Last Updated on 2023年5月6日 by 菅間 大樹
楽しくて魅力的なスタジオ・クーカの世界part1。
自由でハッピーな空気を生み出すアトリエが伝えてくれること。
神奈川県平塚市にあるstudio COOCA(スタジオ・クーカ)は、様々なハンディキャップを持った人が、その人の好きな事、得意な事で活躍する、仕事を得ることを目的に活動する福祉施設です。
絵画、創作物の展示販売、オリジナルグッズの製造、パフォーマンス活動など、クーカに通うメンバーの個性を生かしたユニークな活動で、全国の福祉事業所の中でもよく知られた存在となっています。
スタジオ・クーカのユニークな活動のレポートを、2回に分けてお届けします。
part1は、活動の中心になっているアトリエと、スタジオ・クーカが出来るまでのお話です。
もとは印刷工場だった3階建てのビルがまるごとスタジオ・クーカの建物。
まるでニューヨーク!?のような異質で素敵な存在感を放っています。
Studio COOCA(以下、クーカ)は、アートフェアへの出展や、展示会、ポップアップストアーやイベントでのパフォーマンスなど、様々な場所で、楽しさに溢れた世界観を発信し続けています。
クーカを運営するのは株式会社愉快。
活動の中心の“studio COOCA”、
クーカと同じ平塚にあるギャラリー&カフェ“GALLERY COOCA”,
クーカのグループホーム“care home CLASSO”を運営しています 。
クーカの名前の由来は、「(どうやって」食うか」。
ケアホームクラッソは、「暮らす」。
会社の名前「愉快」からも、福祉事業所らしからぬ遊び心が伺えます。
そんな遊び心に溢れたクーカとはどんなところなのでしょうか?
自由な空気がつくるハッピーなアトリエ
クーカに通うメンバーが制作活動を行うアトリエは1Fと3Fの2フロアにあります。
アトリエに入るとすぐメンバーの方が声をかけてくれたり、自分から作品を持って見せにきてくれたり、自由でオープンな雰囲気が溢れています。
アトリエでの過ごし方は自由。
今日何をやるかはメンバー自身が決めるそうです。
絵を描いたり、オブジェをつくったり、好きな事を自由にするのがクーカでの仕事。
何をやってよいかわからなかったり、道具の使い方がわからなかったりする人にはもちろんスタッフがアドバイスをしてくれますが、あくまでメンバーが主体の活動です。
アトリエには、様々なメンバーが通っていて、大きなテーブルで皆と一緒に制作している人もいれば、 一人で落ち着ける空間をベースに制作する人もいます。
中には、おしゃべりをしたり、ソファーでくつろぐ人も。
クーカでは、メンバーが制作した作品を、
ギャラリーやアートフェアなどで展示販売する他、グッズにして販売したり、ライセンスとしてデザイン提供したり、イベントにアーティストやパフォーマーが出演したり、様々な形で提供しています。
それらが売り上げとなり、工賃という形でメンバーに還元されます。
また、作品の売り上げの半分は、アーティスト本人の収入となります。
クーカでは、アートとして高い評価を受けているアーティストも多く輩出しています。
アーティストの中には、スタッフの月給を上回った月の収入がある人もいるそうです。
多くの人気アーティストを生み出しているクーカですが、
クーカに訪れてみると、あちこちに描かれたり、飾られたり、無造作に置かれたりしている様々な作品から伝わってくる「クーカらしさ」があると感じます。
それは、アーティストの個性を最大限に引き出して、一番伝わる形で見せること。
何よりもクーカのスタッフが一番にその個性や魅力を理解しているから。
そんなスタッフの愛情と理解、メンバーとの信頼関係がクーカのハッピーな世界観を作りだしているのかもしれません。
今では、既存の福祉のイメージを覆すユニークな福祉施設として知られるようになったクーカですが、 最初からアート活動を目指していたわけではないといいます。
株式会社愉快の社長、クーカの施設長でもある関根幹司さんから、クーカを立ち上げてから現在に至るまでのお話を伺いました。
ボールペンから創作活動へ。
「当時、多くの福祉施設は
企業の下請け仕事などを中心に生産活動を行う授産施設と、
比較的重度の障害をもつ方が多い更生施設に分かれていました。
施設をスタートさせるにあたって最初に考えていたのは、
陶芸や織物、絵画など、制作活動を行う工房でした。」
