この記事で分かること

  • 障害者雇用の定着理由1位は「配慮」ではなく「待遇(50%)」 であるという最新の調査結果
  • 一般企業のフルタイム就業者が長く働き続けられる3つの決定的な理由(待遇・対等な評価・オープンな社風)
  • 早期離職を防ぐために企業や人事が抑えておくべき**「定着チェックリスト」と外部伴走の重要性**
  • 「合理的配慮」や「特例子会社」などの専門用語の初心者向け分かりやすい解説

障害者雇用において「手厚い配慮を行っているのに、なかなか定着率が上がらない」「社員が何を求めているのか本音が分からない」とお悩みではありませんか? 本記事では、障害者転職エージェント「ハッピー」(JOME株式会社)が一般企業でフルタイム就業する障害当事者30名に実施した最新の実態調査データをもとに、障害のある社員が「長く働き続けられた本当の理由」を解説します。

実は、定着の決め手は「特別な配慮」だけではなく、正当な給与や対等な評価といった「働きがい」にあったことが明らかになりました。 この記事を読むことで、障害福祉や障害者雇用における定着の課題がクリアになり、当事者・企業双方にとって望ましい職場環境づくりのヒントが得られます。


障害者雇用における「定着率」の重要性と現状の課題

障害のある方が企業で働く機会が増える一方で、職場への「定着(長く働き続けること)」に関する課題も注目されています。まずは定着率の背景や基礎知識を整理しておきましょう。

定着率とは?障害福祉で注目される背景

定着率とは、就職した社員が一定期間以上離職せずに働き続けている割合を指します。 障害福祉や障害者雇用の分野では、単に「採用人数(法定雇用率の達成)」を目指すだけでなく、「採用後に生き生きと働き続けられるか」という質の側面が重視されるようになってきています。

「合理的配慮」だけでは防げない離職の悩み

多くの企業では、バリアフリー化や勤務時間の調整といった「合理的配慮」の提供に力を入れています。もちろん配慮は働くうえで欠かせない土台です。 しかし、「配慮は十分におこなっているはずなのに離職が防げない」というケースも少なくありません。その背景には、配慮の「量」だけでなく、仕事への納得感やキャリア形成に関する本音が隠されていると考えられます。


専門用語の分かりやすい解説

障害福祉や障害者雇用の分野には、聞き慣れない専門用語が多く存在します。記事をより深く理解するために、主な用語を分かりやすく解説します。

1. 合理的配慮

障害のある人が職場や社会で働く際、支障となっている障壁(物理的・制度的な壁など)を取り除くために行われる個別の配慮や調整のことです。例えば、車椅子用のスロープ設置、筆談やチャットツールの活用、静かな作業スペースの確保などが挙げられます。障害者差別解消法や障害者雇用促進法において、事業者側の義務として定められています。

2. 障害者枠と一般枠

  • 障害者枠:障害者手帳を所持している方を対象とした採用・雇用枠です。障害特性に応じた合理的配慮を受けやすい環境で働けるメリットがあります。
  • 一般枠:障害の有無に関わらず公募される通常の採用枠です。配慮の有無や評価基準が異なります。

3. 特例子会社

障害者の雇用に特別配慮した子会社のことです。親会社が一定の要件を満たすことで、子会社で雇用している障害者を親会社の雇用率として合算できる制度です。

4. 農園型・サテライトオフィス型雇用

本社のオフィスとは異なる農園やサテライトオフィス(遠隔地の作業スペース)で障害のある社員が勤務する雇用形態です。環境調整がしやすい反面、本社事業への参画や多様なキャリアパスの確保において課題が議論されることもあります。


当事者30名に聞いた!障害のある社員が「長く働き続けられた」理由ランキング

障害者転職エージェント「ハッピー」(JOME株式会社)が、一般事業会社で直接雇用されフルタイムで勤務する障害当事者30名(身体障害15名、精神・発達障害14名、知的障害1名)を対象におこなった調査によると、当事者のリアルな本音が浮かび上がってきました。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000184549.html

第1位:待遇(給与・条件)の納得感(15名・50%)

長く働き続けられた理由の第1位は、全体の半数を占めた「待遇(給与や労働条件)」でした。 一般企業の障害者雇用の水準と比較して正当に報われていることや、「これほどの好条件を出してくれる会社は他にはない」という納得感が、離職を踏みとどまらせる大きな要素になっています。単に金額の多寡だけでなく、「一人の人間として自立した生活を送り、人生を楽しむための対価が得られている」という手応えが定着を支えているとみられます。

