東京都武蔵野市にある吉祥寺。
昔ながらの入り組んだモールの商店街や、井の頭公園に続く石畳の小道、焼鳥屋やジャズ喫茶など、さまざまな時代や文化が入り混じった独特の魅力のあるこの街には、おしゃれなカフェや雑貨店が数多くあり、最近では海外からの観光客も多く訪れるようになっています。

吉祥寺の中通り商店街にあるマジェルカは、ウェルフェア=福祉とフェアトレードを掛け合わせた造語「ウェルフェアトレード・ショップ」障害のある方々が作る雑貨専門のセレクトショップです。

マジェルカ外観写真
マジェルカ

店内には楽しくたくさんの雑貨が陳列されていて、宝探しをする気分。
「障害のある人が作った商品」ということを意識しないで入ると、普通の雑貨ショップでは売っていない個性的な雑貨が揃っているお店という印象です。

マジェルカ店内写真
壁だけでなく、天井から床まで個性的な雑貨がたくさん。宝探しのようでわくわくする雰囲気。

障害のある方によって福祉事業所で作られている雑貨は、かつてはバザーでの販売などが主で、マジェルカのような専門の雑貨店はありませんでした。

現在では、オンラインショップも含め、日本全国で同様の雑貨ショップは増えており、個性的で独自の魅力を持つ福祉雑貨が広く認知され、支持されるようになってきていますが、その新しい雑貨店の形を最初に作り、可能性を切り開いてきたのが、今回ご紹介するマジェルカです

全国各地の福祉事業所から集められた、質が高く魅力的な数々の商品が、素敵に陳列され販売されています。

マジェルカ商品クローズアップ
福祉事業所で作られる商品。一つ一つに手作業ならではの味わいがあるのも大きな魅力になっています。

マジェルカの設立は2011年。最初は西荻窪の小さな店舗からスタートしました。
当時、福祉事業所の雑貨のみを扱うお店は全くない中で、マジェルカを始めた経緯や商品開発にまつわるお話を、代表の藤本光浩さんに伺いました。

藤本さん
マジェルカ代表の藤本光浩さん。

始まりはある商品との出会いから

藤本さんは、マジェルカを始める前、障害のある人が作る商品についてはよく知らず、チャリティー意識から買う類のもので、高い商品価値がある物があるとは思っていなかったそうです。
当時勤めていた会社で新しい商品を探していた時、福祉事業所で作られた積木に出会い、そのクオリティーの高さに驚いたといいます。
それから興味が湧いて色々調べていくうちに、こんなにも良いものが埋もれている、と宝物を見つけたような感覚で、そこにビジネスとしての可能性を感じたそうです。
「早くやらないと誰かがやってしまう」と、お店を始めることを決意。
しかし当時は福祉雑貨のみを扱うお店というのはなかったため、本当にゼロからのスタートだったといいます。

福祉事業所=取引先の開拓

「福祉業界出身ではないので、取引先や取扱商品をゼロから開拓していきました。
全国の福祉事業所を地道に調べて、良さそうな商品を作っている事業所へコンタクトをとるのですが、福祉雑貨を集めたお店をはじめようとする人などいなかったので、かなり警戒されました。詐欺かと思って怪しまれたくらいです。」

「20ページ位の分厚い企画書を作って、事業所を一件一件回りました。障害者を食い物にするつもりか!と言われるのが当然だと思っていたので、口説くつもりで理論武装していったんです。」

ところが、事業所の反応は思いもかけないものだったそうです。

「行ってみたらほとんどの事業所が、“私たちのものを売ってくれるところを探していた”という反応で、拍子抜けしました。」

お店を始めて見ると、多くの方から、“こんなお店を自分もやりたかった”と言われたりもしたそうです。

ゼロから開拓して、徐々に増えていった取引先はスタートしてから数えると述べ150件以上になるそうで、全国の事業所を訪ねてまわったことが、取引先との信頼関係を築くことにつながっていったといいます。
今ではオンラインも含め福祉雑貨を扱うお店も増えていますが、藤本さんのように事業所までわざわざ訪ねてくる人は少ないと言われることもあるそうです。

「作っている背景を知らないと、その商品の想いやストーリーをお客様に伝えにくいと思いますので、そこはこだわっている部分です。」

取引先も安定し、スタッフも増えた今では、事業所に行く機会は減ってしまったそうですが、マジェルカのオンラインストアにある”Creators/作り手さんについて”というページで、事業所への訪問ブログが見られるようになっています。
そのブログからは、当時の開拓のエピソードや事業所の現場の様子が伝わってきます。
自らの目で確かめてきたからこそ、一つ一つの商品を自信を持ってお客様に届けることができるのだと感じます。

