2016年の津久井やまゆり園事件から10年という節目の年に、株式会社ヘラルボニーと音楽家の蓮沼執太氏が制作し配信を開始した楽曲「根っこを育てる」の背景や魅力を解説します。言葉による表現の有無にかかわらず、一人ひとりに宿る“心の声”に耳を澄ませる意義や、アート・音楽を通じた障害福祉の新しいアプローチを学ぶことで、共生社会の実現に向けた身近なヒントが得られます。


この記事で分かること

  • 楽曲「根っこを育てる」の背景: 津久井やまゆり園事件から10年を迎え、記憶の風化防止と差別を見つめ直す取り組みとして制作された背景。
  • “心の声”を描く音楽制作: 施設内でフィールドレコーディングされた日常の音や息づかいをもとに楽曲が紡がれた手法。
  • 障害福祉とアートの融合: ミナ ペルホネンの皆川明氏の言葉から引かれた歌詞や、入所者の造形作品を用いたアートワークの特徴。
  • 専門用語の解説: 「当事者目線の障害福祉」や「ともに生きる社会かながわ憲章」などの基本知識。
  • 読者向けQ&A: 楽曲の視聴方法や福祉における「心の声」を聴く意味についての疑問と回答。

楽曲「根っこを育てる」とは?津久井やまゆり園事件から10年の節目に生まれた理由

痛ましい事件の記憶と風化防止に向けた障害福祉の取り組み

2016年7月26日に神奈川県相模原市の県立障害者支援施設「津久井やまゆり園」で発生した事件から、10年という節目の年を迎えます。福祉とアートを軸に新たな文化創出を目指す株式会社ヘラルボニーは、事件の記憶を風化させず、社会に残る偏見や差別を見つめ直す機会として、神奈川県からの委託を受けて映像作品『ハートビート・ボイス 津久井やまゆり園事件から10年、心の声を聴く』を制作しました。

その映像の中で蓮沼執太氏とともに制作された楽曲が「根っこを育てる」であり、2026年10月7日より各種音楽配信サービスにて一般配信が開始されました。

▶︎購入・配信詳細はこちら:https://virginmusic.lnk.to/NurturingRoots  

施設内の“日常の音”や呼吸を“心の声”として捉える試み

「根っこを育てる」は、単なるメッセージソングにとどまらず、津久井やまゆり園の園内で実際にレコーディングされた呼吸音、足音、生活音、気配といった“日常の音”を起点として制作されています。言葉を発することが難しい当事者であっても、一人ひとりに宿る鼓動や息づかいを“心の声”として捉え直すことで、命の尊厳や「生きること」の意味を聴き手に問いかけています。

【専門用語解説:津久井やまゆり園事件】 津久井やまゆり園事件とは、2016年7月に神奈川県相模原市の障害者支援施設で発生した殺傷事件です。障害者に対する強い偏見や差別意識に基づく痛ましい事件として社会に大きな衝撃を与えました。事件後、福祉の現場や行政では、障害者の命の尊厳を守り、差別のない共生社会を築くための議論や取り組みが継続して行われています。


ヘラルボニーと蓮沼執太氏が推進する障害福祉とアートの新しいアプローチ

ギャラクシー賞を受賞した映像作品『ハートビート・ボイス』と連携

本楽曲の母体となった映像作品『ハートビート・ボイス 津久井やまゆり園事件から10年、心の声を聴く』は、神奈川県が推進する「ともに生きる社会かながわ憲章」および「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例」の理念に基づく啓発活動として制作されました。

この映像作品は高い評価を受け、2026年7月度の「ギャラクシー賞月間賞」を受賞しています。ヘラルボニーのクリエイティブディレクターであり監督を務めた桑山知之氏は、言葉になる前の気配や仕草の中にその人だけの声が確実にあることを伝えています。

ミナ ペルホネン皆川明氏の言葉と入所者・榎本浩二氏のアートワーク

楽曲「根っこを育てる」の歌詞は、ブランド「ミナ ペルホネン」の創業者である皆川明氏のことば「レター」から引用され、音楽家・蓮沼執太氏によって加筆・構成されました。表からは見えにくい「根っこ」を深く長く広げることで、いつか周りの土地や生き物を豊かにしていくというテーマが込められています。

また、楽曲のアートワークには津久井やまゆり園の入所者である榎本浩二氏の造形作品が採用されています。榎本氏が日々の作業でアルミホイルを切っては貼る行為を静かに何度も重ねて生まれた塊は、日々を丁寧に重ねる時間そのものを象徴しており、前田晃伸氏のアートディレクションのもと視覚的にも重厚な世界観を表現しています。

【専門用語解説:ヘラルボニーと当事者目線の障害福祉】

  • 株式会社ヘラルボニー: 「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、障害のある作家が描くアート作品をライセンス管理し、正当なロイヤリティを還元するビジネスモデルを展開するクリエイティブカンパニーです。障害を「欠落」ではなく「異彩」として捉え直す社会を目指しています。
  • 当事者目線の障害福祉: 支援を提供する側の都合ではなく、障害のある本人の意向や感覚、意思決定を最優先に尊重する福祉の考え方です。神奈川県では「当事者目線の障害福祉推進条例」を制定し、環境整備や意識啓発を推進しています。

Q&A

Q1: 楽曲「根っこを育てる」はどのようにして聴くことができますか?

A1: 2026年10月7日より、各種音楽配信サービス(Apple Music、Spotify、YouTube Music等)にてデジタルリリースされており、スマートフォンやパソコンからストリーミング再生や購入が可能です。

▶︎購入・配信詳細はこちら:https://virginmusic.lnk.to/NurturingRoots  

Q2: 楽曲制作の背景にある「ともに生きる社会かながわ憲章」とはどのようなものですか?

A2: 津久井やまゆり園事件を受けて、神奈川県が二度とこのような悲惨な事件を起こさないという強い決意のもと制定した憲章です。障害の有無にかかわらず、誰もが人として尊重され、ともに生きる社会を目指す理念が定められています。

Q3: 障害福祉における「心の声」を聴くとは、具体的にどのような姿勢を指しますか?

A3: 音楽家の蓮沼執太氏や監督の桑山知之氏が語るように、言葉による発語だけでなく、呼吸や足音、ふとした気配や仕草など、その人が発している微細なサインに意識を向けようとする姿勢を指します。特別な対話だけでなく、日常の中で互いの存在を感じ取り耳を澄ませることが重要とされています。


まとめ:一人ひとりの“心の声”に耳を澄ませ、持続可能な共生社会へ

本記事では、津久井やまゆり園の入所者の“心の声”を描いた楽曲「根っこを育てる」の配信開始と、その背景にある障害福祉の取り組みについて解説しました。

痛ましい事件から10年が経過する中で、ヘラルボニーや蓮沼執太氏によるアート・音楽を通じたアプローチは、私たちが普段見落としがちな存在や感覚に改めて目を向けるきっかけを与えてくれます。表からは見えにくい「根っこ」を育てるように、一人ひとりの個性や存在に耳を澄ませる姿勢を持つことが、真の共生社会を実現するための第一歩となるのではないでしょうか。障害福祉について考えるきっかけとして、ぜひ楽曲や映像作品に触れてみてください。


Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
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