「デフスポーツ」や「デフフットサル」の体験会が注目を集めています。本記事では、東京都立大学とケイアイスター不動産が共同開催する「デフスポーツスクールキャラバン」全5回の取り組みをもとに、体験会の具体的なプログラム内容、音のない世界でのコミュニケーションの工夫、学校教育や企業研修への応用価値を解説します。


この記事で分かること

  • デフスポーツおよびデフフットサルの基本概念と通常競技との違い
  • 東京都立大学×ケイアイスター不動産「デフスポーツスクールキャラバン」の全5回開催概要と実施実績
  • 音を使わずに視覚情報やジェスチャー・手話で連携する体験型プログラムの具体的内容
  • 共生社会(インクルーシブ社会)に向けた教育的価値およびDE&I推進における意義
  • 学校や自治体、企業が障がい理解体験を導入する手順とよくある質問(Q&A)

音のないスポーツが教えてくれる「コミュニケーションの本質」

多様性が尊重される共生社会の実現が求められるなか、「学校教育でどのように障がい理解を進めればよいのか」「企業のDE&I研修で形骸化しない実践的なプログラムはないか」といった悩みを抱える教育関係者や人事担当者は少なくありません。

言葉や音に頼る日常では見落とされがちな「一人ひとりに合わせた伝え方」の重要性を、五感と身体を使って直感的に学べる機会として注目されているのが「デフスポーツ体験会」です。

本稿では、2026年10月より都内の小・中・高・大学を対象に実施されている東京都立大学とケイアイスター不動産株式会社による連携事業「デフスポーツスクールキャラバン」の事例を軸に、デフスポーツの基本ルールから教育・社会的効果までを網羅的に解説します。


デフスポーツとは?初心者が知っておくべき基礎知識とデフリンピック

デフスポーツの定義とパラスポーツとの違い

「デフ(Deaf)」とは、英語で「耳が聞こえない・聞こえにくい人(ろう者・難聴者)」を意味する言葉です。したがってデフスポーツとは、主に聴覚障がいのあるアスリートによって行われるスポーツの総称を指します。

一般的な「パラスポーツ」は身体障がい、知的障がい、視覚障がいなどを幅広く対象としており、パラリンピックなどの枠組みで実施されます。一方で、聴覚障がいのあるアスリートを対象とした国際総合スポーツ大会は「デフリンピック(Deaflympics)」として独立して運営されています。

デフフットサルの特徴:音のないピッチでの戦い方

デフスポーツの中でも代表的な競技の一つが「デフフットサル」です。競技の基本ルールは通常のフットサルに準拠していますが、最大の特徴は「競技中の音声情報が遮断または制限される」点にあります。

  • 補聴器の着用禁止: 公平性を保つため、競技中は補聴器や人工内耳を外してプレーします。
  • 視覚的合図の活用: 審判はホイッスル(笛)を吹くだけでなく、黄色や赤のフラッグ(旗)を振ってプレーの停止やファウルを知らせます。
  • アイコンタクトとサイン: 声による指示出しが通じないため、首を振って視野を広く保つこと、視線(アイコンタクト)や身振り(ハンドサイン)で味方と意思疎通を図ることが求められます。

東京都立大学×ケイアイスター不動産「デフスポーツスクールキャラバン」の全貌

産学連携による「デフスポーツスクールキャラバン」開催概要

ケイアイスター不動産株式会社に所属する「ケイアイチャレンジドアスリートチーム」と、医療・保健・福祉の専門職を育成する「東京都立大学健康福祉学部」が連携し、都内の教育機関を対象とした「デフスポーツスクールキャラバン(デフスポーツ体験会)」が計5回にわたり開催されています。

項目内容
事業名称デフスポーツスクールキャラバン(全5回)
主催・連携ケイアイスター不動産株式会社(ケイアイチャレンジドアスリートチーム)× 東京都立大学健康福祉学部
対象都内の小学校、中学校、高等学校、大学キャンパス
実施期間2026年秋〜冬(10月〜12月)
主な講師山本 典城監督、岩渕 亜依選手 ほか(デフサッカー・デフフットサル日本代表選手・監督)
背景・目的聴覚障がい理解の促進、一人ひとりに合わせた伝え方の習得、冬季デフリンピック等に向けた普及

開催校と全5回の実施スケジュール

本キャラバンは、奥多摩町の中学校から渋谷区の小学校、都立高校、特別支援学校(立川学園)、大学キャンパスまで、幅広い年代と地域を巡回する計画となっています。

  1. 奥多摩町立奥多摩中学校(実施済)
  2. 渋谷区立神南小学校(実施済)
  3. 東京都立武蔵丘高等学校(2026年11月〜12月実施予定)
  4. 東京都立立川学園(2026年11月〜12月実施予定)
  5. 東京都立大学 南大沢キャンパス(2026年11月〜12月実施予定)

体験会プログラムの3つのステップ:視覚と体感で学ぶ障がい理解

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スクールキャラバンでは、対象の年齢や人数に合わせて最適化された3段階のステップ形式でプログラムが進行します。

