この記事で分かること

  • デフスポーツとデフリンピックの基礎知識:パラスポーツとの違いや聴覚障害者が活躍する競技の特徴が分かります。
  • 山本典城監督の表敬訪問と輝かしい実績:東京2025デフリンピック銀メダル獲得の報告と、出身地・奈良県への熱い想いが分かります。
  • 企業の障害福祉・障がい者支援の先進事例:ケイアイスター不動産によるアスリート支援や地域連携活動の取り組みが分かります。
  • 障害福祉への関心を高めるベネフィット:誰もが暮らしやすい共生社会の実現に向け、個人や企業ができる一歩が分かります。

障害福祉やパラスポーツという言葉を耳にする機会が増える一方で、「具体的にどのような競技があり、選手たちがどのような環境で活躍しているのか」について詳しく知る機会はまだ少ないかもしれません。

2026年10月5日、ケイアイスター不動産株式会社に所属する女子デフサッカーの山本典城(やまもと よしき)監督と藤井健太(ふじい けんた)コーチが、ゆかりの地である奈良県の山下真(やました まこと)知事を表敬訪問し、東京2025デフリンピックでの銀メダル獲得を報告されました。

この記事では、障害福祉分野に詳しい専門ライターの視点から、今回の表敬訪問のニュースをわかりやすく紐解くとともに、デフスポーツの基礎知識や企業による障がい者支援の取り組みについて解説します。読み終えることで、デフスポーツの魅力や障害福祉への理解が深まり、一人ひとりが共生社会の実現に向けて考え、行動するためのヒントを得ることができます。


障がい福祉とパラスポーツの今|デフスポーツが注目される理由

デフリンピックとパラスポーツの基礎知識

障害福祉やパラスポーツの分野では、対象となる障がいの種別や程度に応じたさまざまな国際大会が存在します。その中でも「デフスポーツ」および「デフリンピック」は、聴覚障害者を対象とした重要なスポーツイベントです。

  • デフスポーツ(Deaf Sports):「デフ(Deaf)」とは英語で「耳が聞こえない・聞こえにくい」という意味を持ちます。デフスポーツは、補聴器や人工内耳を外し、完全な「音のない世界」で行われるスポーツの総称です。
  • デフリンピック(Deaflympics):4年に1度開催される、国際的な聴覚障害者のための総合スポーツ競技大会です。1924年にフランスで第1回大会が開催され、パラリンピックよりも長い歴史を持っています。

パラリンピックでは競技中に補聴器等の使用が認められる場合や、視覚・肢体不自由など多岐にわたる障害が対象となりますが、デフリンピックは参加資格として「音の聞き取りやすさ(聴力レベル)」に関する規定があり、選手全員が音に頼らない条件で競い合います。

聴覚障害者がプレーする「デフサッカー」「デフフットサル」とは?

デフサッカーやデフフットサルは、聴覚障害のある選手たちがプレーする競技です。基本的なルールは一般のサッカーやフットサルとほぼ同様ですが、以下のような独特の特徴があります。

  1. 音によるコミュニケーションができない:審判のホイッスル(笛)や仲間の声が聞こえないため、主審は笛と同時に「フラッグ(旗)」を振って反則やプレーの停止を知らせます。
  2. 視覚情報の活用:選手たちはアイコンタクトや手話、素早い視力移動(周辺視野)を駆使してピッチ上の状況を把握し、連携を図ります。
  3. 完全なイコールコンディション:試合中は補聴器などの装着が禁止されており、音のない環境で純粋な技術と戦術を競い合います。

音のない中で繰り広げられるスピーディーなパス回しや激しい攻防は、観客に大きな感動と驚きを与えてくれます。


ケイアイスター不動産の山本典城監督が奈良県知事を表敬訪問|東京2025デフリンピック銀メダル獲得を報告

東京2025デフリンピックでの快挙と世界大会での輝かしい実績

埼玉県本庄市に本社を置くケイアイスター不動産株式会社の「ケイアイチャレンジドアスリートチーム」に所属する山本典城監督(天理市出身)と藤井健太コーチ(奈良市出身)は、2026年10月5日に奈良県の山下真知事を表敬訪問されました。

訪問時には、東京2025デフリンピックでの振り返りや銀メダル獲得(準優勝)に至るまでのエピソードが報告されるとともに、大会期間中に奈良県から寄せられた温かい応援に対する感謝の言葉が述べられました。これに対し山下知事からは、世界大会での成果に対する祝福と労いの言葉が贈られました。

山本監督はデフサッカー女子監督とデフフットサル女子監督を兼任されており、これまでに以下のような国際大会での素晴らしい実績を残されています。

  • 2023年 第5回女子デフフットサル世界大会(ブラジル):初優勝(最優秀監督賞受賞)
  • 2024年 第20回冬季デフリンピック競技大会(トルコ):5位
  • 2025年 第6回女子デフフットサル世界大会(イタリア):7位
  • 2025年 第25回夏季デフリンピック競技大会(東京):準優勝(銀メダル獲得)