作り手写真
天井近くに飾られた福祉事業所での手作業の写真。商品の背景にあるもの作りのストーリーが伝わってきます。
八王子生活館ザンシーちゃん
ザンシーちゃんキャプション
商品のPOPにもストーリーを伝える楽しい工夫が凝らされています。

価値ある商品としての提案

取引先の開拓と同時に藤本さんが考えたのは、商品の価格についてでした。
それまでは、福祉事業所でつくられる商品は販路も少なく、バザーでの販売が主だったため、手間のかかる作業の商品でも安い値段で販売されていたそうです。

「安い値段で売っても、薄利多売で利益が作れれば良いのですが、手間のかかる手作業など、そうでないものを安く売るのでは利益が作れないですよね。」

そこで藤本さんが提案したのは「商品に見合った価格」でした。
“商品に見合った価格で売ること”は、理想論で言っても中々伝えるのが難しかったそうですが、実店舗で実際にやってみて、実際に売れることで、それが前例となって徐々に事業所の理解が広がっていったといいます。

「マジェルカに来るお客様は素敵な雑貨を探しに来て下さっているので、それが商品に見合っていると感じていただければ、普通に購入して下さいます。
福祉事業所で作った商品だと知らずに手にして下さったお客様に、お会計時にそのことを伝えると、“良いお買い物が出来た”と言われることもあります。何かに貢献できる良い買い物をしたという付加価値を感じて下さるのではないでしょうか。」

商品に見合った価格で販売されることにより、それが作っている方々にも還元され、お客様にも喜んでいただける。
バザーなど特定の販路しか持たなかった商品が、マジェルカという今までと違った販路を得ることによって、作り手にとっても、お客様にとっても、より良い形で提供されるようになったのです。

実際、インバウンド(外国からの観光客)のお客様も多く、看板の内容は読めなくても、素直に良い商品として買って下さるそうです。

英語POP
外の棚には英語で書かれた商品紹介もあります。ストーリーを伝えるPOPにもこんな工夫がされています。

思いがけない副作用

マジェルカがオープンして7年以上になりますが、その中でも特に印象深いエピソードを伺いました。
それは福祉事業所との取り組みがもたらした思いがけない副作用だったそうです。

「マジェルカでは、デザインを提案して作ってもらうこともあります。
事業所の担当の方にとっては、やったことのない仕事を組み立てる事になり、利用者の方々にとっては今までよりもハードルの高い仕事をやることになるので、どちらにとっても大変な作業だと思います。」

「それを実際の作り手である事業所の利用者の方々やご家族が、商品として魅力的にディスプレーされ、店舗に並んでいるのを見て、苦労してやった結果の意味、価値を知る。
それによって、最初は苦労してやっていた利用者の方々がさらに次の仕事をやりたいと思うようになっていきます。
ある事業所では、利用者の方が自分で本を買ってきて、次はこういうのを作りたいと皆で新しいアイデアを出し合っていたそうです。
それを見たスタッフの方から感動したと言われたんです。
それまでは、“ここまでしか出来ない”と思っていたのが、タスクを課して、それを超えることで成長する姿を見られて、すごく勉強になったと言ってもらえたんです。 」

「 私たちがお願いしている新しい仕事が、事業所の利用者の方々やスタッフの方々のエンパワーメントにつながっているとは全く考えていなかったので、そのことは逆に、私たちの価値を知るきっかけにもなりました。 」

カメラストラップ
マジェルカが企画したオリジナルのカメラストラップ。一つ一つ色や柄の違うさをり織りはマジェルカでも人気が高いそうです。さをり織りは2か所の事業所で作ってもらい、レザーの部分はレザー商品を作っている事業所に依頼。複数のコラボレーションで作られた商品。

福祉事業所の可能性

元々物作りにかかわる仕事をしていた藤本さんは、工芸品にも造詣が深く、マジェルカでは、全国の福祉事業所で作られている質の高い工芸品が販売されています。
日本の民芸品や伝統工芸品は後継者不足が問題になっていますが、全国の福祉事業所でも多くの工芸品が作られているといいます。

最近では、“漆”の工芸品を始めたところもあるそうです。
漆の原料は現在ほとんど中国から輸入されるそうで、そこでも今は中国からの原料を使っているのですが、漆の樹を植えて8年後には自前の原料で作れるようになるそうです。