「ところが意外なことに通うメンバーの多くがやりたがったのは、
一工程90銭のボールペンの組み立て作業でした。
その理由は、クーカがある平塚の福祉施設や養護学校では、
企業の下請けとしてボールペンの組み立て作業を行うところが多く、
仕事として他の選択肢が認知されていなかったからではないかと思います。」
「メンバーが望むならと、ボールペンの仕事も入れて活動をスタートしたのですが、そうした生産活動が出来ない人たちもいて、
その人たちの出来る事として家でやっていること、例えばテレビを見たり、絵を描いたりなど、好きな事をしても良い、
という現在のクーカに繋がる活動の形が始まりました。」
しかし当時は、絵を描いたり自由に過ごしたりすることは、
メンバーのご家族や、他の施設からも生産的な活動として認められず、
理解されにくかったそうです。
それが変わるきっかけになったのが、東京の画廊を借りて開いた展覧会でした。
「地域で開かれる福祉展に出しても陶芸や織物ほど関心を持たれなかった絵や作品ですが、
それならば、自分達できちんと作品として見せる機会を作ろうと開いた展覧会が評判となり、 はじめて作品がアートとして認められ、徐々に色々な状況が変わっていったんです。 」
「東京で作品を見た九州の方から、アトリエに行って作家の方に会いたいと連絡があり、
その後も全国からお客様がアトリエを訪ねてくるようになりました。
訪ねてくるお客様からの称賛の言葉は、
メンバー自身や、それまで生産性のない困った行為として受け止めていたご家族の気持ちも変えていきました。
困った行為だったものが、素晴らしいものとして褒められるものに変わっていったんです。」
「最初からそれを目指してやったのではなく、
何が得意なのかをメンバーに任せてやってみたら、
自然とアート活動につながり、
それが認知されることでアート活動をする施設として知られるようになっていったんです。」
こうして、“その人の好きな事や得意な事で活躍する“ 工房の存在が徐々に知られるようになっていきました。
創作活動がもたらすもの
関根さんがクーカを始めた頃、
自傷他害など問題行動が多く腫物に触れるようにしか対応できなかったというメンバーのエピソードを話してくれました。
「彼はひたすら紙を切り、段ボールをむしってボンドでベタベタにした段ボールに並べ、段ボールの層を作っていく。
彼にとってその行為はアートではなく心地良いからやっている事なのですが、
それが出来上がった時の格好良さに驚き、
恐らくそれが“アート“だと感じた行為との最初の出会いでした。」
「それは彼にしかできない行為で、彼が心地よいと思う事をやった結果、
見るものにとっても心地よい作品になったんです。」
そうして自由に創作活動を続けていくうちに、彼の行動は落ち着いて平穏になっていったそうです。
好きな事を自由にやること、
それができる環境によって、不安や苛立ちよりも安心感や楽しさの方が強くなっていったからかもしれません。
関根さんが見せてくれた2人のアーティストの原画があります。
「2人共、クーカに通うようになって、ほとんど初めて(学校の授業など以外で)絵を描いたのですが、それを見た時本当に驚きました。
アングルとかタッチとかイラストレーターと言っても良い位のものなんですが、
彼らはそれを意識して描いているわけではなく、彼らにはそういう風に見えていて、それを描いているんです。」
クーカには、他の福祉施設での規則や決められた作業、環境や雰囲気に馴染めず、クーカに通うようになったメンバーもいて、
彼らもそうだったといいますが、
自由で安心できるクーカの環境や創作活動を通じて、落ち着いていったそうです。
創作活動が居場所や安定を得るきっかけになることもあれば、
何かにとりつかれたように創作活動に打ち込み看板作家となったアーティストが、
つきものが落ちたようにパタッと創作をやめてしまった事もあるといいます。
でも、それによって平穏な日常や安らぎを得たのだとしたら、それで良いのだと関根さんは言います。
それはクーカでの創作活動が、
「その人にとって楽しいもの、心地よい事を追求すること」で、
作品を作ることが目的ではないことを表しているのではないでしょうか。
働くこと、障害という価値観を変える
関根さんが障害福祉の仕事に携わってから30年余りになるそうですが、 以前と比べて状況は良くなっているのでしょうか?
