日本の花生産の30%を知的・精神障がい者の仕事に

礼儀を重んじる日本には、人生の節目や慶弔の時に花を贈るという美しい文化があります。
今回ご紹介するNPO法人 AlonAlonは胡蝶蘭を主としたギフトフラワーを栽培・制作する障害者就労継続支援B型事業所。

千葉県富津市にある敷地面積6600㎡、約2万本もの胡蝶蘭が栽培できる農園「オーキッドガーデン」では、知的障害のあるメンバーが、蘭の栽培からギフト用のラッピングまで個々の個性に合わせた作業を分担しながら仕事に励んでいます。

胡蝶蘭仕上げ作業

年間330億円の胡蝶蘭マーケットに仕事を作る

AlonAlonを立ち上げた理事長の那部 智史(なべ さとし)さんは、自らがこれまで培ってきたビジネススキルを生かし、福祉事業所だけでなく、障害者雇用のありかたに新しい形を作り出そうとしています。

胡蝶蘭のマーケットは年間330億円、巨大な市場です。
「日本の花生産の30%を知的・精神障がい者の仕事に」をキャッチフレーズに、この大きなマーケットで新しいビジネスのフレーム作りに取り組む那部さんは、重度の知的障害のあるご子息を持つ親でもあります。

ご自身の経験から、障害のある人たちの就労や福祉事業が抱える問題点を感じ、ビジネスの力でその問題を解決していきたいと、2017年に胡蝶蘭栽培の拠点となるオーキッドガーデンをオープンしました。

那部さん写真
AlonAlon理事長の那部 智史さん
那部さん写真
那部さんとご子息

スタートからわずか3年で、オーキッドガーデンでの胡蝶蘭栽培を軸に、福祉事業の枠を超えた様々な事業を展開。
そして現在もコロナウィルスによる世界的影響の中、「アフターコロナ」を見据えて驚くべきスピードと行動力で新しいフレームを作り続けています。

ビジネスの力で社会課題を解決し、障害のある人たちの経済的自立を目指すAlonAlonの事業とはどのようなものなのでしょうか?

バタフライサポータープロジェクト

AlonAlonの胡蝶蘭栽培を支えるのは「バタフライサポータープロジェクト」という制度です。
「バタフライサポーター」は苗のオーナー。1万円で10株の苗を購入、苗は半年かけてオーキッドガーデンで10本の胡蝶蘭に育てられます。
そのうちの1本がアレンジメントフラワーとしてオーナーに届けられ、残りの9本は企業に販売され働いている障害者の収入になります。

出荷風景
出荷される胡蝶蘭。トラックへの積み込みもメンバー自らが行います。

オーナーに届けられる花を、贈答用として指定日に相手に届けることもできるこの制度は多くの賛同を受け、全国各地からのサポーターは1500人を超えるまでになりました。

2019年の台風被害で苗5000株が壊滅的な被害を受けた際も、全国のサポーターから支援が寄せられました。
サポーターや企業、関係者の支援やバックアップのおかげで、2020年3月には生産量は以前の水準を取り戻し、花の出荷もできるようになりました。

しかし台風被害からの復興も冷めやらぬうちに、コロナウィルスの影響でお祝い花を贈る機会が激減。4月から胡蝶蘭の注文キャンセルが続き丹精込めて栽培した胡蝶蘭が出荷できなくなってしまったのです。

「お花の廃棄」という最悪の事態を避けるため、4月下旬から5月中旬にクラウドファンディングで6,7月出荷分を特別販売。クラウドファンディングは大きな反響を呼び目標額を大幅に超え、617人の温かいサポーターに支えられ終了しました。

また、今回のクラウドファンディングで家庭向け1本立ての胡蝶蘭を販売したことにより、「花がまだ咲ききらないうちに出荷した方が喜ばれる」という、企業へのお祝い花とは違ったニーズを教えてくれました。

胡蝶蘭

そうした声に応えて、7月からはご家庭向け1本立て胡蝶蘭の通常販売をスタートするそうです。

サポーターが拡大してくれた販路

苗のオーナーであるバタフライサポーターによって購入された10株の苗から育てた10本の胡蝶蘭のうち、1本がサポーターへ、残り9本が企業へ販売されますが、販売先の企業は現在約2000社。

販路を拡大していく手助けになったのはこのサポーター制度です。
サポーターが勤務先の企業や知人にカタログを配布してくれることで、年間約200社の販路拡大につながっていきました。