京都には西陣織を織っている事業所もあって、
高い生産性を求めるやり方ではない手作業の伝統工芸や工芸品は、福祉と相性が良いと藤本さんは話してくれました。

同じように後継者不足が問題になっている農業でも、福祉とのマッチングが進んでおり、 伝統産業においてもその可能性は大きいのかもしれません。

うらやすガラス幸房
マジェルカで扱っている岡山「うらやすガラス幸房」の吹きガラスは、工芸品として有名な倉敷ガラスと同じ材料で作られています。
ガラス壺
色をつけたガラスの原料が入った壺を一壺ずつ窯に入れるため、ひんぱんに色を変えられず、色によっては6年ぶりに吹いたものがあったりするそうです。

もう一つの可能性として藤本さんが話してくれたのが、全国の福祉事業所に眠っている設備についてです。
今まで福祉への行政の支援がソフトよりもハード(設備投資など)が中心だったため、かなりの設備(例えば印刷機や高価なミシンなど様々)が数多く今は使われず眠っているといいます。

「全国にあるそういう設備は社会資源の一つだと思います。 眠っている設備を外部からの働きかけで活用できれば、社会資源の活用になると思っています。」

動かせる人がいなかったり、ニーズがなかったり、様々な理由で使われていない設備が、藤本さんが言うように外部からの働きかけがあれば、活用するきっかけになって、もっと色々な可能性が広がるかもしれません。
マジェルカでは、商品企画のアイデアにあわせて、それに必要な設備を持っているところを調べて探すそうです。
せっかく持っている設備を使えるところが少なくて苦労することも多いそうですが、全国の設備を活用出来れば、まだまだ色々なことが出来るといいます。

全国の福祉事業所と商品開発に取り組んできた藤本さんのお話を伺って、まだまだ新たなアイデアがきっかけとなって、新しい仕事が生まれていく、そんな可能性を感じることが出来ました。

マジェルカの役目

マジェルカを始めた当時と比べて、今では専門で扱うお店増え、福祉雑貨が価値ある商品として認知されるようになってきました。
それでも、藤本さんは素敵な雑貨にだけフォーカスがあたる事は本意ではないと、その中心にいる立場であるからこそ、考えているそうです。

「頑張ったら高められることを引き出していくことは良いことだと思いますが、頑張ってもできない人もいる。それに興味を持てない人もいる。
素敵なものを作れない、素敵な絵を描けないからだめなわけではなく、 ボールペンを組み立てたり、箱を折ったりすることにやりがいを感じる人もいます。
武蔵野市でも印刷業務で月7万円以上の工賃でがんばっている事業所もあります。」

その上で、マジェルカが果たす役割について話してくれました。

「障害者との関わりや理解を、障害者支援が目的の福祉の内輪で完結させるのではなく、むしろ障害者支援に興味や関心の薄い世の中の多数に向けて、間口を広げるのがマジェルカの役目だと思っています。
自分がそうだったように、お客様にとってもこれまで知らなかった“宝物を見つけた”感覚を持ってもらえる。
世の中にまだ知られていない価値を、知らない人につなげる。
やっているのはすごくシンプルなことなのかな、と思っています。」

人の力を発揮できる場所として

「ずっと物の力を伝えることをやってきたのですが、“人”に関しても力を発揮する場を提供したい」
という思いから、マジェルカは2017年に障害者就労支援A型事業所となり、障害のあるメンバーを雇用しています。

障害があっても責任のある仕事を任せることで、自主性を持って自分の力を発揮できるよう、接客から商品の陳列、電話対応や事業所とのやりとりなど、他のスタッフと同様の仕事を任せています。
マジェルカが発信するインスタグラムなどのSNSの投稿や、オンラインストアやブログなどでもスタッフやメンバーが活躍しています。

DIY棚
スタッフ、メンバーと専属大工=藤本さん(スタッフ談)がDIYで作った棚。天板をこれからつくる予定。

福祉雑貨の専門店という新しい形を切り開いてきたマジェルカ。
福祉事業所で作られる商品をより多くの方々に繋げる、大きな役目を果たしてきました。

世の中にまだ知られていない価値を、知らない人につなげる。
本当に良いものを自信を持って提供しているからこそ、そのシンプルな想いが 多くのお客様から支持され続けているのだと感じます。
マジェルカという開かれた場所で、これからも一つ一つの魅力的な商品がより多くの方々と繋がっていくことを願っています。

【マジェルカ】
心や体に障害を持つ方々が作っている質の高いモノ
彼らが作るからこその魅力に溢れたモノ達
マジェルカは日本全国から、そんな雑貨製品だけを専門に集めたセレクトショップです。
2017年からは、障害者就労支援A型事業所として、障害のあるスタッフの雇用をスタートしています。

〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町3-3-11 中田ビル1F
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