「例えば車椅子での移動は、バリアフリー対策やユニバーサルトイレの設置、お店や人の対応の変化など、以前とは比べ物にならないほどスムーズになりました。
しかしそういったハード面だけでなく、障害に対する価値観や、働くことの価値観を変えていかなければならないと考えています。」
障害に対する価値観とは?
それについて関根さんが考えさせられたエピソードがあるそうです。
「それは、人類の進化をテーマにしたあるテレビのドキュメンタリーでした。
人類の進化と介護にまつわるエピソードで、
歯がない状態で長く生きた人骨が発見されたそうなんですが、
そこから推測されるのは、他者による介護があったという事なんです。
人間は弱肉強食という自然の摂理に反して、
足手まといになるかもしれない弱者を介護し、
集団で助け合う方法を選んで生き延びてきたんです。
それを見た時、そこに人類が生き延びてくることが出来た存在意義があるのではないかと思ったんです。」
障害をもつ人だけでなく、ケガや病気や加齢など、人の助けが必要になる事は誰にでもあります。
“助けること、助けられること”が人類を生かし進化させてきたのだとしたら、
全ての人が生きる意味がそこにあるのかもしれません。
働くことの価値観については?
「働くこと=生産性を上げてお金を稼ぐ、というのは一つの価値観であって、
お金でない価値を大事にして暮らす事を選ぶ人もいます。
障害があっても、それを不幸とは感じずに幸せに生きている人もいます。
やろうと思ってもできない事のある人もいて、色々な人や価値観がある。
役に立つ、立たないではない、別の価値観、それを支援していきたいんです。」
「障害がある=不幸というとらえかたをする人がいるのも事実ですが、
障害があるから不幸なわけではなく、本人や家族、まわりの人たちが幸せだと感じる、少なくとも不幸だと思わないような世の中になればいいと思っています。
そのためにも障害や働くことに対する価値観を変えていきたいんです。」
楽しさの追求
クーカの活動は外から見てとても幸せで楽しそうに見えると伝えると、
関根さんは、それを目指していると答えてくれました。
「楽しいを追求すると、つらいことや厳しいことも乗り越えられる。だからまず楽しいを追求する。」
のだそうです。
取材中、関根さんの部屋にはメンバーが自由に出入りして、嬉しそうに絵を見せたり、楽しそうに話をしていました。
その人の好きな事、得意な事で活躍する、仕事を得ること、がクーカでの活動です。
それは自由に自分の個性のままいられるという、幸せな自己肯定感につながっているのだと感じました。
その活動や魅力が広く伝わることで、人々の価値観は変わっていくのではないでしょうか。
「studio COOCA part2」ではクーカのギャラリー&カフェ GALLERY COOCAとクーカが誇るパフォーマー達にフォーカス。お楽しみに!
【studio COOCA】
運営:株式会社愉快
生活介護・就労継続支援B型事業所
スタジオクーカは様々なハンディキャップを持った人が、その人の好きな事・得意な事で活躍する、仕事を得る事を目的に活動する福祉施設です。 絵画・創作・オリジナルグッズ製造・展示販売やパフォーマンス活動を行っています。
〒254-0052 神奈川県平塚市平塚4丁目15-16
website https://www.studiocooca.com/
facebook https://ja-jp.facebook.com/studioCOOCA/
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