企業にとっても慶弔用として必要な花をAlonAlonが請け負うことで、B型事業所としては全国平均を大きく上回る月額4~10万円の高い工賃を実現しています。
同時に、販売先の企業が広がっていくことで、AlonAlonは新たなステップを踏み出すことになりました。

企業への就職を後押しする独自のフレーム

企業に就職することが難しいとされる障害のある人が通う就労継続支援B型事業所の全国平均の工賃は月額16,118円。
障害者年金と合わせても生活保護の受給額に届かず、一人で自立した生活を送ることが難しいのが現状です。
B型事業所に通う人は全国で30万人。そのうち企業に就職する人は現状1%程度です。

AlonAlonでは働く意欲のある人が皆、経済的に自立した生活ができるよう、高い工賃を得られるしくみだけでなく企業への就職を進めるしくみ作りも行っています。

温室作業風景

那部さんはNPO法人であるAlonAlonの子会社として2017年11月に、生花の生産、販売、物流まで幅広いフラワービジネスを手掛ける上場企業アートグリーン株式会社と合弁会社A&A株式会社を設立しました。

A&A株式会社ではAlonAlonの胡蝶蘭栽培を軸に様々な事業を展開し続けています。
その一つが貸農園事業です。

胡蝶蘭の販売先である企業のうち約10%は年間500万円以上花を使う企業だそうです。
そうした企業に対し胡蝶蘭の自社栽培を提案する一つの形が「貸農園」です。
AlonAlonが持つ農園の一部を使い、AlonAlonの栽培技術を学んだ障害のあるメンバーが社員としてその企業に就職。
自社農園として自社で利用する花の栽培を、障害のある社員が担うしくみです。

メンバーと那部さん

この貸農園事業はイオングループや、ベルシステム21、アークホールディングスなど多くの企業と提携、AlonAlonからも多くのメンバーが就職していきました。
現在も半年に1社の割合で農園が増え続け、同時に雇用も生み出しています。
また、AlonAlonの農園の一部では自社で利用する花を栽培しきれない規模の企業もあり、帝人グループの特例子会社として帝人農園を設立するに至りました。
2020年8月にはオーキッドガーデン第2農園が完成予定。
AlonAlonのメンバーの就職先となる「企業の自社農園」として使われます。

第二農園
建設が進む第2農園の様子

このように貸農園事業は、企業に新しい事業態を提案する新しい仕組みです。
「障害者雇用でお花を自社栽培する企業に栽培インフラを提供する」という独自の事業態でアフターコロナの厳しい環境下でも、障害のある人たちの雇用の創出、自立を促進していきたいと、チャレンジを続けています。

胡蝶蘭栽培を支える在庫と物流のプラットフォーム作り

A&A株式会社で手掛ける大きな事業の一つが、胡蝶蘭の在庫と物流のプラットフォーム作りです。
AlonAlonや企業への貸農園で生産される胡蝶蘭は、ギフトとしての性質上3~4月には需要が増える一方、稼働しない時期もあります。
その問題を解消するためA&Aでは、各農園で生産された花を自社の物流センターに集め、出荷するシステムを作りました。

物流インフラ図解

これにより各農園は時期に合わせた生産調整や過剰在庫の心配をすることなく、安定した生産活動に従事することができるのです。

企業への就労のバックアップ

AlonAlonで働く喜びを感じ、自信を培ってきた多くのメンバーが、イオン銀行、ベルシステム24、帝人、ACMC、アークホールディングス、Chubb損害保険など多くの企業に就職していっています。

現在の福祉の制度上、AlonAlonのような就労継続支援事業所では事業者への給付金は利用者の数に応じて決まるため、利用者を抱え込もうとするケースもあります。
喜ばしいはずの企業への就職ですが、事業所の利用者数が減ることにもなる制度上の問題点でもあります。
そうした現状も1%という低い就労率につながっているのかもしれませんが、AlonAlonでは現在企業への就労率が50%。

8月完成予定のオーキッドガーデン第2農園の増築で、今後さらに就労率は高くなるはずです。
AlonAlonではこれからも働く意欲のある人にどんどん外に出ていって欲しいと、企業への就職を積極的にバックアップしています。

2020年3月にはNPO法人AlonAlonとして2つ目の福祉事業がスタートしました。
AlonAlonオーキッドガーデンから企業へ就職したメンバー(AlonAlonではパートナーと呼んでいます)に対して、安心して仕事が続けられるようにサポートする就労定着支援事業所AlonAlon Visionの開設です。
もともとAlonAlonで働いていたスタッフが継続してサポートすることで、就職後も安心して働き続けられる環境を維持していくことを目指しています。

