発達・知的障害のある子どもと家庭の「住まいの危険」とは?

発達障害や知的障害のあるお子さんは、その特性ゆえに一般的な子どもとは異なる行動をとることがあります。これにより、家庭内で思わぬ危険が生じるケースが少なくありません。具体的な事例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • マンション高層階のベランダ柵を乗り越えようとする

  • 電子レンジに不適切な物を入れ、加熱して火災につながる

  • トイレットペーパーを大量に流し、詰まりを繰り返す

  • 高所に設置されたテレビに触るため、滑り台などを運んで登ろうとする

  • 冷蔵庫の中身を勝手に食べたり、調味料を飲んでしまったりする

ベランダの手すりに座る女の子のイラスト

電子レンジにパンとドーナツ

滑り台を使ってテレビを見る子ども

便器に詰め込まれたトイレットペーパー

これらの出来事は、決して特別なケースではなく、多くのご家庭で実際に起きている深刻な課題です。ご家族は常に目を離せない緊張感の中で生活を送り、精神的に追い詰められることも少なくありません。一般的な子育て情報だけでは解決が難しい、個別性の高い問題として認識されています。

NPO法人ぴあっとが始動!『発達っ子の住まいプロジェクト』の全貌

『発達っ子の住まいプロジェクト』は、このような家庭内の課題を解決し、発達・知的障害のあるお子さんとそのご家族が安心して暮らせる住環境を築くことを目的としています。

NPO法人ぴあっとのスタッフと展示品

なぜこのプロジェクトが必要なのか?発達・知的障害児の住環境課題

住まいに関する課題は、お子さん一人ひとりの特性や生活環境によって大きく異なります。そのため、一般的な情報では対応しきれないケースが多く、ご家庭内での試行錯誤が繰り返されています。また、家の中で起こる出来事ゆえに情報が共有されにくく、住まいに関する具体的な相談先も限られているのが現状です。

しかし、多くのご家族はDIYや身近な材料の活用、家具配置の変更、視覚支援の導入など、様々な工夫を凝らして対策を行っています。このプロジェクトでは、危険や困りごとだけでなく、こうしたご家族の「実践知」にも着目し、その知見を整理・蓄積することを目指します。

室内で視覚スケジュールボードを見る女性たち

窓のカーテンを調整する女性

プロジェクトの具体的な取り組み内容と今後の展望

『発達っ子の住まいプロジェクト』では、以下の具体的な取り組みを進めています。

  • 家庭20件・放課後等デイサービス2件への住まいヒアリング: 実際の困りごとや工夫事例を収集します。

  • 危険や困りごと、工夫事例の整理: 収集した情報を分析し、体系化します。

  • 建築士や工務店との情報交換会開催: 専門家との連携を深め、実践的な解決策を検討します。

  • 住まいの工夫講座・カーム(発達障害・知的障害がある人の住まいの工夫展示コーナー)見学会の開催: 家族や支援者へ情報提供と学習の機会を設けます。

  • 住まいの安全対策モデル展示の整備: 具体的な対策例を視覚的に提示します。

会議中の女性たち

オフィスで会議するビジネスパーソン

セミナーでプロジェクターを使う講師

子供が遊ぶ部屋とデジタルロック付きのドア

今年度はこれらの活動を通じて住まい支援の基盤を構築し、2027年度以降の情報発信や相談支援へとつなげていく予定です。この取り組みは、「環境を工夫して育ちを待つ」という考え方を大切にし、お子さんの行動をすぐに変えるのではなく、環境を整えることで危険や困りごとを減らし、ご家族が安心して見守れる住環境づくりを目指します。

家族と専門家が連携!「環境を工夫して育ちを待つ」支援の輪

NPO法人ぴあっとは、これまでもご家族へのヒアリングやお話会を通じて住まいに関する困りごとの情報収集を行ってきました。さらに、「発達障害・知的障害のある子の住まいの工夫講座」を開催し、ご家族の実践事例や建築士による専門的な住環境整備について学ぶ機会を提供しています。これらの活動は地域内外から大きな関心を集め、メディアでも紹介されるなど、その重要性が認識されています。

