障害者雇用率の達成だけを目指した採用の仕方はすでに時代遅れといえます。企業は今後、障害者を雇用することだけに目を向けるのではなく、雇用した人たちをいかに自社で生かすかを考えていくことが大切になります。また、社会貢献から障害者雇用をしていた企業も今後は考え方を変えていく必要があるでしょう。

企業はなぜ今まで障害者を雇用してきたのか?

それは大企業であれば第一に、「義務付けられていたから」でしょう。言い換えれば、納付金を払いたくないということがあったと思われます。

法定雇用率に未達の企業は、障害者雇用促進法に基づき、不足する障害者数に応じて1人につき月額50,000円の「障害者雇用納付金」を支払う必要があります。1人あたり年間60万円ですので、大企業といえど負担は無視できるものではありません。

また、納付金は、法定雇用率に満たないことで対象となるため「罰金」ともいわれています。

納付金支払いという罰則を逃れるためという点から障害者雇用をしてきた企業も少なくないでしょう。しかし、理由はどうあれ雇用したからには働いてもらわないと困るのは企業です。そのため、大企業は少しでも戦力になりそうな、そしてできるだけ自分たちに負担がかからない(=障害配慮で少なくて済む)、比較的障害の軽い人たちを、雇用してきました。

大企業に、上肢下肢を中心とした身体障害者が多く雇用されているのはそのためです。もしくは、特例子会社を設立するなどしながら軽度の知的障害者を雇用し、法定雇用率を満たしてきた企業もあります。

障害者雇用の難しさと、人手不足の現状

ただ、このような考え方はもう限界です。それは、大企業が雇いたいと考えている軽度の身体障害者は完全な売り手市場だからです。身体障害者の採用は以前より難しくなっており、企業が雇いたいと思うような人たちはすでに就職してしまっています。

これからは必然的に、精神障害など、これまで企業があまり目を向けていなかった障害者の雇用を積極的に考えていかなければ、雇用率の達成も難しくなっていくでしょう。

また、障害者雇用率未達成企業が対象企業の半数以上である今でこそ、達成している企業は「良い会社」かもしれませんが、達成率は年々アップしており2023年現在は2.3%となっています。それが2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%と段階的に引き上げられることが決まっています。数年後には達成が「あたり前」になっているかもしれません。そうなれば達成しているだけでは「良い会社」ではなくなります。

良い会社とはどんな会社か?

それは、障害者を人財として戦力化できる会社であり、退職することなく定着している会社です。また当事者から見ると、やりがいを持ってイキイキと働ける会社です。

障害者を採用はしたもののすぐに辞めてしまって意味がありません。また、雇用される障害者側からすると、入社したもののやりがいもなく長く働きたいと思うような会社ではなかった、となると、「雇用率は達成しているけど実際は、あまり良い会社ではない」という評判がたちかねません。

そうではなく、今後の企業が目指すべき姿は、雇用した障害者が、イキイキと働いており、長く定着している会社です。そして、「障害者を雇用したことで会社が良くなった」「障害のある社員は欠かせない戦力」という声が社内からあがるような会社です。

社会貢献を目的として障害者雇用は検討の余地あり

一方、障害者雇用率の達成とは別に、社会貢献の一環として障害者を雇用してきた企業も少なくありません。社会貢献はとても素晴らしいことだと思いますが、今後は貢献という考え方を少し発展させる必要が出てくるでしょう。

なぜならば、第一には、社会貢献だけで考えると企業の業績が芳しくなかったときや、経営方針の変更等で障害者雇用も大きく影響するからです。
第二は、障害者はそもそも、社会貢献で雇用される存在ではないからです。

企業が採用活動を行う理由の多くは、事業の拡大・発展や、人材の補充、新規事業等のプロジェクトの進行・達成に人が必要だからでしょう。

ではなぜ障害者を雇用することは、社会貢献につながるのでしょうか。「あなたは当社の●●に必要だから」と採用した理由を伝えられることはあっても「あなたを雇用したのは自社の社会貢献のためだ」と言われる人はいないと思います。しかし、障害者雇用に関しては現在、社会貢献のための雇用という理由が存在しているのが現実です。

障害者は雇用率達成の数合わせ要員ではありませんし、労働力の調整弁でもありません。社会貢献の手段として存在しているわけでもありません。今後は、自社を発展させていくため、さらに良くしていくために障害者雇用が重要、経営理念実現のために障害者雇用は当然のことだ、という考え方にシフトしていく必要があるでしょう。

人手不足を補うために障害者を雇用し戦力化する必要性

もう一つ、雇用率の達成だけを考えた障害者雇用が時代遅れだというのは、これから日本は人口が減り人手不足の時代に突入していくからです。

業界によってはすでに人手不足に陥っており、外国人や高齢者の力が欠かせなくなっています。他の業種も遅かれ早かれ、人手不足になるのは避けられません

そこで重要な戦力となるのは障害者です。これまで労働力としてみなされることが少なかった障害者ですが、特性を理解し、適した配慮をすることで十分活躍できるということは、全国各地の企業で少しずつ証明されてきています。

中小企業こそ障害者を積極的に雇用していくべき

障害者を戦力として雇用することは、大企業だけでなく、中小企業にとっても意味のあることです。障害者雇用率は従業員が46人を超えない中小企業は対象となりませんし、納付金支払いの対象にもなりません。しかし、中小企業こそ、障害者を積極的に雇用していくべきだと思います。

人材不足で自社が厳しい状況に置かれるのは、大企業より中小企業です。今もなお大手志向にある健常者の新卒、中途の採用市場において中小企業は苦戦を強いられており、今後もその傾向は変わらないでしょう。だからこそ、中小企業は大企業よりも積極的に障害者雇用に取り組む必要があります。

障害者の採用市場は、特に精神障害においてはこれからさらに拡大していくでしょう。もし障害者を戦力化することが出来たら、適材適所でその人を活かすことが出来たら、その企業は人材不足に悩むことなく発展していく可能性が高いでしょう。

※本稿は『経営者・人事担当者のための 障害者雇用をはじめる前に読む本』(2017年11月発行)の一部に加筆・修正したものです。今後も社会情勢、最新の障害者雇用状況等をふまえ、追記していきます(初掲載:2019年9月、追記:2023年7月27日追記)

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77