この記事で分かること

  • 病気と仕事の両立を支援する新しいプログラムの概要

  • 「はたらく」という言葉に込められた意味と、プログラムの対象者

  • 治療と仕事の両立に必要な3つの軸と、本プログラムが提供する価値

  • プログラムの詳細な内容と、参加方法

  • プログラム開発者のメッセージと今後の展望

慢性疾患と共に「はたらく」スキルを学ぶプログラムが始動

一般社団法人ピーペックは、病気を持ちながら働きたい、あるいは働き続けている人々を対象とした「病気とともに、自分らしく『はたらく』プログラム」を、2026年10月10日(土)より開講すると発表しました。

このプログラムは、くらしの土台を整える「慢性疾患セルフマネジメントプログラム(CDSMP)」全6回と、ピーペックが独自に開発した「治療と仕事の両立支援プログラム」1回を組み合わせた、計7回のオンラインワークショップです。病名を問わず参加でき、第1期は公益財団法人洲崎福祉財団の助成により、参加費無料で提供されます。

病気とともに、自分らしく「はたらく」プログラムの告知

「働く」ではなく「はたらく」に込められた意味

本プログラムでは、賃金労働に限定せず、より広い意味での社会との関わりや役割を持つことを含意するため、「働く」ではなく「はたらく」という表記を採用しています。休職中の人やこれから就職を目指す人も対象となり、身体を動かすこと、止まっていたものが動き出すこと、誰かと関わることなど、自己実現に向けた多様な活動を支援する意図が込められています。

治療と仕事の両立支援の現状とプログラム開発の背景

2026年4月1日、改正労働施策総合推進法の施行により、職場における治療と就業の両立支援(治療と職業生活の両立を図るための支援)は、すべての事業主の努力義務(法律上の義務ではないものの、努力すべきとされていること)となりました。これにより、事業主は基本方針の表明、研修、相談窓口の明確化、休暇制度・勤務制度の整備など、環境整備を進めることが求められています。

しかし、実際に体調の波とつきあいながら仕事を続けるためには、本人が上司や同僚へ何をどう伝えるか、どこまで開示するか、どんな基準で休むと決めるかといった判断が不可欠です。これまでの両立支援研修は「支援する側」に向けたものが中心であり、病気を持つ本人がこれらのスキルを学ぶ場は限られていました。

厚生労働省の調査によると、何らかの疾患により通院しながら働く労働者の割合は、2022年時点で40.6%に達しており、1998年の25.5%から上昇を続けています。今後も労働力の高齢化などにより疾病リスクを抱える労働者は増加が見込まれ、職場で両立への対応が必要となる場面はさらに増える可能性があります。

両立に必要な3つの軸:制度・組織風土・スキル

一般社団法人ピーペックは、治療と「はたらく」ことの両立には以下の3つの軸が必要であると考えています。

  1. 制度: 休暇制度・勤務制度など、事業主が整えるルール
  2. 組織風土: 制度を気兼ねなく使える職場の関係性
  3. スキル: 本人が自分の状態を把握し、セルフマネジメント(自己管理)しながら周囲と調整する力

2026年4月の法改正により「制度」は前進しましたが、制度が「あること」と「使えること」は異なります。その使いやすさを左右するのが「組織風土」であり、そして、その組織風土を形成する入口となるのが、本人が自分の状態を言葉にする「スキル」です。このプログラムは、特にこの「スキル」の獲得を支援することに焦点を当てています。

慢性疾患セルフマネジメントプログラム(CDSMP)とは

本プログラムの基盤となっているのは、米国スタンフォード大学医学部患者教育研究センターで開発された、慢性疾患を持つ人向けの自己管理支援プログラムです。日本ではNPO法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会が展開しており、本プログラムは同協会との共催で実施されます。

このプログラムの最大の特徴は、「やらされる自己管理」ではなく「自分のやりたいことを実現するための自己管理」を、参加者同士の学び合いを通じて身につける点にあります。海外での無作為化比較試験では、受講6か月後に運動習慣や症状への対処、医師とのコミュニケーションなどが改善し、入院回数や入院日数の減少も報告されています(※1)。日本語版でも、健康状態の自己評価や健康問題に対処する自己効力感(適切な行動ができると信じられること、自信)などの改善が確認されています(※2)。

病気とともに長く「はたらき」続ける上で重要なのは、知識の量よりも「自分にもできそうだ」という感覚、すなわち自己効力感です。本プログラムは、この自己効力感を高める設計を重視しています。

プログラム概要と詳細

「病気とともに、自分らしく『はたらく』プログラム」は、全7回・約7週間の構成です。体調に波があっても自分で無理なく調整できる状態を目指します。

プログラム構成

区分 回数・時間 内容
① 「くらしの土台を整える」慢性疾患セルフマネジメントプログラム(CDSMP) 週1回・各2.5時間×全6回 痛みや疲れ、気持ちの落ち込みなどへの対処や、より良いコミュニケーションの取り方など、くらし全体の自己管理のしかたを仲間とともに学ぶ
② 「はたらくを考える」 治療と仕事の両立支援プログラム 1回・2.5時間 ①で培った土台の上で、長期にわたって「はたらく」を実現するためのスキルを学ぶ

各回の内容

回目 内容
1回目 はじめに、疲労とよい睡眠、心と体のつながり、アクションプラン
2回目 問題解決法、困難な感情への対処、運動、コミュニケーション技術
3回目 呼吸法、筋肉のリラクゼーション、痛みの管理、持久力の運動、健康な食事
4回目 意思決定、薬の使用、運動、食品成分表示、お口の健康
5回目 うつ状態の管理、自分への語りかけ、情報を得た上での治療の選択、災害への備え、問題解決法
6回目 医療者と一緒にやっていくこと、体重管理、振り返りと将来に向けての計画
7回目 自己開示、職場でのコミュニケーション、休みとリフレッシュ、自分の時間の使い方、セルフメンテナンス、工夫の共有