専門家・協力団体との連携で実現する多角的な支援

本プロジェクトでは、ご家族だけでは解決が難しい住まいの課題に対し、多様な専門家や団体と連携し、多角的な視点から支援を進めています。

  • 横浜市総合リハビリテーションセンター 研究開発課 西村顕氏

  • NPO法人ケアリフォームシステム研究会

  • 一般社団法人はじめのいーっぽ

  • 相模原市内の放課後等デイサービス事業所

これらの専門家や協力団体との連携により、ご家族の経験と専門的な知見が結びつき、より実践的な住まい支援のあり方が検討されています。

NPO法人ぴあっとの活動と代表の想い

NPO法人ぴあっとは、「こどもの発達のみかたをふやす」をモットーに、発達にゆっくりさや凸凹があるお子さんとそのご家族が地域で安心して暮らせる社会の実現を目指し、2023年4月に相模原市で活動を開始しました。発達障害や知的障害のある子どものご家族、支援者、専門家などが立場や所属の垣根を越えてつながり、子どもたちを通して地域全体で支え合うことを目指しています。

NPO法人ぴあっとのロゴ

NPO法人ぴあっとのウェブサイトはこちらです: https://npo-piatto.jp/

主な活動内容は以下の通りです。

  • ご家族向けのお話会・講座の開催

  • 相模原×こどもの発達支援の情報サイト「みかた」の運営

  • 発達特性の理解促進のためのオリジナル出前授業を小中学校へ実施

  • アンケートの実施や現場の声を行政や関連機関に届けるアドボカシー活動

これらの多岐にわたる取り組みは、「さがみはらSDGsアワード2024 審査員特別賞」を受賞するなど高く評価されており、様々なメディアでも紹介されています。

代表理事 五十嵐舞子氏のプロジェクトに込めた想い

代表理事の五十嵐舞子氏は、ご自身も最重度の知的障害と自閉スペクトラム症のある息子さんを育てる中で、家庭内の様々な危険や困りごとを経験し、試行錯誤を重ねてきたといいます。常に目を離せない緊張感の中で過ごし、精神的に追い詰められることもあったそうです。

五十嵐氏は、「子どもの行動そのものをすぐに変えることは難しくても、住環境を工夫することで危険が減ったり、困りごとが解消されたりすることがあります。私自身も、環境整備によって家族が安心して過ごせる時間が増え、その重要性を実感してきました」と語ります。しかし、住まいの工夫や対策は家庭の中に留まりやすく、同じ悩みを抱えるご家族へ届きにくい現状があることを課題視しています。

このプロジェクトは、各家庭が積み重ねてきた工夫や知恵を収集・整理し、必要としているご家族や支援者へ届けられる仕組みづくりを目指しています。そして、「環境を工夫して育ちを待つ」という考え方が広がり、お子さんもご家族も安心して暮らせる住環境づくりにつながることを願っています。

まとめ:発達・知的障害児の安心な住環境は社会全体で築く

NPO法人ぴあっとが立ち上げた『発達っ子の住まいプロジェクト』は、発達・知的障害のあるお子さんとそのご家族が直面する住環境の課題に対し、具体的な解決策と支援の輪を広げる画期的な取り組みです。家庭内の危険を可視化し、ご家族の実践的な工夫を共有することで、孤立しがちなご家庭に寄り添い、安心できる暮らしをサポートします。

このプロジェクトを通じて、ご家族の知恵と専門家の知見が結びつき、「環境を工夫して育ちを待つ」という温かい視点が社会全体に広がることで、すべての子どもたちが安全で豊かな環境で成長できる未来がきっと訪れるでしょう。発達・知的障害児の住環境に関する課題は、個々の家庭の問題ではなく、社会全体で支え、解決していくべき重要なテーマです。今後のプロジェクトの発展と、そこから生まれる新たな支援の形に期待が高まります。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77