滋賀県が推進する福祉DXとは?「Hope Care AI」で変わる相談支援の現場

滋賀県下10法人が連携、持続可能な福祉支援モデルを構築

今回のプロジェクトの大きな特徴は、一法人に留まらず、滋賀県内の10法人が連携して「Hope Care AI」を導入する点にあります。多様な体制や業務フローを持つ複数法人でAIを活用することで、全国の相談支援事業所でも活用できる汎用的な導入モデルの確立を目指しています。

国の基本指針では、令和11年度末までに「のぞまないセルフプラン」の件数をゼロにすることが目標とされています。「のぞまないセルフプラン」とは、利用者が相談支援専門員による支援を受けられず、やむを得ず自身でサービス等利用計画を作成する状況を指します。現場では、相談支援専門員の増加にもかかわらず、業務過多による疲弊や体調不良が課題となっており、この目標達成には業務効率化が不可欠です。

相談支援専門員の業務負担を軽減し、質の高い支援時間を創出

「Hope Care AI」の導入により、相談支援専門員は業務負担が軽減され、利用者とのより丁寧な関わりに時間を割けるようになります。社会福祉法人とよさとの吉川施設長は、この取り組みを通じて、相談支援専門員が余裕を持って業務にあたり、新規の相談を受け入れられるようになることで、望まないセルフプランの解消や事業所の収支改善にも繋がる可能性に言及しています。

「望まないセルフプラン」ゼロへ!AI導入で変わる福祉現場のリアル

複数法人連携で全国に汎用的な導入モデルを目指す

相談支援事業所は法人ごとに人員体制や業務の進め方が異なります。そのため、単一法人でのAI導入効果だけでは、他の事業所にそのまま当てはめることが難しい場合があります。本プロジェクトでは、異なる複数法人で取り組むことで、多様な条件に応じた導入方法、効果、課題を明らかにすることが期待されています。これにより得られた知見は、滋賀県内だけでなく、近畿、さらには全国の相談支援事業所でも活用できるモデルの構築に貢献すると考えられます。

共同パートナー

Hope Care AI導入で「心の余裕」が生まれた現場の声

社会福祉法人とよさとの吉川施設長と木村課長へのインタビューでは、AI導入による具体的な変化が語られています。新しいICT操作への戸惑いはあったものの、職員同士の教え合いや上司の個別フォローによってスムーズに導入が進みました。現場からは「AIへの抵抗」よりも「使いこなすための支援」が必要だったという声が聞かれ、前向きな姿勢がうかがえます。

書類作成時間が大幅短縮!利用者と向き合う時間が増加

木村課長は、新規利用者のフェイスシートや情報共有シート作成において、最も「心にゆとりが生まれた」と語っています。これまでは過去の記録を読み解き、情報を整理するのに2~4時間以上かかることもあり、心理的な負担も大きい業務でした。

「Hope Care AI」導入後は、記録をもとにAIが案を作成し、確認・修正まで含めて30分程度で完了するケースも増えました。これにより、単なる時間短縮だけでなく、「作らなければ」という心理的負担が軽減されたことが最大の変化です。生まれた余裕で、情報提供先のニーズに応じた情報の濃淡をつけられるようになり、利用者と向き合う時間や支援の質を高めるための思考時間が増加したと報告されています。

福祉DXの重要性と「Hope Care AI」が目指す支援の未来

なぜ今、福祉分野にDXが必要なのか?4つの理由

福祉現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、単なるIT化に留まらず、事業所の持続可能性と支援の質を同時に高める重要な施策です。主に以下の4つの理由が挙げられます。

  1. 黒字経営と事業持続性の確立: 相談支援単独での収支を改善し、将来にわたって安定した運営基盤を構築します。
  2. 残業・属人化リスクの回避: 業務の仕組み化・標準化により、特定職員への依存を解消。残業削減と組織的な対応力を両立します。
  3. 待機利用者の発生防止: 待機者を減らし、必要な人に適切な支援提供を実現します。
  4. 業務負担軽減と対人支援時間の確保: 職員のゆとりを創出し、浮いた時間を利用者と丁寧に向き合う本質的な支援へ還元します。

福祉DXは、職員の働きやすさを守りながら、地域に求められる高品質な支援を継続するための不可欠な投資と考えられます。

福祉におけるAI活用、一般的なAIとの違いとは

福祉分野でのAI活用は、一般的なAI活用とは根本的に異なる特性を持つとされています。「Hope Care AI」のコンセプトでは、以下の点が重要視されています。

  • 基本単位は「利用者」: 福祉のAI活用の基本単位は、タスクではなく「利用者」です。記録・計画・報告書は利用者ごとに積み重ねられます。

  • 利用者ごとのPDCAでつながる: 計画(Plan)・支援(Do)・評価/モニタリング(Check)・見直し/改善(Act)がひとつの環境でつながることで、AIは福祉に役立つと考えられています。

