Last Updated on 2023年6月28日 by 菅間 大樹

京急久里浜駅から歩いて7分ほど。住宅街に入った閑静な場所に、そのうどん屋さんはあります。お店の名前は「うどんカフェうせい」。決して目立つ場所にあるとは言えず、店内もカウンターとテーブル席を合わせても10名を超えると満席状態と、規模も大きくありません。 しかし、その存在は少しずつ高まっており、地域にとって大切な場所になりつつあります。

店長は22歳!

店長であるしずかさんは若干22歳。主な役割は、うどん作りです。自閉症があるしずか店長ですが、うどん作りの材料は自分で準備し、水を混ぜたり捏ねたりといった工程は手慣れたもの。その様子はうどん作りに精を出す若き職人そのものです。

ちなみに、しずかさんにとっては、決められた分のうどんを毎日作ることは自身の生活のリズムになっているようです。今回は、しずか店長のお母さんであり、うせいの“おかみさん”である村木雅美さんにお話を伺いました。

看板や電光掲示板ができるなど数年をかけて徐々にお店らしく発展。店外からは店長がうどんを打つ様子を見ることができます。

「ないのなら自分たちで作ってしまおう」

おかみさん:
ここ最近は、大概のことには動じなくなってきましたが、数年前まで、しずかの就職に関することでは心が折れそうになることばかりでした。

どこに就職させるのが良いのかを考えたり話を聞きに行ったりしても、なかなか良い方向には進みませんでした。そこで、「働く場所がないのなら自分たちで作ってしまおう」、と思ったのが、お店を開こうと思ったきっかけです。

なぜうどん屋さんにしたのかは、しずかの食と関係があります。しずかは子供のころから偏食だったのですが、うどんだけは大好きだったんですね。そして、しずかに何か手に職をつけたいと考え、自分が好きなものだったら興味を持ってやれるかもと思ったことで、うどん屋を開くことにしました。

教室に通うなどはせず、家族や地域の方々と独学でうどん作りを続け、「これならお客さんにお出しできるかな」と思えるレベルになったので、お店をオープンすることにしました。ただ、それでもお店を開こうと思い始めてから1年半くらいはかかったと思います。

美味しいのはもちろんのこと、コシの素晴らしさがうせいのうどんの特長。写真では伝わり切れませんが、実際に見たらかき揚げの大きさにもビックリするはず!

店長のうどん作りがお店の生命線

うせいはうどん屋ですので、うどんがないと何もはじまりません。つまり、しずかのうどん作りがお店の生命線です。しずかはうどん作りに関して、やりたくない、ということはなく、むしろ飽きずに集中してやれたことは、自分たちにとっても発見でした。定期的に行っているうどん作りの会についても楽しく参加しているようで、それは私たちの想像を超えていました。

今では、茹でと味付けだけを私がやっていて、それ以外の、うどんを捏ねたり切ったりする工程は、すべてしずかの担当です。もう、しずか以外にすべての工程をできる人間はうせいにはいません(笑)。 今は、お店で出すうどんの1週間分にあたる約100食を作る場合もほとんど、しずか一人で行っています。(1日あたりに出るうどんは15食~20食ほど)

その姿はもはや一人の若手うどん打ち職人!うせいは店長抜きに語れないお店です。

大人になっても人は成長する

しずかの1日のスケジュールですが、これは自分なりに決まっているようなんです。

自閉症の特性だと思うんですが、朝もしっかり自分で起きたり、その後に洗濯物を干したり、11時くらいにお店に出てきて、その日のうどんの準備をしたり、明日のうどんの仕込みをしたり、その後は洗濯物を畳んだりと、自分の役割をこなしつつ、考えながら時間を無駄なく使っている感じがします。普段の寝る時間もほぼ決まっていて、規則正しい生活をおくれていますね。

お店にいる時も、おしぼりが少ない、お水が少ないなども自分なりに周囲を把握しているようで、気を配っている様子がみてとれます。特にここ最近はそういった傾向にありますね。

世間ではよく、「20歳を超えると人として成長の幅がない」などといわれますが、しずかを見ていると、そんなことは決してないんだな、ということが分かります。環境によってはまだまだ成長していけるということを、こちらが教わっています。

接客を通じて自発的な行動が

しずかもお客さんと接することで、人を意識するようになってきたと思います。開店当初はただ黙々と、うどんを作っているだけでしたが、お店にお客さんが来るようになると、自分なりに挨拶するようになったり、お箸などのセッティングが出来ていないと、「失礼します」といいながら、自分でお箸をお客さんがいるテーブルに置きに行ったりするなど、積極的な行動が増えてきました。

しずか自身、以前は人といること自体がストレスになっていましたが、今は人といることが楽しそうにみえます。この点も、本人がずいぶん変わったところだと感じます。

また、おかげさまでお店は常連のお客様が増えてきました。夜は予約制なのですが、定期的に予約もいただけるようになってきました。

箸袋にご来店のお礼を書くのも店長の仕事。うどん作りの合間を縫って一枚一枚丁寧に書きあげています。

一緒に働く仲間が集まる場所になることを夢見て

お店をはじめてからしずかと一緒にいる時間が増えたのは良いところだと思います。しかし、母である私と一緒にいることが当たり前になっていてしまい、それが本人にとって良くないほうに行かないかという心配も少しあります。今後は、自分以外の家族と一緒にいる環境を作る必要があると感じているところです。

私たちは、「働く場所がないのなら自分たちで作ってしまおう」と、思い切ってうどん屋さんをオープンしましたが、障害者の支援サービスを利用している家族にとって、将来、子が働くイメージが持つことはとても難しいものです。

それが、うせいやしずかを知ることによって、「こんな働き方もあるんだ」と思えるようになれば良いと思います。一つのきっかけとして、ですね。 そして、大きな規模ではないかもしれないけど、しずか店長と、障害の当事者たちが一緒に働ける場になっていければ、と考えています。

(掲載情報等は2020年2月時点)

【店舗情報】

https://usei116.com/

https://www.facebook.com/useicafe/
住所:神奈川県横須賀市久里浜2丁目4-10(京急久里浜駅より徒歩7分)
TEL:046-854-5388
営業時間:11:00~14:00(営業時間については事前にお問い合わせください)
定休日:毎週日曜日

https://www.youtube.com/@user-tp9mm5ki1n

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77