長年にわたり日本のデフフットサル・デフサッカー界を牽引し、世界トップレベルのチームへと育て上げてきた指導力がうかがえます。

出身地・奈良県への想いと「ろう学校」の子どもたちへ届ける夢

表敬訪問の際、山本監督は地元・奈良県への想いと障害福祉・教育への熱いメッセージを寄せています。

「昨年行われた東京2025デフリンピックでの銀メダル獲得のご報告を兼ねて出身地である奈良県の山下知事を表敬訪問させていただきました。このような形で生まれ育った奈良に帰れることを嬉しく思います。奈良県にもろう学校があります。私たちの活動をより多くの方に知ってもらい一人でも多くの聞こえない、聞こえにくい子供たちがスポーツを通して夢や目標を持てる環境により近づいてほしいと思います。引き続き奈良県のスポーツ振興にも貢献していけるよう頑張りたいと思います。」(山本監督コメントより引用)

「ろう学校」とは、聴覚に障がいのある幼児・児童・生徒が通う特別支援学校のことです。山本監督の言葉からは、単に競技で結果を出すだけでなく、スポーツを通じて障がいのある子どもたちに将来の夢や目標を与えたいという強い願いが伝わってきます。


企業による障害福祉支援と障がい者雇用の先進事例|ケイアイチャレンジドアスリートチーム

「日本一挑戦するアスリートチーム」の理念とデュアルキャリア推進

障がい者アスリートが競技を継続し、引退後も社会的・経済的に自立していくためには、企業の理解と支援が欠かせません。

ケイアイスター不動産株式会社は、「日本一挑戦するアスリートチーム」を理念に掲げ、2019年4月に「ケイアイチャレンジドアスリートチーム」を発足させました。現在は6名の選手・監督が所属しており、「デフフットサル」「デフサッカー」「ろう者柔道」の各競技で世界を目指して挑戦を続けています。

同社では、選手たちがトップアスリートとして高いレベルのトレーニングと競技生活を送りながら、以下のような社内業務や社会貢献活動に携わる「デュアルキャリア」の仕組みを整えています。

  • 社内研修の講師:社員に向けて障害理解や共生社会の意義を伝える。
  • 商品開発への参画:当事者の視点を生かした住まいづくりやサービス向上に貢献する。
  • 障がい者雇用の促進:障がい者が能力を発揮できる環境を整備する。

このように、単なる資金支援にとどまらず、企業の本業や組織づくりにアスリートが参画する取り組みは、障害福祉やCSR(企業の社会的責任)の観点からも先進的なモデルケースとして注目されています。

5,000人以上が体験したパラスポーツ啓もう活動と地域社会との連携

ケイアイチャレンジドアスリートチームは、競技活動と並行して、パラスポーツの認知向上と普及を目指した啓もう活動に力を入れています。

埼玉県本庄市を中心とした自治体や企業、教育機関等と連携し、パラスポーツ体験会や冠大会を開催しており、これまでに延べ5,000名以上の参加者がパラスポーツを体験しました。

子どもたちが体験会を通じて「耳が聞こえなくてもスポーツを楽しめる」「言葉以外のコミュニケーション方法がある」という体験を得ることは、幼少期からの障害理解や差別・偏見のない社会づくりに向けた極めて効果的な教育的価値を持っています。


よくある質問(Q&A)

Q1: デフリンピックとパラリンピックの違いは何ですか?

A1: 大きな違いは「対象とする障がいの範囲」と「運営組織」です。パラリンピックは肢体不自由や視覚障害、知的障害など幅広い障がいを対象とし、国際パラリンピック委員会(IPC)が主催します。一方、デフリンピックは聴覚障害者のみを対象とし、国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が主催しています。デフリンピックでは選手や役員間のコミュニケーションが手話を中心に行われる点も特徴です。

Q2: 企業がパラスポーツ選手を支援するメリットや障がい者雇用の意義は何ですか?

A2: 企業にとっては、多様な人材が活躍するダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進につながります。アスリートの挑戦する姿が社員の士気を高めるほか、パラスポーツ体験会などを通じた地域貢献や企業価値の向上(ESG投資・SDGsへの貢献)が期待できます。また、障がいのある当事者の視点を商品やサービスに還元できる点も大きなメリットと考えられます。

Q3: 地域や個人でデフスポーツや障害福祉を応援するにはどのような方法がありますか?

A3: まずは大会や体験会イベントに足を運び、競技のルールや魅力を知ることが第一歩です。また、SNSでの情報拡散やボランティア活動への参加、パラスポーツ支援に取り組む企業の製品・サービスを利用することも応援につながります。学校や地域でデフスポーツ体験会を開催する事例も増えています。


まとめ:パラスポーツを通じた共生社会の実現に向けて

今回のケイアイスター不動産所属・山本典城監督による奈良県知事表敬訪問は、デフサッカー・デフフットサルの素晴らしい成果を地域に伝えるとともに、障害福祉や共生社会の重要性を広く発信する貴重な機会となりました。

デフスポーツやパラスポーツは、単なる勝敗を競う競技にとどまらず、聞こえない・聞こえにくい子どもたちに夢を与え、障がいの有無にかかわらず互いを尊重し合える社会を作る大きな力を持っています。

私たち一人ひとりがデフスポーツに関心を持ち、理解を深めていくことが、障がい福祉の充実と誰もが自分らしく生きられる社会づくりへの確かな一歩となります。今後の山本監督や選手の皆様の活躍に注目しながら、パラスポーツの輪を広げていきましょう。


Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77