属人化された「適合」ノウハウの課題

身体に重い障がいがある方が、日々の生活や仕事、学習、余暇活動にテクノロジーを活用するためには、「適合」と呼ばれる専門的なプロセスが不可欠です。これは、個々の心身の状態、実現したいこと、利用環境、そして支援体制といった多岐にわたる要素を統合し、最適なツールの選定や調整を行うものです。この専門性は作業療法士の職域と親和性が高いものの、現状では特定の専門家が育成されにくい構造的な課題が存在します。

具体的には、適合実践に要する時間と専門性が、既存の医療保険や福祉用具制度の報酬と十分に紐づいていないことや、重度肢体不自由者の対象者がリハビリテーション全体のごく一部であるため、知識や技術を蓄積する訓練・実践機会が不足していることが挙げられます。

その結果、適切な適合支援は、一部の作業療法士やボランティアによる個人的な活動、あるいは販売事業者の採算度外視の努力といった「善意」に頼らざるを得ない、脆弱な状況にありました。

医療機器を装着した人へのケア

足元の青いチューブとタオル

「adapt AI」による解決策

「adapt AI」プロジェクトでは、この属人化された課題に対し、AI技術を活用して解決を目指します。人間の心身や生活のあり方は極めて多様であるため、「AならばB」といった画一的なルールに当てはめることは困難です。

そこで本プロジェクトでは、言語化しにくい身体感覚や感情、現場で生じる文脈までを読み取る熟練支援者の直感的な判断プロセスを、ディープラーニングなどの技術を用いてAIに学習させます。教師データにはWeb上で公開されている情報ではなく、実際に現場で発生した適合事例を分析した、熟練者の思考が凝縮されたデータを使用します。これにより、言語化が難しい判断をアシストできるAIモデルの開発を進め、2026年夏の検証開始を目指しています。

データセットの構築は、作業療法士である小林大作氏(株式会社アシテック・オコ 代表)との提携により実施されます。また、プロジェクトで取り扱うデータは、個人を特定できる情報を排除した匿名加工データのみを使用し、プライバシー保護が徹底されます。

プロジェクトの目指す社会

「adapt AI」プロジェクトの最終的な目標は、「身体の状態に関わらず選択肢のある社会」を実現することです。AIによって適合ノウハウが広く共有されることで、日本中どこにいても、誰もが一定水準以上の適切なツールやソリューション、そして適合支援を受けられるようになるでしょう。

さらに、「adapt AI」の運用を通じて、これまで見過ごされがちだった未解決のニーズや願いが可視化され、新たな商品・サービスの開発や福祉全体の向上にも貢献することが期待されます。技術の進歩は止まることなく、便利なツールが次々と生まれる中で、制度や属人性が障壁となり、その恩恵を受けられない状況を解消し、身体的な制約があっても自らの意思で生き方を選べる社会を目指します。

身体の状態に関わらず「選択肢」のある社会へ

マイノリティのニーズを社会全体の財産に

重度肢体不自由者のように極端なニーズを持つ人々は、既存の社会システムや製品、サービスが見落としている問題点に気づき、イノベーションのきっかけを生み出す「リードユーザー」としての側面を持っています。例えば、段差の解消は車椅子利用者だけでなく、高齢者、怪我人、ベビーカーを押す家族など、より多くの人々に利益をもたらします。

「adapt AI」に集積される重度肢体不自由者のニーズやソリューションへのアクセスを企業などに提供することで、マイノリティへの配慮と社会全体の便益を両立させる取り組みが加速されることを目指します。

プロジェクトメンバーの募集

本プロジェクトは、日々の支援の質的向上に直結する重要な取り組みです。重度肢体不自由者の生活や願いに向き合う専門家と、テクノロジーでそれを強化する技術者の双方が不可欠とされています。

現在、以下のプロジェクトメンバーが募集されています。

  • コアメンバーとなる「作業療法士(OT)」
    テクノツールに所属し、現場での支援を行いながら、適合支援の実施およびAI開発の促進を担います。適合スキルや経験は問わず、熱意のある方が求められています。
    詳細はこちら:
    https://ttools.co.jp/blog/2320/
  • AI開発を補佐する「エンジニア(プロボノ・副業)」
    サービス化を見据えたAI設計のアドバイスや、現場での実践事例を継続的に学習させるMLOpsの設計・構築をサポートします。LLMのファインチューニングや機械学習を用いたシステム開発の実践経験が求められます。プロボノや副業など、柔軟な関わり方が可能です。
    フォームはこちら:
    https://forms.gle/HvyJqJQAVXiUA7qg6

代表者からのメッセージ

テクノツール株式会社 代表取締役 島田真太郎氏

テクノツール株式会社 代表取締役の島田真太郎氏は、次のようにコメントしています。

「『仕事がしたい』、『自分でご飯を食べたい』といった切実な願いに応えるため、私たちは30年以上にわたりツールを提供し続けてきました。しかし、本当に価値があるのは、ツールそのものよりも、一人ひとりの個性と可能性に寄り添ったツールの使い方、つまり『適合』です。身体の状態に関わらずチャンスのある社会をつくるため、そして超マイノリティの存在が価値創造につながる場面を増やすため、本プロジェクトを推進してまいります。」

テクノツール株式会社について

テクノツール株式会社は、「本当の可能性に、アクセスする。」をスローガンに掲げ、肢体不自由者向け入力機器やアームサポートの開発、輸入、販売、点字文書作成ソフトの開発、販売、そして就労継続支援B型事業所の運営(子会社:テクノベース株式会社)を行っています。

TECHNO TOOLS ロゴ

本件に関するお問い合わせ窓口は、テクノツール株式会社 広報担当のコンタクトフォームです。

https://ttools.co.jp/contact/publicrelations/

関連リンク:
https://ttools.co.jp/project/2414/

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77