この記事で分かること
- 障害者雇用における「認知発達支援プログラム(夢育て1.0)」の概要と目的
- フォイヤーシュタイン・メソッドやブレインジム®を活用した具体的なアプローチ
- ファミリーマートでの導入事例における定量アセスメント(認知機能向上)と定性変化(作業精度・主体性向上)の実績
- 現場での定着と持続的支援を可能にする「研修の内製化」と「農福連携(援農)」への波及効果
- 企業が障がいのある社員の職域拡大とキャリア形成を実現するための実践ステップ
「障がいのある社員に、より精度の高い作業を任せたいが指導方法が分からない」
「現場での指示がうまく伝わらず、本人の主体性や集中力が伸び悩んでいる」
「障害者雇用において、単なる作業割り当てにとどまらず、本人の潜在能力を引き出すキャリア形成支援を行いたい」
企業で障害者雇用を担当されている方や現場の指導者の、このような業務の切り出しや環境整備だけでは解決しづらい課題に対して、近年注目を集めているの「認知発達支援(認知機能を伸ばすトレーニング)」です。
本記事では、株式会社ファミリーマートが流山市などの農場で勤務する知的障がいのある社員を対象に、企業として日本で初めて導入した認知発達支援プログラム「夢育て1.0」事例を解説します。
障害者雇用における「認知発達支援」とは?基本概念と注目の背景
認知発達支援の定義と初心者向けの解説
「認知発達支援」とは、記憶力・空間把握力・推論力・注意集中力といった「物事を理解し、整理して行動に移す脳の働き(認知機能)」を後天的に高める支援アプローチのことです。
従来の障害者雇用では「できる作業に合わせて環境を調整する」ことが中心でした。これに対し、認知発達支援では「適切なトレーニングによって学習能力や認知機能そのものを伸ばし、自立して行える作業の幅を広げる」ことを目指します。
プログラムを構成する3つの独自要素
ファミリーマートが導入した「夢育て1.0」(株式会社夢育てが提供)は、以下の3つの手法を組み合わせた専門教育プログラムです。
- フォイヤーシュタイン・メソッド(認知発達教育)
考え方のプロセスや思考の癖を整え、新たな物事を学び吸収する力(学習能力)を引き出す国際的な教育手法です。 - ブレインジム®(身体アプローチ)
特定の身体動作や運動を通じて、脳と体の連携を高め、集中力や姿勢、リラックス状態を整えます。 - 夢や希望を語る時間(夢語り)
自分の目標や希望を言語化して共有することで、主体性や自己効力感を育みます。
ファミリーマート「夢育て1.0」導入事例:第1期の飛躍的成長と成果
導入の背景とプログラム概要
株式会社ファミリーマートは、ダイバーシティ&インクルージョンの推進と「いちばん働きたい」会社を目指す取り組みの一環として、2025年10月より知的障がいのある農場社員向けに「夢育て1.0」を導入しました。
約1年間の研修を経て、2026年9月30日には第1期メンバー10名が修了式を迎えました。
定量アセスメントが証明した「認知機能の劇的向上」
専門家による研修実施前の定量的な認知アセスメントにおいて、対象社員全員に以下4領域での大幅な向上が確認されました。
| アセスメント項目 | 測定された具体的な変化 |
|---|---|
| 空間把握・視覚的記憶力 | 図形の構造を正確に捉え、記憶して正確に描き写す能力が向上 |
| 帰納的推論・仮説演繹的推論 | 提示されたルールや法則性を自ら推論して導き出す力が伸長 |
| 学習速度とパターン把握能力 | 繰り返し学ぶ中で、物事の規則性やパターンを素早く発見する力が向上 |
| 作業の正確性と効率性 | 必要な情報を素早く探し出し、正確に処理するスピードと精度が向上 |
農作業現場で起きた「定性効果」:指示待ちから主体的な行動へ
認知機能の向上は、数値データにとどまらず、毎日の農作業現場における行動変容としても顕著に現れました。
作業スキルの拡大(収穫・袋詰めの自立)
注意力や身体の使い方が改善したことで、これまで難しかった精度の求められる「収穫」や「袋詰め」といった作業を自立して行える社員が複数誕生しました。