※毎回、アクションプランの作成と振り返りが行われます。

独自開発の「治療と仕事の両立支援プログラム」(7回目)で目指す状態

参加者は、職場の同僚へ病気を伝える際のポイントを挙げられること、自分なりの「仕事を休む基準」を少なくとも1つ決められること、生活の記録から自分の時間の使い方の課題を特定できることなどを目指します。

例えば、自己開示の演習では、職場全員に病気を伝える必要はないことを確認した上で、「自分が今の職場で『はたらき』続けるうえで、誰が、何を理解してくれていれば仕事がしやすくなるか」を考え、実際に伝える練習を行います。症状そのものではなく配慮してほしいことを伝える、仕事で貢献できることをあわせて伝える、といった具体的なポイントも扱われます。

第1期開催概要

名称 病気とともに、自分らしく「はたらく」プログラム
主催 一般社団法人ピーペック
共催 NPO法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会
助成 公益財団法人洲崎福祉財団 助成事業(令和6年度継続助成)
日程 2026年10月10日・17日・24日・31日、11月7日・14日・21日(いずれも土曜日/全7回)
時間 各回 10:00〜12:30(2時間半)
形式 オンライン(Zoom)
対象 慢性疾患を持つ人(病名を問わない)。就労中の方、休職中の方、これから就職を目指す方
定員 10名
参加費 無料
申込締切 2026年10月5日(月)
申込・詳細 https://ppecc.jp/news/4845

開発責任者からのメッセージ

一般社団法人ピーペックの理事/CKO/CHROである武田 飛呂城氏は、自身も複数の慢性疾患と共に25年以上仕事を続けてきた経験から、「必要なのは特別扱いではなく、何ができるかを一緒にすり合わせ、力を発揮できる環境をともにつくること」と語っています。両立支援が事業主の努力義務となった現在、制度の受け皿は形成されつつあり、だからこそ、働く本人が同じ状況の仲間と励まし合いながら、仕事を続けるためのスキルを育む場が重要であると強調しています。休職中の方やこれから就職を目指す方にも参加を呼びかけています。

今後の展開:継続的なサポートと企業連携

本プログラムは「受けて終わり」にしない伴走を重視しており、全7回終了後も約1年間にわたり、3か月に1度程度のグループフォローアップが実施されます。これにより、学んだスキルが日常の中で定着し、参加者同士が工夫や困りごとを共有することで、意欲の維持が図られるでしょう。

今後も、病気を持ちながら「はたらく」個人を対象とした無料のワークショップが定期的に開催され、参加機会が広げられる予定です。また、治療と仕事の両立支援に取り組む企業からの依頼に応じた有償での開催も検討されており、ピーペックは、働く本人へのプログラム提供に加え、企業向けの研修・講演を通じて組織風土づくりにも取り組み、「制度・組織風土・スキル」の3つが揃う職場を企業と共に創り上げていくとしています。

団体概要

一般社団法人ピーペック

  • 代表理事:宿野部武志

  • 所在地:東京都世田谷区

  • 設立:2019年

  • 事業内容:「病気があっても大丈夫」と言える社会を創るため、病気を持つ人の“こえ”を価値に転換し企業での研修・講演・資材開発に活かす取り組み、調査研究や政策提言、治療と仕事の両立支援に関する事業などを実施。

  • URL:https://ppecc.jp/

NPO法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会

  • 理事長:岡谷恵子

  • 所在地:東京都港区

  • 設立:2006年

  • 事業内容:米国スタンフォード大学医学部患者教育研究センターで開発された慢性疾患セルフマネジメントプログラム(CDSMP)ワークショップの開催、病気を持つ人の自己管理支援に資する活動などを実施。

  • URL:https://www.j-cdsm.org/

Q&A

Q1: このプログラムはどのような病気の人でも参加できますか?

A1: はい、本プログラムは病名を問わず、慢性疾患を持つ方であれば誰でも参加可能です。現在就労中の方、休職中の方、これから就職を目指す方も対象となります。

Q2: プログラムの参加費はかかりますか?

A2: 第1期は公益財団法人洲崎福祉財団の助成により、参加費は無料です。今後の開催については、継続的な無料開催と企業からの有償依頼による開催が予定されています。

Q3: プログラム終了後もサポートはありますか?

A3: はい、全7回のプログラム終了後も、約1年間にわたり3か月に1度程度のグループフォローアップが実施されます。これにより、学んだスキルの定着と意欲の維持が図られるでしょう。


※1 出典:Lorig KR, Sobel DS, Stewart AL, Brown BW Jr, Bandura A, Ritter P, González VM, Laurent DD, Holman HR. “Evidence suggesting that a chronic disease self-management program can improve health status while reducing hospitalization: a randomized trial.” Medical Care, 37(1): 5-14, 1999.
※2 出典:厚生労働科学研究「免疫アレルギー疾患予防・治療研究に係る企画及び評価の今後の方向性の策定に関する研究」(研究代表者:秋山一男) 課題番号 H17-免疫-一般-013/課題番号 H20-免疫・一般-013 報告書 ・課題番号 H23-免疫・指定-017 2011年度報告書(「慢性疾患セルフマネジメントプログラム受講者の服薬アドヒアランスの受講前後の変化の検討」「慢性疾患セルフマネジメントプログラムによる効果発現のメカニズムの解明」)

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Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77