障害福祉や教育・雇用の枠組みに馴染めず悩む方へ。障がい当事者が「個人事業主」として自分軸で社会参加する「第3の道」が評価されています。第12回糸賀一雄記念未来賞を受賞した株式会社TANEBIの取り組みや「みいちゃんのお菓子工房」の事例、就労継続支援(A型・B型)との比較を解説します。
【この記事で分かること】
- 障がい・不登校・ひきこもりにおける「縦割り支援制度」の課題と限界
- 障がい当事者が自ら「個人事業主」として働く「第3の道」の仕組み
- 第12回糸賀一雄記念未来賞を受賞した株式会社TANEBIの先進的取組
- 就労継続支援(A型・B型)と「個人事業主(第3の道)」の徹底比較
- 自分のペースで始める「小さな経済活動」のステップと疑問解消Q&A
社会には、障がいのある人を対象とした「障害福祉」、学校に通えない子どもを対象とした「教育支援」、就労に困難を抱える人を対象とした「雇用・就労支援」など、様々な制度が存在します。
しかし、現実の生きづらさは制度のように綺麗に分断できるものではありません。学校に通えない背景に発達障がいの特性があったり、不登校から社会との接点を失ってひきこもりが長期化したりするなど、複数の課題が複雑に絡み合っているケースは少なくありません。
「障害者手帳を持っていないため適切な支援に繋がらない」「規定の勤務時間に自分を合わせられず、働くことを諦めてしまう」といった課題に対し、従来の制度に人を当てはめるのではなく、一人ひとりの特性に合わせて社会との接点をつくる新たなアプローチが求められています。
障害者就労の現状と従来の選択肢が抱える課題
障害者の就労支援においては、主に一般企業での障害者雇用枠のほか、障害福祉サービスに基づく「就労継続支援(A型・B型)」が活用されてきました。まずは、専門用語の基本概念を整理します。
【用語解説】
- 福祉的就労: 障害福祉サービスの一環として、一般企業で働くことが困難な障がい者に働く場を提供する仕組み。就労継続支援A型やB型がこれに該当します。
- 就労継続支援A型(雇用型): 障がい者と事業所が雇用契約を結び、都道府県の最低賃金以上が保障される働き方。一定の作業能力や決められた時間通りの勤務が求められます。
- 就労継続支援B型(非雇用型): 雇用契約を結ばず、作業に応じた「工賃(手当)」を受け取る働き方。体調に応じた柔軟な利用が可能ですが、平均工賃は比較的低い水準にとどまる傾向があります。
従来の福祉的就労で生じやすい「働き方のミスマッチ」
福祉的就労は多くの当事者の生活を支える重要な基盤です。一方で、特定の福祉制度に依存した事業形態の場合、制度の対象者要件から外れる人や、規定された時間・場所での勤務に対応できない強い特性を持つ人には支援が届きにくい側面が存在します。
決められた枠組みに自分を合わせることが難しい当事者にとって、「働く能力がない」のではなく、「自分の意思で選択できる余地が少ない」ことが社会参加の壁となっている場合が見受けられます。
障がい当事者が「事業主」となる「第3の道」とは?
こうした課題に対し、福祉でも教育でも雇用でもない新たな選択肢として提唱されているのが、障がい当事者が自ら「個人事業主」として小さな経済活動を始める「第3の道」です。
「みいちゃんのお菓子工房」から始まった実証事例
「第3の道」の原点は、2020年に滋賀県で開業した「みいちゃんのお菓子工房」にあります。当時12歳だった自閉症の娘・みいちゃんが、独学で学んだお菓子作りを生かし、店長兼パティシエとして活動を開始しました。
当初は「月に2万円の利益を自分たちの力で生み出す」という小さな目標からスタートした取り組みでした。しかし、6年間の継続を通じて、稼ぐ金額の多寡以上に大きな価値が見出されました。
【当事者の働き方における変化】 働く量やペースを他者から指定されるのではなく、自分の体調や意欲に合わせて自分で決められる環境が構築されました。収入を増やしたい時は仕事を増やし、体調が優れない時は無理をせず休むという選択肢を自分の意思で選べることが、当事者の主体性と自信の獲得に直結しています。
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第12回糸賀一雄記念未来賞を受賞した評価ポイント
2026年11月、障がい者福祉の先進的取り組みを顕彰する「第12回糸賀一雄記念未来賞」(主催:公益財団法人糸賀一雄記念財団)を、株式会社TANEBI代表取締役の杉之原千里氏が受賞いたしました。
同賞における選考基準および受賞理由は以下の通り分析されています。
- 当事者が自ら事業主となる支援の先進性: 障がいの特性を障害としてのみ捉えず、「個性」として生かし、当事者自身が個人事業主として活動する環境を整えている点。
- 株式会社の形態を活用した横串の新規性: 福祉・教育・雇用の縦割り制度に捉われず、企業・教育機関・地域社会と自由に接点を持てる事業形態として「株式会社」を選択し、社会参加の新しい接点を生み出している点。
■ 糸賀一雄記念未来賞 授賞式
開催日:2026年11月28日(土)
時間:14:00~16:30
会場:ホテルニューオウミ(滋賀県近江八幡市鷹飼町1481)
主催:公益財団法人糸賀一雄記念財団
財団公式サイト:http://www.itogazaidan.jp/
【徹底比較】就労継続支援(A型・B型) vs 一般企業就労 vs 個人事業主(第3の道)
読者が自身の特性や状況に合わせた最適な働き方を選択できるよう、従来の就労形態と「第3の道(個人事業主)」の違いを一覧表にまとめました。
| 比較項目 | 就労継続支援A型 | 就労継続支援B型 | 一般企業就労 | 個人事業主(第3の道) |
|---|---|---|---|---|
| 契約形態 | 雇用契約あり | 雇用契約なし | 雇用契約あり | 業務委託・自主事業(個人事業) |
| 対価の構造 | 最低賃金以上の給与 | 作業に応じた工賃 | 規定の給料 | 自分の商品の売上・スキルの対価 |
| 時間の柔軟性 | 指定シフト制(固定) | 比較的柔軟 | 原則規定時間通り | 働く量・ペースを100%自身で決定 |
| 利用・開始要件 | 障害者手帳・受給者証 | 障害者手帳・受給者証 | 企業の採用基準 | 特別な資格や手帳は不要(誰でも開始可能) |
| 制度上の区分 | 障害福祉サービス | 障害福祉サービス | 一般労働市場 | 経済活動・社会参加の入口 |
| 主なメリット | 安定した最低賃金保障 | 負担の少ない軽作業 | 安定収入と社会的信用 | 自分の好き・得意を生かし、自分軸で働ける |
| 主な課題・注意点 | 勤務時間に合わせる必要 | 工賃が低水準になりやすい | 企業の枠組への不適合リスク | 初期の収入規模が小さく自己管理が必要 |
障がい当事者が個人事業主としてステップアップする3段階プロセス

