「イマバリ・パラビエンナーレ」とは?地域共生社会を目指す芸術祭

「イマバリ・パラビエンナーレ」は、社会福祉法人来島会が主催する芸術祭です。「効率や正しさが優先される社会の中で、人と人が偶然に出会い、違いを面白がりながら関わり合う瞬間が少なくなっている」という問題意識から、「障害のある人もない人も、子どもも大人も、アーティストも地域の人も、同じ街の中で出会い、予定通りにいかないことを面白がり、お互いの違いを『まあいいか』と許容し合う文化を育てていきたい」という理念を掲げています。

この芸術祭の目的は、立派な芸術作品を展示することだけではありません。人の営みそのものを文化として育んでいくことを目指しています。

キックオフイベントの様子

2026年5月20日には、今治ホホホ座でキックオフとなるトークイベントが開催され、地域住民、福祉関係者、教育関係者、アーティストなど約30名が参加しました。「地域社会でアーティストができること」をテーマに、これから今治で始まる取り組みについて活発な対話が交わされ、プロジェクトの「開会宣言」が行われました。

「アート」が育む新たな関係性:共創プロジェクトの具体例

トークセッションでは、「アート」が単なる作品制作に留まらず、人と人との関係性を豊かにする役割について深く掘り下げられました。具体的な実践例として、二つのプロジェクトが紹介されています。

巨大紙相撲プロジェクトが示す「みんなが同じ土俵に立てる」仕組み

美術家の土谷享さんによる「どんどこ!巨大紙相撲」は、巨大な段ボール力士を参加者全員で制作し、大会を創り上げていくプロジェクトです。

このシンプルな遊びを通して、普段はあまり関わることのない多様な人々が自然と混ざり合い、協力し、応援し合う関係が生まれます。身体的な強さだけではないルールや、車椅子利用者も参加できる「反則技」といった柔軟な発想が、「みんなが同じ土俵に立てる」ための装置として機能しています。このプロジェクトの価値は、制作ワークショップで関わり合いながら、大会作りを通して関係性が育っていくプロセスそのものにあると語られました。

ディスカッションの様子

「乾杯」が繋ぐ心の交流:小さな出来事から生まれる共感

「生活介護事業所ぬか つくるとこ」と「ジョブサポートセンターここすた」の連携から生まれた「乾杯」をテーマにした取り組みも紹介されました。

このプロジェクトは、オンライン上で互いの利用者やスタッフが繋がり、「最近うれしかったこと」や「誰かに祝ってほしいこと」を持ち寄り、みんなで乾杯を交わすというものです。一人ひとりの小さな出来事が共有される中で、人となりや感情がゆるやかに交差する温かい空気が生まれています。求められた「乾杯の音頭」ではなく、「乾杯の練習道具」を制作してきたスタッフのエピソードからは、少しはみ出した発想が「面白い」と受け止められ、参加者自身のユーモアや表現が引き出される場の重要性が示されました。この取り組みは、地域やそこに関わる人たちが混ざり合う仕組みを作り、関係性を育んでいくことを目指しています。

「アートかどうか」よりも「人間らしく生きる」ことの探求

トークの終盤では、「そもそもアートとは何か」という根源的な問いにも議論が及びました。美術家の磯崎道佳さんは、「人は、生きるためだけでなく、何事にも“余白”や“ユーモア”を持ち込む存在。だから人間の営みには、そもそもアートが含まれている」と語りました。

この芸術祭全体を通して共有されているのは、「上手につくること」や「作品として完成させること」が目的ではなく、人と人との営みが積み重なる中で、その場所でしか生まれない関係性や空気が育っていくことに価値があるという視点です。今治のまちには、すでに立場や属性を超えて人が関わり合い、違いを面白がりながら共に過ごす実践や居場所が数多く存在しています。「イマバリ・パラビエンナーレ」は、そうした地域の文化を可視化し、つなぎ合わせ、まち全体へと広げていくことを目指しています。

今後のロードマップ:私設公民館「ガッチャンコ」開設と多様なプロジェクト

2027年2月の本会期に向けて、「イマバリ・パラビエンナーレ」は今後も様々なプロジェクトを展開していく予定です。

福祉をまちにひらくプロジェクト

商店街、福祉施設、公共空間を舞台に、参加型アートプロジェクトが展開されます。

  • 美術家・磯崎道佳さんと「放課後等デイサービス なかよし学童くらぶ」「就労継続支援B型事業所 麦の穂」が地域と連携し、地域素材でのパン作りを通して新しい食文化を創る「カンパーニュサークルプロジェクト」。

  • 生活介護事業所ぬかつくるとこと「多機能型事業所 ジョブサポートセンターここすた」が地域と連携し、スタジアムエリアで多様な人が交ざりあう仕組みを創るプロジェクト。

  • 音楽家・片岡祐介さんと「多機能型事業所 ふきあげワークス」が地域と連携し、この地域の現代民族音楽を創るプロジェクト。

拠点でつながる体験活動

  • 2026年8月には、今治市室屋町に私設公民館「ガッチャンコ」が開設予定です。

  • ワークショップシリーズの展開。

  • 地域を巡る「移動公民館わちゃわちゃ」活動の開始。

  • 常設ギャラリーの設置。

地域と連携した取り組み

  • せとうちみなとマルシェへの定期出展。

  • 「どんどこ!巨大紙相撲 せとうちみなとマルシェ場所」の開催。

    • 巡業(制作ワークショップ):2026年12月27日(日)

    • 本場所(紙相撲大会):2027年1月10日(日)

障がい者芸術展 だんだんBASEギャラリー展

  • 今治福祉園展(仮):6月27日(土)~7月6日(月)

  • ゆりの森とキャンプ~ビニールハウスの愉快な仲間たち~:9月19日(土)~24日(木)

  • 杏のクリスマス・シンフォニー:12月19日(土)~24日(木)

  • 勇気のカタチ~切実なごっこ遊び~:2027年3月6日(土)~15日(月)

これらの取り組みの集大成として、2027年2月5日(金)~14日(日)には、芸術祭「第一回イマバリ・パラビエンナーレ」が開催される予定です。

イマバリ・パラビエンナーレ ビジョンマップ

今治のまちから広がる共生の文化:今後の活動に期待

今治市には、すでに福祉施設、地域住民、子ども、高齢者、アーティスト、企業、学生など、様々な立場の人が自然に交わり合う実践や居場所が点在しています。「イマバリ・パラビエンナーレ」は、こうした地域に根ざした活動を大切にしながら、「福祉を地域にひらく」取り組みをまち全体へとゆるやかに広げていく試みです。アートをきっかけに、人と人との関わりから生まれる豊かな営みを、今治の日常の中で少しずつ文化として育てていくことでしょう。

今後の活動は、イマバリ・パラビエンナーレ公式サイトやInstagramで随時発信されます。ぜひ、この画期的な取り組みに注目し、共生社会の実現に向けた今治の挑戦を応援してください。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77