この記事で分かること
- 発達障害やDCD(発達性協調運動障害)のある子どもに必要な感覚統合・運動支援の基礎知識
- 小規模な児童発達支援施設や保育現場が直面する「運動スペース・設備」の課題と解決策
- ジャクエツの「Be You プログラム & Be You KITTO」の特長・アタッチメントの仕組み・効果
- 2026年度グッドデザイン賞審査委員による評価ポイントと実際の現場導入事例
- 従来の大型療育遊具と自立式室内遊具の比較表および導入選定基準
児童発達支援・保育現場における「運動環境の確保」という悩み
児童発達支援事業所や保育所などの現場において、「子どもたちの身体の使い方や協調運動のサポートをしたいが、施設が狭くて大型の療育器具が置けない」「天井や壁の補強工事ができないため、ハンモックやブランコなどの『揺れ』を伴う遊具が導入できない」といった悩みを抱える事業者は少なくありません。
特に、手足を滑らかに動かすことが難しい発達性協調運動障害(DCD)や、感覚処理の偏りを持つ子どもに対しては、強迫的な「訓練」ではなく、自発的な「遊び」の中で感覚を統合していく環境が求められます。
本記事では、早稲田大学の広瀬統一教授らの監修のもと開発され、2026年度グッドデザイン賞を受賞した株式会社ジャクエツの室内遊具プロジェクト「Be You プログラム & Be You KITTO」を取り上げます。小規模施設でも導入可能な自立式遊具の構造や、子どもたちの「できる」を広げる運動アプローチについて解説します。
発達障がい児の運動支援と「室内遊具」の重要性
発達性協調運動障害(DCD)と感覚統合(前庭覚・固有覚)の基礎知識
発達障がいのある子どもたちの中には、筋力自体に大きな問題がなくても、「手足を思い通りに動かす」「バランスを保つ」といった複雑な動作が困難な「発達性協調運動障害(DCD:Developmental Coordination Disorder)」を併発する事例が多く見られます。DCDのある子どもは、日常の動作や運動において失敗体験を重ねやすく、「自分だけがうまくできない」という思いから自己肯定感が低下しやすい傾向にあります。
このような運動の不器用さやバランス感覚の偏りを改善するために重要な概念が「感覚統合」です。人間の脳は、五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)に加えて、以下の2つの特別な感覚を統合することで、スムーズな身体のコントロールを行っています。
- 前庭覚(ぜんていかく):耳の奥にある三半規管などで感じ取る「揺れ」「傾き」「スピード」「重力」の感覚。身体のバランス(平衡感覚)を整えたり、目線を安定させたりする働きを担います。
- 固有覚(こゆうかく):関節や筋肉で感じ取る「力加減」「手足の位置や関節の曲がり具合」の感覚。自分の身体がどのように動いているかを脳で把握し、動作の力加減を調整する働きを担います。
運動発達の土台を作るためには、これらの感覚を全身運動を通じて刺激することが不可欠とされています。
小規模な児童発達支援施設が抱える「運動スペースと遊具」の課題
近年増加している児童発達支援施設の多くは、テナントビルの一室や空き教室を活用した小規模な施設です。そのため、以下のような設備上の課題が存在していました。
- 建築工事・改修工事の制限:吊り下げ式のスイング(ブランコ)やハンモックなど、「揺れ」を提供する器具の多くは、天井や壁への補強工事が必要となりますが、賃貸テナントでは施工できないケースが多発していました。
- スペースの制約:従来の大型療育器具は場所を固定して占有するため、限られた部屋の広さを圧迫し、他の活動に支障をきたします。
- プログラムの固定化と「やらされ感」:決められた訓練プログラムは個人差への柔軟な対応が難しく、子どもにとって「指導・訓練」の側面が強くなり、運動そのものを楽しめなくなるリスクがありました。
ジャクエツ「Be You プログラム & Be You KITTO」の全貌と特長

早稲田大学・広瀬統一教授監修の運動プログラム「Be You プログラム」とは
これらの課題に対し、株式会社ジャクエツ(本社:福井県敦賀市、代表取締役社長:徳本達郎)が展開するのが「あそびで育む、日常の『できる』を広げる室内遊具プロジェクト」です。
本プロジェクトの起点となった「Be You プログラム」は、知的・発達障がいのある子どもへの運動指導を契機に開発されました。早稲田大学スポーツ科学術院教授であり、元なでしこジャパンのフィジカルコーチを務めた広瀬統一(ひろせ のりかず)教授と、一般社団法人日本デフビーチバレーボール協会が共同で開発を担当しました。
「Be You プログラム」は、日常動作とコーディネーション運動(視覚と手足を協調させて動かす運動)を組み合わされたプログラムであり、遊びを通して子ども一人ひとりの発達段階に応じた運動を促すことを目指しています。
