難聴者の声から生まれた「TeamLog」とは?多人数・騒音下・多言語に対応する音声認識システム

2026年4月13日、株式会社聴覚研究所は、難聴者のコミュニケーションを強力にサポートするリアルタイム音声認識システム「TeamLog」の正式リリースを発表しました。このシステムは、複数のマイクを使用する独自の技術により、最大9名の同時文字起こし、80dBを超える騒音環境下での高精度な認識、さらには多言語が入り混じる会話の同時翻訳を実現します。

コロナ禍で顕在化した難聴者のコミュニケーション課題

聴覚研究所は、1993年に「岐阜県難聴児を持つ親の会」を前身として設立された法人です。難聴を持つ子どもの親たちが、我が子のために聞こえや補聴器の研究を重ねてきた歴史があります。そうした背景を持つ聴覚研究所が音声認識の研究を始めたのは、新型コロナウイルス感染症が拡大した時期でした。

コロナ禍において、多くの人がマスクを着用するようになり、難聴者にとっては深刻なコミュニケーション不全に直面しました。相手の口の形を読み取ることが聞き取りの補助となっている難聴者にとって、マスクで口元が隠れることは、会話の聞き取りを極めて困難にする大きな問題だったためです。この状況を受け、多くの難聴者から「会話がまったく聞き取れない」「買い物をするのも一苦労」といった切実な声が寄せられ、その課題を解決するために音声認識技術の研究が開始されました。

マスク姿の店員と客のイラスト

従来の音声認識システムの限界を突破する独自技術

音声認識の研究を進める中で、従来のシステムが抱える課題が明らかになりました。一般的な音声認識ツールは、誤認識が発生しやすく、難聴者にとってはその間違いを自分の耳で確認できないため、会話が理解できなくなる原因となっていました。また、スマートフォンの内蔵マイクを使用するツールが多いため、難聴者が困ることが多い「周囲が騒がしい環境」や「話す人が多い場面」では、他の音の影響を受けて認識精度が著しく低下するという問題がありました。

「TeamLog」は、これらの課題を解決するために、特許申請中の独自機構を搭載しています。複数の指向性マイクを使用することで、従来の音声認識システムでは対応が難しかった状況下でも、高い精度での文字起こしを可能にしています。

「TeamLog」の画期的な3つの特徴|難聴者支援から広がる可能性

最大9名の同時文字起こしと発言者特定

「TeamLog」は、複数のマイクを効果的に活用することで、最大9名までの同時文字起こしに対応します。これにより、発言が重なったり、会話に割り込みが発生したりするような場面でも、すべての発言を正確に文字起こしできます。さらに、各マイクに名前を割り当てることで、「誰が何を話したか」が一目でわかるように表示され、多人数での会議やグループディスカッションでの利用に非常に有効です。

会議の文字起こしアプリ画面

高い認識率と専門用語対応、80dB超の騒音下でも精度維持

高精度の音声認識エンジンを採用しているため、全般的に高い認識率を実現しています。加えて、単語辞書を作成することで、専門用語や人名にも柔軟に対応できるのが特長です。医療や金融など、特定の分野に特化した専用エンジンも搭載されており、専門性の高い会議での文字起こしでも高い精度が期待できます。

また、強い指向性を持つマイクを採用することで、騒音や周囲の人の声の影響を極限まで抑えることに成功しました。これにより、80dBを超える工事現場のような騒がしい環境や、隣で大きな声で会話が交わされるカフェや居酒屋のような場所でも、文字起こし精度がほとんど低下しないという画期的な性能を発揮します。

マイクを囲む人々

多言語同時翻訳で広がるコミュニケーション支援

「TeamLog」は、国内で増加傾向にある「日本語未習得の外国籍児童」への修学支援にも力を入れています。教室内のような様々な声が飛び交う環境では、従来の文字起こしツールでは認識精度が低くなりがちでしたが、「TeamLog」であれば高い精度で文字起こしが可能です。

この高い認識率を活かし、現在も開発および検証が進められており、様々な国の言語をリアルタイムで翻訳できるようになることで、国際的なコミュニケーションや教育現場でのバリアフリー化に貢献することが期待されます。

多言語翻訳アプリ画面

障害福祉を超えた活用シーン|議事録作成やビジネスでの同時通訳にも

企業や組織にもメリットをもたらす多様な機能

「TeamLog」は、元々は難聴者の情報支援を目的として開発されましたが、より多くの人々にとって便利な議事録作成や同時翻訳ツールとしても機能するように設計されています。難聴者のみに特化したツールではなく、企業や組織全体にメリットをもたらすことで、導入のハードルを下げることを目指しています。

近年では、合理的配慮の義務化により障害者の要望が企業等にも受け入れられやすくなりましたが、音声認識システムの導入にはコストやセキュリティの面で課題がありました。「TeamLog」は、企業や組織にとって便利な機能と高いセキュリティ性を両立させることで、障害者支援とビジネス効率化の両面で効果的なサービスとなるよう工夫が凝らされています。

主な機能は以下の通りです。

  • 認識結果はすべてローカル保存でセキュリティ性を確保

  • 議事録としても利用可能なcsvやpdfで出力

  • 記録や通信を行わないオフライン認識機能(開発予定)

  • 複数の言語を同時に認識、翻訳する同時通訳機能

  • リアルタイム修正で文字起こし精度100%の実現

  • 共有機能で他端末にもリアルタイム表示

  • 共有先端末で好きな言語に翻訳

議事録アプリ画面とCSV出力

「TeamLog」の料金プランと今後の展望

「TeamLog」の料金設定は、法人向け、個人向け、そして障害者手帳を持つ難聴者や難聴者支援を行う団体向けのサポートプランが用意されています。

  • 法人向けプラン:初期費用なし、基本料金10,000円/月 + 音声認識エンジン利用料(従量)

  • 個人向けプラン:初期費用なし、基本料金1,000円/月 + 音声認識エンジン利用料(従量)

  • サポートプラン:初期費用なし、個人・法人プランの料金を一定額割引

※現在はiOS版のみ提供されており、Android版およびPC版は現在開発中です。
※音声認識エンジン利用料(従量)は3時間で平均100円程度とされています。
※別途マイク等の購入が必要ですが、汎用品が使用可能です。

「TeamLog」は、正式リリース前から多くの反響があり、難聴者が所属する就労施設や学校で試用テストが実施されています。今後は、日本語未習得の外国籍児童への修学支援や、付属の編集ソフトを活用したリアルタイム修正システムの構築など、さらなる精度向上、機能改善、幅広い分野への適応を目指していくとのことです。

聴覚研究所について

「TeamLog」を開発した株式会社聴覚研究所は、難聴者の情報支援、福祉機器販売、システム開発などを手掛けています。

  • 会社名:株式会社聴覚研究所

  • 所在地:岐阜県岐阜市東栄町1-5

  • 代表者:清水浩子

  • 事業内容:福祉機器販売、システム開発、情報支援

  • 問い合わせ先:teamlog@hearing-lab.jp

詳細情報や商品については、以下の公式サイトおよび商品ページをご覧ください。

「TeamLog」は、難聴者の日々のコミュニケーションを円滑にするだけでなく、多様な人々が共生できる社会の実現に向けた、大きな一歩となることでしょう。


Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77