Last Updated on 2023年7月24日 by 菅間 大樹
「福祉事業所の製品を売れる商品に。」全国を飛び回り、商品開発、営業開拓、販売まで一人で手掛ける福祉製品の販路開拓の、日本随一のスペシャリスト。
今回ご紹介する砂長 美んさんは、一般社団法人ありがとうショップの代表理事。
障害福祉事業所で作られる商品を「売れる商品」にブラッシュアップして販売したり、営業開拓して販路拡大をしたり、障害者の仕事の確保や所得アップのための仕事をしています。
愛称は「美んちゃん」。子どものころ「瓶のように細かった」ため、美んちゃんと呼ばれるようになったそうです。
軽やかなフットワークとバイタリティ、人懐っこい笑顔と明るいキャラクターで多くの人々から慕われ、これまで培ってきた全国各地の広いネットワークを仕事に生かしてきました。
美んちゃんが障害福祉事業所の商品の販売や、販路の開拓など現在に続く仕事をスタートさせたのは2012年から。今年で7年目になります。
日本全国を回り、福祉事業所とコラボレーションした商品を自ら開拓した販路で販売しています。
販路は日本全国。永田町の国会議員会館、全国各地の博物館やお城などの観光施設、百貨店など多岐に渡ります。
元々メイクアップアーティストを目指していた美んちゃんが、現在の仕事をはじめるようになったのは、ドキュメンタリー映画への出演がきっかけでした。
映画への出演が転機に
実は美んちゃんはディスレクシア(学習障害の一つ)という発達障害の当事者。
脳の機能障害によって読み書きが上手くできないのがディスレクシアです。
脳の中の音と文字を操作する部位がうまく働かないため、耳からの情報は理解しているものの、文字に関しては正確さと流暢さに欠けてしまうというのが特徴です。
美んちゃんは、高校を卒業後、メイクアップアーティストを目指し美容師試験に何度もチャレンジするものの上手くいかず、好きな美術を学ぶためロンドン芸術大学に進学しました。
その大学の教授から「ディスレクシアの可能性」を指摘され、初めてそのことに気づいたのです。
帰国後、再び美容師試験に臨みますが「読み書き」が壁となり不合格。
その後留学経験を活かし、外資系企業に勤務するもミスが多く長続きせず、ヘアメイクの仕事やアルバイトをしながら自分の得意が生かせる仕事を模索する日々を送っていました。
その当時通っていたディスレクシアの支援団体に映画監督が出入りしていたことから、ドキュメンタリー映画への出演が決まりました。それがディスレクシアの当事者を取り上げた2011年に公開された映画「DX(ディスレクシア)な日々-美んちゃんの場合-」です。
何をやっても上手くいかず、親にも抱える困難を理解してもらえず悩んでいた美んちゃんが、あきらめとふてくされの気持ちの中で出演を決めた映画でしたが、撮影が進むにつれ徐々に前向きになっていきました。
そして、映画の撮影中に参加した障害者の起業コンテストで準グランプリを獲得。
賞金を元に得意な料理の腕を生かし、弁当屋をオープンしました。
弁当屋に来るお客様の中には、映画の影響からか、障害者や障害福祉事業所の関係者も多く、そのうちに福祉事業所で作った商品の委託販売も頼まれるようになってきました。
やがて、福祉事業所で商品を作る障害当事者の賃金の低さや、たびたび目にする「売れなくてもいいから」という事業所側の姿勢に、疑問を感じるようになっていきました。
「ありがとうショップ」の立ち上げ
2011年の東日本大震災が転機となり、 かねてから疑問に思い考えていた、福祉事業所の賃金アップのため「売れる商品」を開発することをを決意します。
「障害者が作った商品なので買ってください」ではなく、「商品に付加価値を付けて私が売ること」を決めて、2012年に障害福祉事業所の商品の企画開発、営業、販路開拓、販売を行う「ありがとうショップ」(2018年に一般社団法人化)を立ち上げました。
ちょうど映画の公開後から、全国の上映会に合わせ講演依頼がくるようになり、全国を回る機会が多くなっていました。
講演に合わせて全国各地の福祉事業所を訪れ、商品開発をしたり、映画のチラシを挨拶がわりに見せながら、販路確保のために営業したり、少しずつ取引先や販路を拡大していきました。
国会議員会館での販売へ
2013年5月に設立された「障害者の自立のために所得向上を目指す議員連盟」の総会で、障害者の社会参加について講演する機会がありました。
そこで議員会館において障害福祉事業所で製造された商品を販売できないか自ら提案。
議員連盟として取り組むことが決定します。
その後、美んちゃんを中心にセブンイレブンジャパンが参加したプロジェクトチームが発足。議員会館内に常設販売コーナーを設置するべく活動が始まりました。
2013年11月に参議院議員会館に、2014年6月には衆議院議員会館にあるセブンイレブンに常設販売コーナーがオープンしました。
「ありがとうショップ」の常設コーナーもその一角にあります。
当初はなかなか売上が伸びませんでしたが、「みんなの笑顔クッキー」のラベルを「国会議事堂クッキー」に変えた途端、飛ぶように売れ始めました。