主体性・集中力・リーダーシップの向上
- 姿勢と集中力: 姿勢が良くなり、作業に対する持続的な集中力が増加しました。
- コミュニケーションの活性化: 「自ら報告・相談をする」「積極的に発言しコミュニケーションをとる」といった自発的な行動が目立つようになりました。
- 周囲への配慮: リーダーシップの芽生えや、周囲のメンバーをフォローする姿勢も見られるようになりました。
農福連携(援農)への貢献拡大
スキルの向上と自信の獲得により、近隣のプロ農家へ出向いて作業支援を行う**「農福連携(援農)」**への参加実績が大きく伸長しました。毎週のように外部農場で活躍する社員も出ており、地域社会への貢献と活躍の場の広がりにつながっています。
持続可能な支援に向けた「第2期スタート」と「研修の内製化」
第2期(8名)のスタート
ファミリーマートでは本プログラムの効果を確信し、2026年10月7日より新たな農場スタッフ8名を迎えて「夢育て1.0」第2期をスタートさせました。
講師資格取得による内製化体制の構築
一社完結型の外部依存にならず持続的な支援を行うため、社内社員4名がすでに講師資格を取得しています。自社内で研修を内製化できる体制を整えることで、継続的な受講環境と長期的なキャリア形成サポートを実現しています。
比較表:従来の障害者支援 vs 認知発達支援プログラム(夢育て1.0)
| 比較項目 | 従来の障害者雇用支援 | 認知発達支援プログラム(夢育て1.0) |
|---|---|---|
| 基本アプローチ | 作業の簡略化・環境調整 | 認知機能や身体アプローチによる本人の潜在能力開発 |
| 指導の重点 | マニュアル化された単純作業 | 思考力・学習能力・主体性の育成 |
| 成長の測定方法 | 定性的な評価・経験則 | 専門家による定量アセスメント+現場行動の定性評価 |
| 現場での変化 | 指示通りの作業遂行 | 収穫・袋詰めの自立、自発的な報連相、リーダーシップ |
| 持続可能性 | 担当者の指導力に依存 | 講師資格取得による社内研修の内製化 |
よくある質問(Q&A)

Q1. 知的障がいのある社員でも、後から認知機能を伸ばすことは可能ですか?
A. はい、可能です。ファミリーマートの事例では、フォイヤーシュタイン・メソッド等の適切なプログラムを取り入れることで、空間把握力や推論力、作業の正確性といった認知機能の大幅な向上(定量データ)が確認されています。
Q2. 「農福連携」とはどのような取り組みですか?
A. 障がい者等が農業分野で活躍することを通じて、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組みです。ファミリーマートでは、農場でスキルを磨いた社員が近隣のプロ農家(外部農場)へ作業支援(援農)に入り、地域農業に貢献しています。
Q3. 外部研修を社内に定着させるためのポイントは?
A. 支援の「内製化」を目指すことが鍵となります。ファミリーマートでは社員自らが講師資格を取得し、社内で継続指導できる体制を作ることで、持続可能な育成環境を構築しています。
まとめ:本人の「わかる・できる」を広げ、ダイバーシティ&インクルージョンを実現しよう

障害者雇用における認知発達支援は、単なる作業指導を超えて、社員一人ひとりの「わかること」と「できること」の幅を広げる画期的なアプローチです。
ファミリーマートの「夢育て1.0」の事例が示しているように、適切なプログラムと内製化体制を組み合わせることで、以下のような循環が生み出されます。
- 認知機能・身体アプローチによる潜在能力の引き出し
- 精度の高い作業(収穫・袋詰め)の自立と主体性の向上
- 農福連携など地域社会への活躍の場(キャリア)の広がり
- 社内講師による持続可能な内製支援体制の確立
障がいのある社員が活き活きと働き、確かなキャリアを築ける環境づくりは、企業のダイバーシティ&インクルージョン推進において強力な推進力となります。

