💡 この記事で分かること

  • 東京都「障害者雇用エレントカンパニー賞」の概要:法定雇用率の達成にとどまらず、能力開発や処遇改善を積極的に行う優良企業を表彰する制度。
  • エス・エム・エスの先進事例:400種類以上の業務切り出し、入社3年後の定着率85.0%、正社員登用率8割超を実現。
  • 定着とキャリア形成を支える仕組み:多層的なサポート体制、マニュアル化、トライアル勤務制度の導入。
  • 障害の社会モデルと「かべなし」:自社実践のノウハウを社会や他社へ展開し、社会的障壁の解消を目指す取り組み。

障害のある方が職場で自分らしく活躍し、長期的に働き続けられる環境づくりは、現代社会において非常に重要なテーマとなっています。

単に雇用するだけでなく、一人ひとりの適性に合わせた業務の提供や、将来を見据えたキャリア形成の支援など、「雇用の質」を高める姿勢が企業に求められています。

本記事では、東京都が主催する2026年度「障害者雇用エクセレントカンパニー賞」を受賞した株式会社エス・エム・エスの事例を詳しくご紹介します。同社が実践する入社3年後の定着率85.0%や正社員登用率8割超といった高い成果の背景にある取り組みを通じて、これからの障害者雇用のあり方を探っていきます。


東京都「障害者雇用エクセレントカンパニー賞」とは?制度の概要と評価基準

法定雇用率達成だけではない!「雇用の質」を高める取り組みが評価対象

「障害者雇用エクセレントカンパニー賞」は、東京都が障害のある方の雇用に関して特色ある優れた取り組みを行う企業を表彰する制度です。2026年度で10回目を迎えました。

この賞は、単に「障害者法定雇用率」を達成していることだけを評価するものではありません。雇用率を達成している都内企業の中から、障害のある方の能力開発や処遇改善に積極的に取り組み、職場環境の整備や職場定着を推進している優良企業が厳選して選定されます。2026年度は都内企業のうち3社が選ばれました。

💡 専門用語解説

  • 障害者法定雇用率:従業員が一定数以上の事業主に対して、全従業員に占める障害者の割合(一定の雇用割合)を義務付けた法律上の基準のことです。
  • 障害者雇用エクセレントカンパニー賞:法定雇用率の達成に加え、障害者の能力発揮やキャリア形成、職場定着などに向けた「質の高い取り組み」を行う東京都の優良企業表彰制度です。

エス・エム・エスが実践する障害者雇用の取り組みと成果

400種類以上の業務切り出しと精神・発達障害のある方の活躍

株式会社エス・エム・エス(本社:東京都港区、代表取締役社長:髙畑正樹)は、2018年に社内業務を受託する障害者雇用組織を立ち上げ、2020年から本格的な内製化に取り組んできました。

同社の障害者雇用組織である「シェアードサービスグループ」は約90名規模で運営されており、そのうち精神障害や発達障害のある方が9割を占めています。

同グループでは、本社の同一オフィスにて、人事・経理業務や営業事務、PC・タブレットのキッティング作業など、社内の各部門から切り出された400種類を超える業務を担当しています。従来は外部へ委託していた業務の内製化を進めることで、企業グループ全体の生産性向上にも寄与しています。

入社3年後の定着率85.0%・正社員登用率8割超を支える多層的サポート

エス・エム・エスの取り組みにおいて特筆すべき点は、高い定着率と安定した雇用実績です。

同社における入社1年以上を経過した社員の正社員登用率は8割を超えており、入社3年後の定着率は85.0%(2021年度・2022年度入社者)という高い水準を維持しています。

この高い実績を支えているのが、以下の運用体制です。

  • 多層的なサポート体制:個々の障害特性に応じた柔軟かつ配慮の行き届いた支援環境。
  • 業務の徹底したマニュアル化:作業手順の明確化により、安心して正確に業務を進められる仕組みづくり。
  • 安心と規律の両立:プロフェッショナルとしての品質向上と働きがいを追求する組織風土。