工事不要・省スペース対応の室内遊具「Be You KITTO」の基本構造とアタッチメント
「Be You プログラム」の実践において、特に療育で重要とされる「揺れ」の動きを狭い室内で提供するために開発された屋内遊具が「Be You KITTO(ビーユー キット)」です。
名称には、「子ども環境を整えるスターターキット」という意味と、「KITTO(きっと)Be You(あなたらしくなる)」という想いが込められています。
製品仕様概要
- 本体サイズ:全長2.2m × 幅1.3m × 高さ1.5m(参考値)
- 材質:本体(鉄・焼付塗装)、スイング(ゴム集成材・生地材)、安全マット(ターポリン・発泡ウレタン等)、ネット(エステルUCネット)、金具(ステンレス)、テント(カーテン生地)
- 施工要件:建築工事不要(自立式構造)
「揺れる・傾く・バランスをとる」を実現する3つの機能と動きの変化
「Be You KITTO」は、基本フレームに対してアタッチメント(ネット、スイング、カバー、ハンモック、テントなど)を付け替える設計が採用されています。これにより、単一の遊具でありながら以下の重要な感覚運動を一台でカバーできます。
「Be You KITTO」で提供できる3つの主要な動き
- 揺れる:スイングやハンモックを装着し、前庭覚を効果的に刺激する動き。
- 傾く:身体の軸を傾け、斜面や不安定な足場を保持する動き。
- バランスをとる:不規則な動きに対して姿勢を維持し、固有覚と体幹を鍛える動き。
さらに、アタッチメントの切り替えにより、「登る」「這う」「渡る」「くぐる」といった多種多様な全身運動を同一スペース内で実現できます。工事が不要な自立式フレームであり、保育者や職員の手で組み立てや片付け、レイアウト変更が容易に行える点も大きな特徴です。
2026年度グッドデザイン賞受賞理由と現場での効果・導入事例
審査委員が評価した「遊びによる心理的ハードル解消」と自立型設計
「Be You プログラム & Be You KITTO」は、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する2026年度グッドデザイン賞を受賞しました。
審査委員会からは、主に以下のポイントが非常に高く評価されています。
- 「やらされている感」の排除:療育を訓練として押し付けるのではなく、「遊び」を軸として楽しさの中から自然な運動を促す動線が設計されている点。
- 小規模施設への高い展開性:近年の児童発達支援施設が空き教室やテナントを活用している実情に着目し、工事不要かつ自立式サイズに収めたことで、他施設への導入・横展開を容易にした点。
- インクルーシブな環境づくり:多様な動きを受け止める構造により、発達支援が必要な子どもだけでなく、すべての子どもが同じ場で共に遊べる環境(インクルーシブ教育・保育)の補助となり得る点。
児童発達支援施設および一般保育園における実際の活用成果
実際の現場導入においては、子どもたちの運動能力や行動面において明確な変化が報告されています。
主な導入成果例
- 運動能力の向上・成功体験:これまで寝返りを打つことができなかった子どもができるようになった事例や、揺れに対する恐怖心が強かった子どもが不安定なスイングの上で立ち上がり、歩行できるようになるなどの改善が見られました。
- 成功体験による自己肯定感の獲得:「できた!」という実感を得ることで、子どもの自信や主体性が育まれています。
- 一般保育園への普及:児童発達支援などの専門施設にとどまらず、一般の保育園・幼稚園における室内運動器具としても活用が進んでおり、専門的な感覚統合的アプローチが日常的な保育環境へと広がっています。
室内療育遊具の比較と選定ポイント
従来の大型固定遊具 vs 自立式室内遊具(Be You KITTO等)の機能比較
施設への遊具導入を検討するにあたり、従来型の療育遊具・固定型遊具と、自立式室内遊具(Be You KITTO)の違いを整理することが重要です。
児童発達支援事業所・保育施設が室内遊具を選ぶ際の4つの基準
室内運動器具や療育遊具を選定する際は、以下の4つの要素を満たしているか確認することが推奨されます。
- 施工要件(賃貸・テナントでの設置可否):天井補強や床工事が必要か、撤去が容易な自立式構造か。
- 多機能性と可変性:限られた面積の中で、アタッチメント変更等により複数の運動機能(前庭覚・固有覚への刺激)を提供できるか。
- 安全面と管理のしやすさ:現場の職員・保育者が工具なし、あるいは短時間で安全に付け替え・収納ができるか。
- 心理的ハードルの低さ(デザイン性):子どもが威圧感や「訓練感」を抱かず、自発的に遊んでみたいと思えるデザイン・質感であるか。
Q&A(よくある質問)

Q1. 発達性協調運動障害(DCD)の子どもにとって、なぜ「揺れ」の運動が効果的なのですか?