働くことの意義

那部さんは自身の経験から、障害のある人たち、特に重度知的障害のある人たちが経済的に自立をして暮らしていくことが難しい現状を変えたいと、AlonAlonの事業を立ち上げました。
社会で働き、経済的にも自立をしていくことは当事者だけでなく親や家族の気持ちの安心にもつながるのだといいます。
不安でいっぱいの家庭よりも、ハッピーな家庭で過ごす方が良いに違いありません。
「家族の幸せは当事者の幸せにもつながる」
経済的な自立が生み出すのは、経済面の安心だけではなく心の安心でもあるのです。

作業風景

AlonAlonではパートナーそれぞれの個性に合わせて、苗の水やりからギフトフラワーのラッピングまで多くの作業工程を分担して行っています。
最初は一つの工程から担当していくそうですが、AlonAlonで大事にしているのは、どうやって苗が育ち、最終的にどうやって商品となっていくのか仕事の流れを見せること。
それによって自分が担当している作業の大切さを知り、それが自己肯定感につながっていくそうです。

胡蝶蘭仕上げ風景

最初は一つの工程しか出来なくても、隣でやっている作業を見て次はそれをやってみたいというように、チャレンジしたい気持ちが生まれてくるといいます。
そうして色々な作業が出来るようになることで仕事に対する自信が生まれ、働くことが楽しくなっていきます。
自分が手を抜けば枯れてしまう植物の栽培に携わっているということも、仕事に対する責任感ややりがいを生み出す一つの作用なのかもしれません。

働いて暮らす場所

AlonAlonが新しくスタートした3つ目の福祉事業が、グループホーム「AlonAlon Base」です。
AlonAlonの拠点である千葉県富津市に新しくオープンしたグループホームは、全国でも社会課題になっている「空き家」を快適な居住環境に改装。
グループホームのオープンによりAlonAlonで働くパートナーや、就労して農園で働く人たちが、働きながら職場の近くで安心して自立した生活を送ることができます。

グループホーム
那部さんが考える、働き暮らすための町作り構想

深刻な社会問題にもなっている「親亡き後」の生活基盤の提供、そして「空き家」の有効活用にもつながるAlonAlonらしいグループホームの展開。
来期までに15棟を目標に拡大予定だそうです。

新しいチャレンジ

貸農園事業が中心のオーキッドガーデン第2農園に続き、新しいチャレンジの場であるオーキッドガーデン第3農園では、新しく野菜やフルーツの栽培を開始しました。
2021年の本格稼働に向けて様々な農作物の栽培にチャレンジしています。

第3農園風景
第3農園での収穫風景。グループホームの食卓に上がるそう。

農福連携が提唱されていますが、まだまだ利益の上がる取り組みが少ないのが現状です。
衰退していく日本の一次産業(農業・漁業・林業)や、東京への一極集中など、日本が抱える社会課題に貢献できる事業にAlonAlonは取り組み始めています。

現在千葉県木更津市に開業予定のホテルと進めているプロジェクトは、「農福連携」+観光。
海外のリゾートホテルのようにロビーを蘭で飾ったり、ベッドメーキング後のウェルカムフラワーを飾ったり、ホテルには欠かせない「花」をAlonAlonが提供するプロジェクトです。
野菜やフルーツなどの食材の提供も視野に入れて、新しい第3農園の準備を進めています。
「観農福連携」という新しい形を、千葉を拠点にAlonAlonが切り開いていこうとしています。

ALONALON正面写真

常に時代の動きを感じながら新しいフレームを作り出し、「ピンチをチャンス」と捉え常に前向きにチャレンジを続ける那部さんが描くストーリーは、強い思いと行動力、冷静なビジネススキルによって確実に実現されていきます。
コロナ禍の中でも驚くほどのスピードで新しいストーリーが作られていきました。
その原動力になっているのは、「AlonAlonで働くパートナーたちへの思い」に違いありません。

「障害者福祉事業を行っている一人として、事業の成功は利用者の幸せの延長線に置くべきだと考えております」
SNSで発せられた那部さんのこの言葉が、それを物語っているのではないでしょうか。

【特定非営利活動法人AlonAlon】
URL : www.alon-alon.org
Facebook :www.facebook.com/kyonan.alonalon

AlonAlonオーキッドガーデン
 就労継続支援B型事業所/ 胡蝶蘭の栽培
〒293-0035 千葉県富津市西大和田1234-2
TEL/FAX : 0439-33-9138