Last Updated on 2025年12月19日 by 菅間 大樹

インクルーシブな学びの場への再生

学校建築には、安全性や管理のしやすさといった厳しい制約が存在します。一方で、これからの学校には、多様な子どもたち一人ひとりに寄り添った柔軟な空間が求められています。このジレンマに対し、CULUMUは株式会社小河建築設計事務所と連携し、インクルーシブデザインの手法を用いた共創ワークショップを実施しました。

CULUMUの共創ワークショップがもたらした成果

CULUMUは、発達障害のある当事者やその保護者、行政職員を交えたワークショップを企画・運営しました。このワークショップでは、参加者が自身の体験や感覚(音や視覚への刺激、パニック時の避難場所の必要性など)を言語化し、対話を重ねることで、建築家が提案していた「居場所」の必要性が、利用者にとって「不可欠な機能」として関係者間で再認識されました。

成果1:見送られがちな空間の実装を「後押し」

本プロジェクトの象徴的な空間の一つが、図書室「なごのヒロバ」の一角に設けられた『おこもりスペース』です。学校建築において、管理・安全上の観点から「死角」となる閉鎖的な空間は避けられる傾向にあります。

しかし、ワークショップでは当事者から「開放的な大空間も魅力的だが、自分を守れるパーソナルスペースも必要」という意見が出されました。集団生活が基本の学校において、刺激に疲れた際に、誰にも邪魔されずに「ほどよく孤立」できる場所。ワークショップを通じて可視化されたこの「潜在的なニーズ」が、管理上の懸念を超えて設計案を維持し、実装するための大きな後押しとなりました。

『おこもりスペース』は、小さく囲われた「巣穴」のような安心感のある場所です。カームダウン室(パニック時の緊急避難的な個室)とは異なり、読書や休憩、または単にぼーっとするなど、子どもたちが日常の中で自分の時間を楽しみ、心理的なエネルギーを自己回復(リラックス)させることを目的としています。

おこもりスペースのスケッチ

おこもりスペースが設けられた図書室

成果2:建築家の視点に生まれた「変化」

設計を担当した株式会社小河建築設計事務所の建築家・上野氏は、このプロジェクトを経て、自身の建築観に変化があったと語っています。機能性や合理性を追求する従来の設計プロセスに加え、多様な人々を巻き込みながら共に創っていくことの難しさと、それ以上の意義を感じたとのことです。

上野氏のコメント(インタビュー記事より抜粋)
「居心地のいい場所をつくるためには、そこで過ごす人たちの体験や感覚を設計の手がかりにすることは自然なことです。しかし、従来のやり方ではこぼれ落ちてしまう声がありました。例えば今回のおこもりスペースについても、私一人の意見として『大切です』と言うだけでは説得力が弱かったかもしれません。でも、CULUMUさんとのワークショップを通じて『当事者からこういう声があり、共感を得たんです』と伝えることができました。多様な声を可視化するプロセスが、設計の実現に向けた大きな後押しとなりました」

建築家・上野氏

大東市立南郷小学校 長寿命化改良事業の背景

この事業は、単なる建物の「修繕」ではなく、老朽化した建物の耐久性を高めつつ、現代の学校に求められる水準まで機能や性能を引き上げる「長寿命化改良」を目指しています。大東市では、高度経済成長期に整備された学校施設の一斉更新時期を迎え、従来の「50年で建て替え」から「80年使い続ける」ストック活用型へと転換を図っています。

特に、この事業の設計者選定において、大東市は評価テーマの一つに「インクルーシブ教育システムの理念を具現化する教育環境」を掲げました。これは、肢体不自由や発達障害など、多様な特性を持つ子どもたちが共に学ぶための「合理的配慮」や「交流の場」を整備することを求めたものです。CULUMUが支援したワークショップは、この市の要求に応え、多様な子どもたちのニーズを設計プロセスに組み込むための具体的なアクションとして実施されました。

インクルーシブデザインスタジオCULUMUについて

CULUMUの支援メニュー

CULUMUは、高齢者や障がい者、Z世代など多様な当事者との「共創」を核とするインクルーシブデザインスタジオです。5,000団体以上の非営利団体と連携した独自の調査パネルが特徴で、この仕組みは「2024年度グッドデザイン賞」を受賞しました。

建築・空間領域においては「人と空間の関係をやさしくデザインする」ことを理念とし、インクルーシブデザインを起点としたコンサルティングと実装支援を行っています。住宅・公共施設・商業空間など多様な空間において、ユーザー視点からの共創リサーチや、企業や建築物に合わせた独自のインクルーシブデザインガイドラインの策定などを通じて、空間とデジタル・ソフト・ビジネスを横断した提案を強みとしています。

CULUMUの建築領域における理念

株式会社STYZについて

株式会社STYZは「民間から多種多様な社会保障を行き渡らせる」をミッションに掲げ、以下の3つの事業を展開しています。

  • ドネーションプラットフォーム事業:非営利セクターを中心に新しい資金流入を促します。(https://syncable.biz/

  • インクルーシブデザイン事業:企業課題と社会課題の解決を共に目指します。(https://culumu.com/

  • システム開発&エンジニアリング事業:次世代的なテクノロジーで人間ならではの体験を創造します。(https://styz.io/tech

これらの事業を通じて、企業、行政、NPO、個人との媒介となり、社会の課題解決を促進しています。

関連情報

本プロジェクトの詳細は、以下のインタビュー記事でご覧いただけます。

株式会社STYZ コーポレートサイト:https://styz.io/

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77