株式会社TANEBIが提案する取り組みは、単なる「起業家の育成」や「高収入を目指すビジネス塾」ではありません。小さな経済活動を「社会参加の入口」として捉えるステップ形式の構造となっています。
【Step 1】好きなこと・得意なことを生かした「小さな経済活動」の開始
└─ 自分の手作った商品を売る、得意なことを教える体験
↓
【Step 2】自信・主体性の獲得と「働くペースの自分軸化」
└─ 「自分の意思で人生を動かす」経験を積む
↓
【Step 3】選択肢の拡張(就職・進学・事業成長など)
└─ 小さく始めて可能性を広げ、次のステージへ挑む
- Step 1:小さな経済活動の体験(入口) 自作の商品の販売や、特技を活かしたサービスの提供により、自分の考えたことが誰かの役に立ち、対価を受け取る成功体験を積みます。売上の大きさではなく、「社会と繋がる経験」が重視されます。
- Step 2:自分軸による稼働調整と自己効力感の向上 自分の体調に合わせて仕事量を調整する経験を通じ、社会の枠組みに自分を押し込めるのではない、ストレスのない自己管理手法を身につけます。
- Step 3:多様な進路への広がり(展開) 小さな起業はゴールではありません。自信と人との繋がりが得られた結果、事業を拡大する道もあれば、企業への就職、学び直し(進学)など、本人が希望する次のステップを選択できるようになります。
当事者と家族の不安を解消する「小さな一歩」
障がいや不登校、ひきこもりを抱えるご家族にとって、「いきなり起業なんてできるのだろうか」「収入が少なかったら意味がないのではないか」という不安は非常に自然なものです。
しかし、株式会社TANEBI代表の杉之原千里氏は、プレスリリースの中で以下のように言及しています。
「小さく始められることと、小さなままで終わることは、まったく違います」。 「稼ぐ金額は小さくても、自分の人生を自分で動かす経験は、大きい」。
月数千円〜数万円という小さな経済活動であっても、自分の意思で仕事をコントロールし、社会から対価を得る体験は、当事者の主体性を大幅に育みます。起業そのものを目的化するのではなく、「社会と繋がる手段」として個人事業主という選択肢を活用することが、従来の福祉制度にはない安心感をもたらすと分析されます。
Q&A

Q1. 障害者手帳を持っていなくても、個人事業主の働き方に挑戦できますか?
A. はい、可能です。 個人事業主としての活動は行政の福祉制度に限定されないため、障害者手帳の有無や診断の有無にかかわらず、誰でも自由に始めることができます。不登校やひきこもり、グレーゾーンと呼ばれる支援の隙間にいる方にとっても有効な選択肢となります。
Q2. 収入が非常に少ない場合でも、事業主になる意味はありますか?
A. 非常に大きな意味が存在します。 最初は少額の収入であっても、「自分で考えたことで対価を得る」「体調に合わせて働く量を自分で決める」という体験自体が、強い自信や人との繋がりを生み出します。この経験が足がかりとなり、将来的な就職や事業拡大へと選択肢が広がっていきます。
Q3. 経営や起業に関する専門知識がなくても参加できる仕組みはありますか?
A. サポートコミュニティや専門プログラムが存在します。 例えば、株式会社TANEBIが運営する会員制コミュニティ「TANEBI STORY」では、単なる経営知識の指導にとどまらず、個人の特性や得意・不得意を理解した上で意欲を引き出し、実際の社会参加へ繋げる環境が提供されています。
まとめ:既存の枠組みを超えて「自分らしい人生」を選択するために

障がいや生きづらさを抱える方々にとって、一般企業での就労や従来の福祉的就労(A型・B型)は大切な選択肢です。しかし、既存の枠組みに自分を合わせることが難しい場合でも、働くことを諦める必要はありません。
株式会社TANEBIの取り組みが示すように、「小さな個人事業主」として自分のペースで社会と繋がる「第3の道」は、自分軸で人生を動かすための強力な手段となり得ます。
福祉や教育の境界線に悩んでいる方は、まずは自身の「好き」や「得意」を見つめ直し、小さな一歩から社会参加の可能性を広げていくことが期待されます。