第2位:”障害者枠”ではなく、対等に評価されること(10名・約35%)

第2位は、「障害者だから」と特別扱いされず、仕事の成果に対して対等に評価されることでした。 必要な合理的配慮は担保されたうえで、健常者と同じ土俵でキャリアや仕事の成果が正当に評価されるバランスが、仕事へのモチベーションと納得感を生んでいます。

第3位:オープンな社風と人事の継続的な関わり(5名・約15%)

第3位には、立場や障害の有無に関わらず意見を交わせる風通しの良さと、定期的な面談の仕組みが挙げられました。 例えば半年に1回程度、人事担当者が体調や業務上の困りごとを継続的に聞き取る仕組みがあることで、表に出しにくい悩みを早期に解消しやすくなると考えられます。


なぜ辞めてしまうのか?離職や不満につながる3つの原因

定着できる理由の裏返しとして、「辞めたくなった理由」についても同調査で明らかになっています。

原因1:待遇・給与の頭打ち(見えない壁)

同じ業務をおこなっているにもかかわらず、「障害者雇用だから」という理由で給与や昇給に上限が設けられている場合、モチベーションの低下につながります。努力が報酬に反映されないと感じることで、離職を検討するきっかけになるケースが見られます。

原因2:仕事内容・キャリアの制限

任される業務が限定的で希望する部署や職種へ挑戦できないなど、キャリアに天井を感じてしまうことも要因の一つです。成長の実感が得られない環境では、長く働き続けることが難しくなる傾向があります。

原因3:人間関係のこじれとサポート不足

離職の直接的なきっかけになりやすいのが人間関係の課題です。 体調の波や自己否定的な思考パターンが重なると、本来であれば解決できるような行き違いでも「もう無理だ」と感じてしまうことがあります。人間関係がこじれる前に、第三者が客観的に介入・伴走できるかが重要なポイントとなります。


人事・企業向け!定着率を向上させる5つのチェックリスト

調査結果をふまえ、企業が障害のある社員の定着率を高めるために確認したいポイントを整理しました。

  1. 給与や評価等級に見えない上限(天井)を設けていないか
  2. 業務内容や異動、昇格の機会を公平に開いているか
  3. 「合理的配慮」と「業務評価」を混同せず切り分けられているか
  4. 体調や抱えている事情を定期的に確認する面談体制があるか
  5. 社内だけで抱え込まず、外部の第三者(専門支援機関等)と連携できているか

手厚い配慮は当然の「土台」としたうえで、正当な評価と働きがいを提供する姿勢が求められます。


Q&A

Q1. 障害者雇用で長く働き続けるために、当事者自身ができる工夫はありますか?

A. 自分の障害特性や必要な配慮(できること・サポートが必要なこと)を整理し、企業側にわかりやすく伝える能力(セルフアドボカシー)が大切とされています。また、体調に波がある場合は早期に自己サインに気づき、一人で抱え込まずに上司や人事、支援機関へ相談する姿勢が定着につながります。

Q2. 企業が「合理的配慮」と「業務評価」を両立させるにはどうすればよいですか?

A. 配慮は「スタートライン(働く環境の整備)」であり、評価は「アウトプット(出された成果や役割への貢献)」であると明確に分けることがポイントです。過度な特別扱いをするのではなく、配慮を提供したうえで設定された目標に対してフェアに評価することが、社員自身の納得感と定着を高める要素となります。

Q3. 職場の人間関係で悩んだとき、どこに相談すればいいですか?

A. 社内の人事担当者や相談窓口はもちろんのこと、就労移行支援事業所や障害者転職エージェントなどの外部専門機関、または障害者職業センターなどの公的機関に相談するのも効果的です。第三者が客観的に間に入ることで、こじれる前に問題を整理・解決しやすくなります。


まとめ:配慮は土台。正当な評価と働きがいが定着を生む

障害者雇用における定着率向上の鍵は、単に「特別な配慮を増やすこと」だけではありません。 配慮を環境の「土台」としてしっかり整えたうえで、一人の戦力として正当に評価し、適切な待遇やキャリアの機会を提供することが、社員の働きがいと長期定着につながることが示されています。

当事者・企業の双方が対等な目線で対話を重ね、必要なサポート体制を整えていくことが、誰もが生き生きと働き続けられる職場づくりへの第一歩となるでしょう。


Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77