国枝慎吾氏が語る!車いすテニス界の常識を覆した挑戦とアスリートの思考
国枝慎吾氏は、現役時代に車いすテニスの常識を覆す数々のプレーを実現してきました。その象徴的な例が、バックハンドの強打とサーブ直後にネットへ詰める「サーブ&ボレー」です。
当時の車いすテニスでは、バックハンドはスライスでつなぐのが一般的でした。車いすの上では動きに制約があるため、強いトップスピンで打ち抜くのは難しいとされていたからです。しかし、国枝氏は「できない」と言われていることほど工夫の余地があると考え、体幹の使い方、打点、車いすのセッティングなど、要素を分解して一つずつ見直すことで、バックハンドの強打を可能にしました。
また、サーブ&ボレーについても、サーブ直後に車いすの動きが一度止まるため、物理的に間に合わないと考えられていました。これに対し、国枝氏は技術面だけでなく戦術面から見直し、スライスサーブで相手を外側へ追い出すことで返球コースを限定し、ボレーに持ち込むことを可能にしたと語ります。
重要なのは「できないという結論をそのまま受け入れないこと」であり、成立しない理由を分解することで、変えられる条件が見えてくるという示唆に富んだ考え方を披露しました。
頂点に立ち続けるための自己変革と「対自分」の目標設定
国枝氏は、世界ランキングの頂点に立った後も、フォームを大きく変えるという自己変革を行いました。すでに結果が出ている型を変えることにはためらいもあったものの、怪我による必要性だけでなく、「1位であること自体が変化を求める理由」であったと述べています。
2位や3位の選手が分析と対策を講じてくる中で、1位の選手が現状維持を選べば実質的には後退であり、「勝ち続けるためには、勝っているときにこそ変わる必要がある」という考えを明かしました。これはビジネスにおける成長戦略にも通じるものがあると、藤原氏も共感を示しています。
さらに、1位になると「追いかける相手が見えなくなる」という課題に対し、国枝氏は目標を「対誰か」ではなく「対自分」に置くようにしたと語ります。自身のバックハンドの精度やサーブの質など、さらに高める余地は常に存在し、自分を基準にすれば課題は尽きないという考え方は、持続的な成長の軸となり得ます。
スポーツ観戦の魅力と「共通言語」としての価値:JCDの取り組みから探る
スポーツ観戦の最大の魅力は「シナリオがない」ことにあると国枝氏は指摘します。選手自身にも結果が分からず、次の1点で何が起こるか分からない偶発性が、人々を引き込む要因です。また、現地観戦の価値は、競技そのものだけでなく、スタジアムの雰囲気、観客のざわめき、空気感、そしてその場所に積み重なってきた歴史まで含めて、五感で受け取る体験にあると語りました。
「スポーツホスピタリティ」で深まるつながり
JCDでは、スポーツ観戦に食事や交流、特別なプログラムを組み合わせた「スポーツホスピタリティ」のプロデュースに取り組んでいます。「スポーツホスピタリティ」とは、単に席を提供するだけでなく、参加者が自然に会話でき、心理的な距離を縮められる環境を設計するという考え方です。同じ瞬間に感情が動くことで、立場や肩書を越えて人をつなぐ「共通言語」としての力がスポーツにはあると、藤原氏は述べています。
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スポーツイベント|MICE|事業紹介|株式会社JTBコミュニケーションデザイン
国枝氏も、トーナメントディレクターを務める中で、現地体験の価値向上が重要だと感じているそうです。手軽に試合を観られる時代だからこそ、食事やアトラクションを含め、会場全体で特別な時間をつくり、現地でしか得られない価値をどう設計するかが、今後ますます重要になるでしょう。
競技を未来へつなぐ選手の経済的自立
競技を未来につなぐためには、観戦体験の価値を高めることに加え、選手が経済的に競技を続けられる環境を整えることも欠かせません。国枝氏はプロ転向時、「車いすテニスをプロとして成り立つスポーツにしたい」と強く意識していたと語ります。当時のパラスポーツでは、世界を目指すほど経済的に苦しくなる現実があり、若い選手が競技を職業として選びにくい状況がありました。