【ステップ1:講話・オリエンテーション】
・デフリンピックの紹介
・日常の困りごとや周囲の工夫をクイズ形式で学習
       ▼
【ステップ2:コミュニケーション体験】
・ジェスチャーゲーム(声を出さずに伝える)
・選手から直接学ぶ簡単な日常・スポーツ手話
       ▼
【ステップ3:デフフットサル体験】
・補聴器を外した状態(視覚情報のみ)でのミニゲーム
・フラッグ判定やアイコンタクトによる連携の実践

ステップ1:講話・オリエンテーション(知る)

東京2025デフリンピックで銀メダルを獲得した女子サッカーチームの山本典城監督や選手らが登壇し、デフリンピックの歴史や聴覚障がいの特性について解説します。生活の中で直面する困りごとや、周囲にあって助かったサポート事例をクイズ形式で出題することで、児童・生徒が主体的に考える導入がなされます。

ステップ2:コミュニケーション体験(気づく)

声を使わずに「身振り手振り(ジェスチャー)」や「口の動き」だけで言葉を伝える伝言ゲームを実施します。普段いかに音声言語に依存しているかを体感したうえで、選手から日常会話やスポーツのピッチで使える簡単な手話を直接教わります。

ステップ3:デフフットサル体験(実践する)

参加者が実際に補聴器などを外した状態を想定し、視覚情報のみでプレーするミニゲームを行います。審判が笛だけでなくフラッグを振って合図を出す様子を確認しながら、声が出せない状況下で視線や手振りのサインを駆使してパスをつなぐ難しさと工夫を学びます。


なぜ企業と大学が連携するのか?共生社会(DE&I)に向けた背景

ケイアイスター不動産の取り組みとアスリート支援

ケイアイスター不動産株式会社は、「豊かで楽しく快適なくらしの創造をめざす、『豊・楽・快(ゆたか)』創造企業」を経営理念に掲げ、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)を推進しています。

2019年4月に発足した「ケイアイチャレンジドアスリートチーム」には、デフフットサル、デフサッカー、ろう者柔道などのトップアスリートが所属しており、社内研修の講師や商品開発、自治体・教育機関と連携した体験教室などを通じて、延べ5,000名以上にパラスポーツ体験を提供してきました。

東京都立大学健康福祉学部の教育・地域貢献の使命

東京都立大学健康福祉学部は、看護師、理学療法士、作業療法士、診療放射線技師などの医療・福祉専門職を育成する機関です。同学部では荒川キャンパスを中心に、ボッチャ、パラバドミントン、車いすポートボール、モルックの体験教室や、アスリートのインタビュー動画配信など、パラスポーツ・デフスポーツを通じた共生社会づくりの活動を精力的に行っています。

医療・福祉人材の育成を行う大学と、実践的なアスリートを抱える企業が協働することで、教育効果の高い出前授業が実現しています。


通常スポーツ・パラスポーツ・デフスポーツの比較表

各スポーツカテゴリーにおける対象者、ルール調整、審判合図の違いは下表のとおりです。

項目一般的なスポーツパラスポーツ(例:ブラインドサッカー等)デフスポーツ(例:デフフットサル)
主な対象者健常者肢体不自由、視覚障がい、知的障がい等聴覚障がい者(ろう者・難聴者)
補聴器具規定なし / 自由クラス分けによる原則禁止(補聴器・人工内耳を外す)
審判の主な合図ホイッスル(音)音声ガイド、コーラー、ホイッスルフラッグ(旗)+ホイッスル
チーム連携手段声による指示・コール声、音の出るボール、コーラーの指示アイコンタクト、ハンドサイン、手話
国際統括大会オリンピック 等パラリンピックデフリンピック

よくある質問(Q&A)

コラム

Q1. 手話がまったく分からない子どもや初心者でも参加できますか?

A. 問題なく参加できます。プログラム内ではジェスチャーや口の動きを用いたゲームからスタートし、簡単な手話表現を選手から直接レクチャーされるため、事前の知識がなくても楽しみながらコミュニケーション手法を身につけることが可能です。

Q2. デフフットサルで補聴器を外すのはなぜですか?

A. 聴覚障がいの度合いは個人によって異なり、補聴器による聞こえ方にも差があります。装具を外して全員が「音のない同一の条件下」でプレーすることにより、公平性を担保し、視覚情報のみで連携する工夫を引き出すためです。

Q3. 学校や企業で体験会を開催・取材したい場合の手続きは?

A. 今回のスクールキャラバンのように、主催企業の公式問い合わせ窓口や専用取材フォームを通じて申し込む形式が一般的です。教育機関向けの出前授業や企業向けDE&I研修として受け付けているケースが多く見られます。


まとめと共生社会へのアクション

東京都立大学とケイアイスター不動産による「デフスポーツスクールキャラバン」は、単なる競技の体験にとどまらず、「音が聞こえない状況でどのように意思を伝えるか」というコミュニケーションの本質を体感できる貴重な機会です。

相手の目を見て話す、表情や身振りを豊かにする、文字や手話を活用するなど、「一人ひとりに合わせた伝え方」の意識は、学校生活だけでなく、ビジネスシーンや日常の人間関係においても大きな学びとなります。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
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