティ改善といった「アプリを安全に、快適に使い続けるための費用」に充てられます 。

寄付は、クラウドファンディング大手の「READYFOR」にて、無期限の常設型として実施されています 。

寄付プランのご案内

  • 毎月じっくり応援(継続寄付)
    • 月額 500円 / 1,000円 / 2,000円 / 3,000円 / 5,000円 / 10,000円 / 30,000円
    • ワンコインから、毎月継続して運営を支えることができます。
  • 今回のみ応援(都度寄付)
    • 1,000円以上(任意の金額)
    • まずは一度、応援の気持ちを届けたい方におすすめです。

▶ プロジェクト詳細・寄付ページはこちらREADYFOR「こえとら」常設寄付プロジェクト 


まとめ:コミュニケーションを諦めなくてよい社会を、私たちの手で

「こえとら」の根底にあるのは、「聞こえない、聞こえにくいことで、コミュニケーションをあきらめなくてよい社会にしたい」という、開発当初から変わらない強い思いです 。

10年以上前に一通のメールから始まったこのバトンは、今、多くのユーザーや社会に手渡されています [11]。

福祉や情報アクセシビリティの未来は、決して特定の企業や開発者だけで作るものではありません。私たちの「少しずつの支援」が重なることで、大切な支援ツールがこの先何十年も、必要とする人の元に届き続けるようになります。

ぜひこの機会に、「こえとら」の活動やREADYFORでのプロジェクトページを覗き、彼らの温かい挑戦に耳を傾けてみませんか?

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77