競技をビジネスとして成立させることは、その価値を損なうことではなく、未来へ残していくために必要なことです。スポーツとしての魅力を高め、応援される理由を増やし、市場として持続可能にしていく積み重ねが、次の世代につながっていくと国枝氏は述べています。
感動が行動を変える!スポーツが社会にもたらす影響と障害福祉分野への波及
スポーツが人の行動を変える力を持つことは、多くの場面で実感されています。JCDが共催する「箱根ランフェス」では、単にタイムを競うだけでなく「楽しさを競う」ことをコンセプトにしており、参加者の達成感と周囲の応援が一体感を生み出すそうです。また、JCDに社員として在籍するパラアルペンスキーの小池岳太選手への応援は、部署を越えた会話や「自分たちも挑戦しよう」という前向きな空気につながっていると藤原氏は語ります。
JCD NOW!では、地域を育む「箱根ランフェス」の取り組みについても紹介されています。
「楽しさを競おう。」が地域を育む、持続可能な観光と共創の未来。|JCD NOW!|株式会社JTBコミュニケーションデザイン
国枝氏が最も強く実感したのは、ロンドン2012パラリンピック後、「車いすテニスを始めたい」という問い合わせが日本各地のテニスクラブで増加したことでした。当時は、勝たなければ報道されず、競技を知ってもらえない現実があったため、「勝つこと」は競技を社会に知ってもらうための手段でもありました。大会を観た人々の感動が「自分もやってみたい」という行動に変わった経験を通じて、スポーツの熱は人の気持ちを動かすだけでなく、行動にまでつながると実感したそうです。
自国開催の大会がもたらす力
大きな大会が自国で開催されることも、選手や観客の意識を大きく動かす契機となります。国枝氏自身、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催決定が、競技人生の大きな転機になったと語ります。2013年に東京大会の開催が決まった際、すでに引退も意識していたものの、「その舞台に立つまではやめられない」と強く思ったそうです。
その後の怪我を乗り越え、競技を続けることができたのは、東京という明確な目標があったからです。選手にとって自国で開かれる大舞台は、それだけ大きな意味を持ちます。このことから、間もなく愛知・名古屋で開催されるアジア大会(第20回アジア競技大会)でも、「自国開催の大舞台に立ちたい」という思いを力に変えて、大きく成長する若い選手が出てくる可能性もあるでしょう。
選手が人生を懸けて挑む姿そのものが、観る人の心を動かし、その先の行動にもつながっていく。スポーツは、競技の場の中だけで完結するものではなく、応援すること、観ること、語り合うことを通じて、人の気持ちや行動を変え、社会の中に広がっていくものだと、国枝氏と藤原氏の対談から改めて感じられます。
対談の後半では、国枝氏が語る「頂点を極めてもなお、初心者になる理由」に迫ります。感覚を言葉にし、学びを次世代へつないでいく視点は、スポーツの枠を超えて、育成や組織づくりにもつながるでしょう。全文はJCD NOW!にてご覧いただけます。
JCD NOW!
国枝慎吾氏の歩みは、単に勝利することだけでなく、頂点にあり続けるために自らを更新し続けることの重要性を示唆しています。技術や戦術の常識を問い直し、自らを変革し、道を切り拓いてきたその姿勢は、引退後も新たな挑戦へと向かう現在にも貫かれています。この積み重ねは、競技の枠を超えて、人や組織が成長していく過程にも重なります。
スポーツの価値は、勝敗や記録だけでは測れません。同じ瞬間に心を動かされる体験は、人と人との距離を縮め、応援は次の挑戦を後押しします。スポーツには、人の心を動かし、行動を促し、新たな関係を生み出す力があると言えるでしょう。
人と人、そして人と社会の間に新たな接点を生み出していくこと。それこそが、コミュニケーションをデザインするJCDの役割です。これからも、人・企業・地域の新たな接点を育みながら、スポーツが持つ価値で社会をより豊かにしていくことが期待されます。