  • 単発ではなく、長期的・継続的に: 業界の構造上、単発ではなく長期的な時間軸での利用が前提となります。

  • ひとりではなく、チームで使うもの: 個人ではなく、チーム・法人の「仕組み」として活用することで、誰が使っても同じ水準の出力になるよう「平準化」が求められます。

  • 機能の前に、まず「安全」を設計する: 繊細な個人情報を扱う現場だからこそ、学習不利用や権限管理を徹底し、組織のガバナンスとして事故を防ぐ環境を整える必要があります。

「Hope Care AI」のコンセプト詳細については、以下のサービスサイトで確認できます。
https://hope-care-ai.ordentier-corp.co.jp/concept/

相談支援事業所の持続可能性を高める「独立採算シミュレーター」

現場の相談員が経営を「見える化」する独自ツール

本事業の主軸である社会福祉法人とよさとでは、相談支援事業所が単体でも持続可能な運営を続けられるよう、独自の「相談支援事業所 独立採算シミュレーター」を作成し、提供しています。このシミュレーターは経営者向けではなく、「現場の相談支援専門員」が気軽に入力できる仕様です。

独立採算シミュレーター

希望する年収や1件あたりの報酬単価を意識することで、自分たちの仕事が法人に生み出している価値を数字で理解し、自立した事業所運営の意識を育むツールとして活用されています。吉川施設長は、採算を意識することは、支援の質を犠牲にすることではなく、職員が無理なく質の高い支援を続けられる体制をつくることにつながると述べています。

独立採算シミュレーターは以下のリンクから利用できます。
https://consultation-support-simulator.pages.dev/

滋賀から全国へ!福祉DXの波を広げる「Hope Care AI」

3年で県内30法人への展開を目指すロードマップ

このプロジェクトでは、今年度の先行10法人での成果を具体化し、次年度以降も滋賀県および関係機関との連携を強化しながら、3年間で県内30法人への展開を目指しています。現場の相談員を守り、地域の福祉インフラを持続可能なものにするための挑戦が続けられます。

社会福祉法人とよさと、オルデンティアコーポレーションの役割

社会福祉法人とよさとは、相談支援事業所「ステップあップ21」などを運営しており、今回の滋賀県福祉DX推進事業では主軸として、独立採算シミュレーターの作成や各事業所への伴走支援を担っています。システムの開発・提供は、株式会社オルデンティアコーポレーションが担当しています。

社会福祉法人とよさと

株式会社オルデンティアコーポレーションは、AIクラウドシステム開発事業、リスキリング事業、DXコンサルティング事業を展開しており、神戸本社、大阪支社、鹿児島支社を拠点に活動しています。

本件に関するお問い合わせは、株式会社オルデンティアコーポレーションの下記お問い合わせフォームより可能です。
https://ordentier-corp.co.jp/contact/

読者向けQ&A

Q1: 「Hope Care AI」はどのような事業所で利用できますか?

A1: 今回のプロジェクトは「指定特定相談支援事業所」が主な対象ですが、「Hope Care AI」は福祉現場における利用者情報の管理や書類作成業務の効率化を支援するAIシステムです。今後、汎用的な導入モデルが確立されることで、様々な福祉事業所での活用が期待されます。

Q2: AI導入による費用対効果はどのくらい期待できますか?

A2: プレスリリースによると、「Hope Care AI」の導入により、新規利用者のフェイスシートや情報共有シート作成にかかる時間が数時間から約30分に短縮されるケースもあると報告されています。これにより、相談支援専門員の残業時間削減や、利用者と向き合う時間の増加による支援の質向上、ひいては事業所の収益改善に繋がる可能性が示唆されています。

Q3: AIが個人情報を扱う上で、セキュリティ面は安全ですか?

A3: 福祉分野でのAI活用においては、繊細な個人情報を扱うため、セキュリティが最優先事項とされています。「Hope Care AI」のコンセプトでは、学習不利用や権限管理を徹底し、職員個人の注意に頼るのではなく、組織のガバナンスとして事故を防ぐ環境を整えることが重視されています。

まとめ:福祉DXが拓く、持続可能で質の高い支援の未来

滋賀県で始まった「Hope Care AI」を活用した福祉DX推進プロジェクトは、相談支援専門員の業務負担軽減と利用者への質の高い支援を実現するための具体的な一歩です。複数法人での連携により、全国の福祉事業所が参考とできる導入モデルの確立を目指し、3年後には県内30法人への展開という大きな目標を掲げています。

AI技術の導入は、福祉現場の持続可能性を高め、職員がやりがいを持って働ける環境を創出し、最終的には利用者一人ひとりに寄り添ったきめ細やかな支援へと繋がります。この滋賀県での先進的な取り組みが、日本全国の福祉DXを加速させるきっかけとなることが期待されます。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77