A. 「揺れ」の刺激は、耳の奥にある前庭器を通じて「前庭覚」に働きかけます。前庭覚が刺激されることで、脳は自分の身体の傾きや速度を正しく認識できるようになり、姿勢の保持や平衡感覚、目線と手足の協調動作の改善につながるためです。
Q2. 「Be You KITTO」は設置に工事が必要ですか?賃貸テナントでも置けますか?
A. 建築側や設備側の工事は一切不要の自立式構造となっています。そのため、天井補強ができない賃貸テナントビルや空き教室などの小規模施設であっても問題なく導入可能です。
Q3. 保育士や指導員だけでアタッチメントの付け替えや片付けは可能ですか?
A. はい、可能です。専門の業者を呼ぶ必要はなく、基本フレームに対して現場の保育者・スタッフのみでネットやスイング、カバーなどの付け替えや片付けができる設計となっています。
Q4. 障害のある子ども専門の遊具ですか?一般的な保育園でも使えますか?
A. 療育専門施設だけでなく、一般の保育園やこども園でも広く活用されています。すべての子どもの運動発達を促す設計となっているため、障害の有無に関わらず同じ場で一緒に遊べるインクルーシブな環境整備にも適しています。
比較表:従来型療育器具と自立式室内遊具(Be You KITTO)の仕様比較
| 比較項目 | 従来型の大型固定療育器具 | 自立式室内遊具(Be You KITTO) |
|---|---|---|
| 設置方法 | 天井・壁の補強工事、床の固定工事が必要な場合が多い | アンカー不要・天井工事不要の自立式構造 |
| 適応スペース | 大型専用プレイルームなど広いスペースが必要 | 小規模施設・テナント・空き教室(約2.2m×1.3m)に対応 |
| 提供できる動き | 固定された単一の動き(吊り下げブランコ単体等) | アタッチメント切替で「揺れる・傾く・バランスをとる・登る・這う」等多様 |
| 設置・転用性 | 容易に移動・撤去・レイアウト変更ができない | 現場スタッフのみで組立・片付け・付け替えが可能 |
| 子どもの心理 | 「訓練」「指導」としてやらされ感が出やすい | 「遊び」の中で主体的に挑戦でき、自己肯定感を育める |
| 適用範囲 | 療育専門施設が中心 | 児童発達支援施設から一般保育園まで幅広く対応(インクルーシブ) |
まとめ:日常の「あそび」を通じて子どもたちの可能性を広げるために

児童発達支援や保育の現場において、子どもたちの発達をサポートする環境づくりは非常に重要な課題です。
株式会社ジャクエツの「Be You プログラム & Be You KITTO」は、従来の「大型・固定式・工事必須」という療育器具の常識を覆し、小規模な施設でも日常の「遊び」の中に本格的な感覚統合アプローチを取り入れることを可能にしました。
子どもたちが「訓練」としてではなく、楽しさから主発的に遊ぶ中で、「できた!」という成功体験を重ねていく環境の構築は、運動能力の向上のみならず、将来にわたる自己肯定感の獲得にも寄与します。施設の省スペース化や安全な室内運動環境の導入を検討している事業者にとって、非常に有効な選択肢の一つとなります。
- 開発・販売元:株式会社ジャクエツ(東京都港区高輪4-24-50 / 福井県敦賀市)
- 受賞歴:2026年度グッドデザイン賞
- プログラム監修:広瀬統一(早稲田大学スポーツ科学術院教授) / 一般社団法人日本デフビーチバレーボール協会