多彩なキャリアパスとトライアル勤務制度によるステップアップ

同グループでは、障害のある社員が機能別チームのリーダー(役職者)の半数を務めるなど、主体的な組織運営が行われています。

また、最大3カ月のトライアル勤務制度を経て一般事業部へ異動し、専門担当者として活躍する事例も生まれています。企業内の枠にとらわれず、個人の能力や意欲に応じた多様なキャリア形成の支援が行われています。

同社は、2030年に向けてシェアードサービスグループを約200名規模へ拡大することを目指しています。

💡 専門用語解説

  • シェアードサービス:企業グループ内の複数部門に存在する管理業務(総務・人事・経理など)を1箇所に集約し、業務効率や品質を高める運用形態のことです。
  • キッティング:パソコンやスマートフォンなどのIT機器を、導入後すぐに使えるよう初期設定やソフトウェアのインストールを行う作業のことです。
  • キャリアパス:企業において、社員が目指すべき職位や職務に就くための順序や経験のルートのことです。

社会的障壁を取り払う「かべなし」事業と「障害の社会モデル」

自社ノウハウを社会へ還元する「かべなし」の取り組み

エス・エム・エスは、自社内の障害者雇用で得た内製化ノウハウや定着支援の知見をもとに、法人向け障害者雇用支援サービス「かべなし」を展開しています。

「かべなし」は、「障害によって生きづらさを抱えている人たちのウェルビーイング向上に貢献する」ことをミッションとして掲げています。

同事業では、企業の障害者雇用に関する課題のヒアリングからコンサルティング、研修、採用・定着支援までを一気通貫で提供しています。また求職者向けには、適性に合った求人マッチングや就労支援事業所の情報提供などを行っています。

自社での実践と、事業を通じた社会へのノウハウ共有を両輪で進める姿勢が評価されています。

💡 専門用語解説

  • 障害の社会モデル:「障害は個人の身体機能の制限(個人モデル)にあるのではなく、社会の側にあるバリア(社会的障壁)によって生じる」とする考え方です。
  • ウェルビーイング(Well-being):身体的・精神的・社会的に満たされた良好な状態を指す概念です。

よくある疑問(Q&A)

コラム

Q1. 精神障害や発達障害がある場合でも、企業で長期的に働き続けられますか?

A. 企業側の環境整備や個別の配慮があれば、長期的な就労が十分に可能です。エス・エム・エスでは、精神・発達障害のある方が全体の9割を占める組織において、業務のマニュアル化や多層的サポートにより入社3年後定着率85.0%を実現しています。

Q2. 障害者雇用から正社員登用や他部署への異動を目指すことはできますか?

A. 企業の制度によって異なりますが、キャリアアップの道を用意している企業も増えています。事例にあげたエス・エム・エスでは、入社1年以上の正社員登用率が8割を超えており、トライアル勤務制度を通じて事業部へ異動するキャリアパスも構築されています。

Q3. 企業が障害者雇用の「定着率」を高めるために重要なポイントは何ですか?

A. 雇用の数だけでなく「質の向上」に取り組むことが重要です。具体的には、明確なマニュアル整備、個々の特性に応じた配慮体制、主体性を育む業務の切り出しや適切な評価制度などが挙げられます。


まとめ:一人ひとりが持てる能力を発揮し安心できる社会へ

障害者雇用は、単なる法令順守のための雇用管理から、「一人ひとりが持てる能力を伸ばし、安心して活躍し続けられる環境づくり」へとシフトしています。

東京都「障害者雇用エクセレントカンパニー賞」を受賞した株式会社エス・エム・エスの事例は、適切な業務設計や多様なキャリアパスが、高い定着率や組織全体の価値創造につながることを示しています。

障害の有無にかかわらず、誰もが生き生きと働けるインクルーシブな社会の実現に向けて、こうした先進的な取り組みがより多くの企業や地域へ広がることが期待されます。


Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77