Last Updated on 2023年5月1日 by 菅間 大樹
「病院で働く手話言語通訳者の全国実態調査」の調査報告書で明らかに
「手話言語通訳者を配置している病院は全国で0.5%である」。これは、国立大学法人筑波技術大学（障害者高等教育研究支援センター 大杉豊教授）と特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター（所在地：神奈川県横浜市港北区 理事長：伊藤芳浩）が連携して実施した、2020年度調査事業「病院で働く手話言語通訳者の全国実態調査」の調査報告書から判明したことです。
病院で働く手話言語通訳者の全国実態調査
https://newscast.jp/attachments/Zs4uIAAMOEChMXmyVhi9.pdf
アンケート結果から、主に以下のような状況が分かっています。
病院が手話言語通訳者を配置しても、通訳の財源がなく経営的な利点がない
調査の結果、病院内手話言語通訳の財源は、多い順に「病院経費」が21/31病院（67.7%）、「特になし」が4/31病院（12.9%）、「自治体経費」が3/31病院（9.7%）となりました。
一部の地域で、意思疎通支援事業により手話言語通訳者が病院へ定期配置されている例があったものの、ほとんどの病院がそれぞれの経費で手話言語通訳者を配置・運営していることが判明しました。独自の財源等が確認された病院はない一方で、調査から確認できた2019年度の22病院における総通訳件数は26,411件であり、9病院で確認できた総対応延べ人数は7,265人、12病院 (無回答1病院含む) で確認できた総対応実人数は5,154人となっています。
つまり、多くの手話言語通訳件数が発生しているものの財源なく運営されていることから、病院としては経営的な利点がないというう状況が判明しています。
手話言語による医療通訳育成カリキュラム基準がない
手話言語による医療通訳育成カリキュラム基準がなく、医療の基礎知識等医療の専門性習得・向上は、ほぼ病院内手話言語通訳者の自己努力に委ねられている現状も判明しています。また、医療・福祉に関する免許や資格を有する者を除き行われた、医療に関する基礎知識等、医療の専門性の有無に関する質問では、19/20人 (95.0%)「なし」と答えています。本調査から、院内での手話言語通訳の実能力向上などは個人にゆだねられていることが多いようです。
なお、H30事業の結果を踏まえて、2019年度から国立大学法人筑波技術大学が医療分野における手話言語通訳者育成カリキュラムの検討の取り組みを開始しており、現場環境の改善に期待が集まります。
病院内手話言語通訳者の身分が不十分
調査によると、兼務（手話言語通訳者とはまた別の医療職や事務職としての雇用）で雇用されている場合を除き、28/33人 (90.9%) が非正規雇用となっていることがわかりました。また、病院内手話言語通訳と派遣手話言語通訳の対応範囲や役割が明確にされていない、という問題も判明しています。
ほか、「病院内手話言語通訳者によるネットワークがなく、病院内通訳体制がそれぞれの病院独自になっており統一されていない」というのも大きな課題となっています。
これについては本調査を機に、病院内手話言語通訳者によるネットワークを構築し、全国の病院内手話言語通訳の体制標準化の実現を目指すことになったことが報告されています。
手話言語通訳者が配置されている病院はまだまだ少ない
聴覚障害者の医療に関心を持つ医療関係者のネットワーク（以下、聴障・医ネット）の手話通訳者設置医療機関リストによると、全国20病院に手話言語通訳者が配置されているとのことです。
これは、厚生労働省による「医療機関における外国人旅行者及び在留外国人受入れ体制等の実態調査」によって報告された音声言語の医療通訳者が配置されている255病院と比較しても、非常に少ないことがわかります。
ただ、H30事業の調査では、聴障・医ネットの報告にはない手話言語通訳者が配置されている病院の存在について多くの報告がされており、より正確な現状把握のため、本調査が行われたとのことです。
調査の結果から、手話言語通訳者を配置している病院は全国で42病院存在していることが明らかになりました。しかし、これはすべての病院の内、たった0.5%（42/8324病院）にすぎません。
また、調査報告書では、病院で働く手話言語通訳者において、養成・研修面と制度・体制面の両方でニーズと課題が山積していることついても触れています。
