医療的ケア児家庭の新たな光:長野県で実現した長時間介護の「ハイブリッド利用」

医療的ケアを必要とする子どもたちとその家族が直面する課題は少なくありません。特に、24時間365日の介護が必要となる場合、保護者は慢性的な負担や睡眠不足、きょうだい児への影響、そして「18歳の壁」といった問題に直面することがあります。

このような状況の中、長野県において、医療的ケア児への「居宅介護の長時間提供」が初めて実現しました。さらに、「移動支援(地域生活支援事業)」を組み合わせた「ハイブリッド利用」により、家族の一日をサポートする支援が開始されたのです。

医療的ケア児家庭が直面する「18歳の壁」と介護の現状

全国には2万人以上、長野県内には約600人の医療的ケア児がいると推定されています。彼らは人工呼吸器や胃ろう、たんの吸引など、日常的に医療的サポートが不可欠です。しかし、現状の障害福祉サービスでは、8時間以上の見守り介護が可能な重度訪問介護サービスが18歳未満の重度障害児には原則利用できないという「18歳の壁」が存在します。そのため、医療的ケア児が利用できるサービスは、居宅介護や訪問看護といった短時間のサービスが中心となっていました。

この制度の狭間にある課題に対し、ユースタイルラボラトリー株式会社は2017年より、年齢を問わず「長時間介護」の提供を推進してきました。2026年5月時点で、18歳未満の重度障害児への6時間以上の長時間介護の実績は全国で計63件に達しており、特に近年その事例が急増しています。これは、医療的ケア児家庭の長時間支援に対するニーズがいかに高いかを物語っています。

18歳未満重度障害児向け『6時間以上』長時間介護提供実績 全国 63 件を達成! そのうち医療的ケアの必要なお子さん 48 名 対象 18歳未満の重度障害児 13トリソミー 先天性心疾患 脳性麻痺 筋ジストロフィー アンジェルマン症候群 自閉スペクトラム症 知的障害 水頭症 重症心身障害 非ケトーシス型高グリシン血症 ウエスト症候群 18トリソミー 新生児低酸素性虚血性脳症 ファロー四徴症 ミトコンドリア病・リー症候群 てんかん 骨髄小脳変性症

長野県初の「ハイブリッド利用」による家族支援の具体例

今回の長野県での事例は、進行性の希少疾患であるアレキサンダー病を患う9歳の女児Sさんが対象です。Sさんは経鼻経管栄養や痰の吸引など、日常的な医療的ケアを必要としています。お父様の夜勤もあり、お母様が一人でケアを担う中で、弟さんの小学校入学というライフイベントが重なりました。

弟さんはバスケットボールクラブへの入部を楽しみにしていましたが、お母様はSさんを一人家に残すことや、一緒に連れて行くことの難しさから、「子どもたち二人に公平に関わってあげたい」という深い悩みを抱えていました。

この切実な思いに応えるため、ユースタイルケア長野重度訪問介護事業所は、相談支援専門員と連携し、Sさんが利用できる「居宅介護の長時間利用」と「移動支援」を組み合わせることを提案しました。具体的には、土曜日の午前中に「居宅介護」による長時間の在宅支援を4時間、午後に「移動支援(地域生活支援事業)」による外出同行を3時間提供するという内容です。これにより、お母様は息子さんのクラブ活動を応援し、Sさんも家族と共に外出する時間を過ごせるようになりました。

家族からの喜びの声と支援者の思い

Sさんのお母様は、この支援によって「今までは娘の体をサポートしながら息子と遊んでいましたが、ユースタイルのスタッフさんが娘の体をサポートすることで、私と息子、そして娘の三人で遊ぶ事が出来るようになりました。また、スタッフさんが車椅子を押してくれる事で、私は息子と一緒に歩いたり手を繋ぐことができるようになりました。今まで出来なかったことが出来るようになりました」と、喜びを語っています。

ユースタイルケア重度訪問介護のサービスマネージャーである小松大和氏も、「Sさんは、スタッフと一緒に折り紙や散歩をする時間を『楽しい』と話して下さっています。これからも私たちは支援を通してSさんや弟さんがご家族からの愛情を十分に受けながら、安心して成長していけるよう、寄り添ってまいりたいと思います」とコメントしています。また、地方都市で前例がないとされてきた長時間利用が、自治体の柔軟な対応と相談支援専門員の熱意によって実現したことへの感謝と、この事例を他の地域にも広げていきたいという意欲を示しました。

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全国に広がる長時間介護の実績と制度活用の動き

2021年6月に成立した医療的ケア児支援法は、医療的ケア児・者に対する支援強化を目的としています。現在、超党派の議員連盟が、2027年度の本改正施行に向けた議論を本格化させており、その大きな焦点の一つが「18歳の壁」の解消です。しかし、法改正を待つ間にも、現場のご家族は限界を迎えているのが現状です。

このような背景から、ユースタイルラボラトリーは、「重度訪問介護が使えないのなら、18歳未満も利用できる通常短時間を想定した障害福祉サービスである『居宅介護』で、医療的ケア児ご家庭への長時間支援を可能にできないか」という視点から、2017年から居宅介護の長時間利用実績を積み重ねてきました。現在、こうした事例を含め、18歳未満の重度障害児の長時間介護利用実績は全国で63例となり、多くの重度障害児家庭の選択肢が広がっています。

東京都における先行事例と政策提言

全国介護事業者連盟 障害福祉事業部会 東京都支部などを通じて、医療的ケア児家庭支援が現行制度の活用でもっと具体的に推進できることを、東京都福祉局の皆さんと確認が進められてきました。その結果、2025年12月19日には、東京都から「居宅介護の長時間利用」を推進する画期的な通知「医療的ケア児に係る居宅介護の支給決定における勘案事項について」が都内各市区町村へ発出されました。

この通知により、保護者の就労や睡眠確保を目的とした「居宅介護の6時間を超える長時間支給」が、東京都において明確に認められることとなりました。今回の長野県の事例は、このような先行事例や政策提言が全国に波及し、具体的な支援として実現した一例と言えるでしょう。

まとめ:医療的ケア児支援の未来を拓く取り組み

今回の長野県での「居宅介護」と「移動支援」を組み合わせた長時間介護の実現は、医療的ケア児家庭の生活の質(QOL)向上に大きく貢献するだけでなく、全国の自治体や支援機関にとって、新たな支援モデルとなる可能性を秘めています。ユースタイルラボラトリー株式会社は、本事例のような「家族丸ごとの生活支援」を他の自治体へも広げていくとともに、潜在的な支援ニーズを抱えるご家庭への情報発信を強化していくとのことです。

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Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77