それがきっかけで、売れる商品のコツがわかるようになってきました。
「付加価値」をつけることで、商品価値=価格も上げることができる。
それが作っている人達の工賃アップにつながっていきます。
重度障害のある人たちとの出会い
映画の上映会や講演会など機会があるたびに地域の福祉事業所を回り、現在までに訪れた福祉事業所は、沖縄県宮古島から北海道網走市まで、1000件を超えました。
その中で色々な障害のある方と出会いましたが、一番衝撃を受けたのは重度障害者たちとの出会いでした。
鍵のかかった部屋に入ったまま一日中座っている人。本当に何もできないのか?そうではないはずだと考えました。
紙をちぎったり、切ったりしている人も多く、その紙を水につけて手すきの紙にしている事業所もありました。
紙をちぎる、貼るなどの作業を生かして付加価値のある商品をつくれないかと考え 開発商品した商品のひとつに、国会議員会館で販売している紅茶「国会金箔紅茶」があります。
福祉事業所で知的重度障害のある人たちに、紅茶に金箔をペタペタと貼ってもらい、それを商品にしているのですが、5杯分の紅茶が750円、1個につき40円の工賃を払うことができます。
一般の業者では「手間がかかり儲からない」ため作らない商品、そこに勝機があると見込んで作ったこの商品は、好調に売れ続けています。
商品には「重度の障害者が頑張って作りました」など一切書いていません。
できることを生かして最大限の利益を生む。それを実現するアイデアで勝負する、そこに美んちゃんの手腕が生きています。
「お土産」にビジネスチャンス
全国を訪れるたびに福祉事業所を訪ねてきた美んちゃんですが、あわせて博物館など様々な観光施設も訪れてきました。
多くの観光客が訪れる博物館では必ず「お土産」のニーズがあるのです。
そこに商機を感じた美んちゃんは自ら営業して「お土産」製品の生産を請負、福祉事業所の新しい仕事を増やしていきました。
お客様にとって「お土産」は思い出を買うこと。
まずターゲットにしているお客様があり、そのニーズにあう商品にするために、福祉事業所で作られる商品のブラッシュアップを手掛けたり、生産できる事業所に依頼します。
お客様のニーズにあっていれば商品は必ず売れ、売上が工賃として還元されるのです。
美んちゃんにしか出来ない仕事
観光地には欠かせない「お土産」製品の生産と福祉事業所のマッチング。
これまでにも国会議員会館をはじめ、全国各地の観光施設での実績を積み重ねてきましたが、全国各地にはまだ多くの可能性が眠っているそうです。
その可能性を仕事に繋げて広げていくことが新しい目標になりました。
講演会やイベントなど全国各地に行くたびに、必ず何かアクションを起こして新しい可能性につなげるのが美んちゃんの凄いところ。
先日訪れた徳島でも、駅前にある「阿波踊り会館」で売られているお土産物に商機を感じ、 早速会館の隣にある福祉事業所を訪問、徳島の名物をモチーフにしたお土産品の生産について商談をしてきたそうです。
それは売上だけでなく、お土産という商品を通じて、販売先と生産先をつなげる=地元と地元をつなげることにもなっているのです。
自分の好みではなく、売られる場所と、ニーズを考え、より付加価値のある商品をつくること。それを最適な価格で販売し、きちんと利益を生み出すこと。
美んちゃんにとっては、買って下さるお客様だけでなく、商品を生産する福祉事業所もお客様です。「商品が売れること=自分が売り上げを上げることが、お客様のハッピーにつながる」
その思いを胸に美んちゃんが立てた新たな目標は、今後3年で売上を現在の3倍、3000万円まで伸ばすことです。
人や場所、仕事を繋げる求心力
障害福祉施設で作られる製品のコンサルティングや販売をしている人や企業は他にも存在しますが、一人で「販売先の開拓から営業、商品開発、販売」まで請け負うスタイルは、美んちゃん独自のものです。
そして、商品の梱包や発送、納品、パッケージのデザインや印刷、催事販売の要員など様々な付帯業務を福祉事業所に仕事として依頼しています。
美んちゃんが立てた売り上げアップの新たな目標は、こうした仕事を増やすことにも繋がっているのです。
アイデアが浮かんだら、その可能性があることに臆せずトライして、その結果人との出会いがあり、また次に繋がっていく。
軽やかなフットワークで人と仕事を繋げていく美んちゃんの姿に、多くの人が惹きつけられ仲間に加わっていきます。
福祉事業所から国会議員、企業、博物館、北は北海道から南は沖縄、宮古島まで、いろんな人や場所を縦横無尽につなぎながら、その輪がどんどん大きくなっていくに違いありません。
今日もどこかで新しい可能性を発見し、地域や人を繋げて、新しい風を起こしているはず。
これからも、そんな美んちゃんの活躍から目が離せません。
【一般社団法人 ありがとうショップ】
Website: http://www.arigatoshop.jp
Facebook: Hiroko Bin Sunanaga
151-0053 東京都渋谷区代々木3-1-16 201号
Tel: 090-8454-2409