2023年1月09日に共同通信が報じた「障害者雇用「代行」急増 法定率目的、800社利用」に大きな反響があるようです。障害者雇用「代行」業者とはどのようなもので、それを利用する企業と働く障害者との関係はどのようになっているのでしょうか。

障害者雇用「代行」ビジネスとは

今回報じられたのは、障害者の雇用を代行する業者の存在についてです。企業には障害者を雇用義務があり、民間企業の法定雇用率は2.3%となっています。そのため、従業員を43.5人以上雇用している企業は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。ただし、障害者を受け入れるための設備を整えたり、一緒に働く社員の理解を得たりすることは、簡単ではありません。

そこで近年登場したのが、報じられた「障害者雇用代行業者」です。自社で障害者を雇用し、社内に勤務するのではなく、雇用した障害者を代行業者が運営する農園などに派遣し、労働に従事する仕組みです。障害者の雇用元は企業のままで、給与は企業から支払われます。また、企業は代行業者に一定の金額を支払います。支払われた金額が代行業者の売上になり、施設の管理費や農園等に勤務するスタッフ(主に健常者)の賃金などになります。

つまり、企業は代行業者に委託し、自社で十分に勤務させられない障害者を派遣していることになります。一方、代行業者は、企業から派遣された障害者をある業務に従事させ、管理する代わりに企業から委託費などを受け取る仕組みです。

特例子会社とは

なお、大手企業には「特例子会社」という制度が認められています。特例子会社は、障害者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合、特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなすものです。そのため、子会社に勤務する障害者は親会社の実雇用率として算定できます。

障害者雇用代行の問題点

昨今、問題視されているのは、障害者を雇用している企業が自ら業務指示をしたり勤怠管理するのではなく、代行業者に実質的に就労を丸投げしている点です。障害者雇用代行を利用することで企業は障害者を自社で管理せずとも法定雇用率を達成できます。また、代行業者は企業に代わり障害者に就労の場を与えることで雇用・働く場の創出を実現していることになります。

ただ、このスキームは、程度の差はあるものの、代行業者を利用している企業は障害者の雇用主でありながら、勤務にはタッチしていないことがほとんです。つまり、代行業者にお金を払うことで、障害者雇用で起きるであろう設備等投資や社内理解などの手間が省かれることになります。お金を払うことで企業は負担を軽減し、代行業者は企業が障害者雇用で発生する負担分を委託費などの形で受け取っています。「代行業者にお金を払うことで雇用率を買っているようなものだ」というのはこの点です。

企業側の障害者を「雇用」しているという意識はどの程度なのか?

この件の大きなポイントの1つは、「企業はエスプールプラスに障害者雇用を丸投げしていないか」という点だと思います。自社で障害者雇用する際に人材サービス会社などを利用する点は他社でも行っており、また、健常者向け人材サービスは今も盛況です。

では、採用後はどうでしょうか?自社で採用し、人材サービス会社はあくまで採用のサポートであり、採用後は雇用した企業の責任において、自社の事業・サービスに従事させることが基本です。そして、雇用された側は給与を受け取る代わりに企業への貢献(主に、企業の業績への貢献と、事業を通じた社会貢献)が求められます。また、企業は雇用した社員の教育なども行います。

おそらく問題の1つはこのあたりなのではないでしょうか。本来は自社の事業・サービスに従事するのが、障害者雇用代行業者を利用することによって、採用から採用後の業務までを「丸投げ」しているのでは?という点だと思われます。障害者雇用代行業者にすべてを任せ、自社で雇用した社員がどこで何をしているのかわからないのであれば、それは「障害者雇用率を金で買っている」という批判も当てはまると思われます。

一方、障害者雇用代行業者に依頼しつつも、雇用した社員について間接的ながらも的確に管理できている、成長や成果分が給与に反映されるなどを行っている企業であれば、障害者雇用代行業者のサポートを受けながら社員を雇用しているという意識も高いでしょう。

企業がエスプールプラスを利用した際にかかる費用

企業がエスプールプラスのサービス(農園を活用した障がい者雇用)を利用する際にの費用としては、エスプールプラスのホームページによると、農園運営費と、障害者スタッフ、サポートスタッフの人件費が月額でかかるとなっています。ここで少し気になるのは、初期費用として「人材採用費」が発生することです。この人件費が障害者スタッフ、サポートスタッフなのかはホームページ上では不明ですが、障害者スタッフの採用費用とすると、企業は採用前の段階からエスプールプラスのサービスを利用していると考えられます。そうなると、企業はそもそも障害者スタッフの自社内勤務を想定しておらず、農園での就労を前提として障害者雇用をすすめていると思われます。

https://plus.spool.co.jp/farm/price/

農園での仕事に従事する障害者のやりがいや成長、働く環境に疑問も

一方、代行業者が運営する農園などで仕事に従事する障害者がすべて充実し、成長を実感しているというわけでもなさそうです。もちろん代行業者の中には、企業から預かった障害者に親身に指導し、農作物を育てる喜びを共に感じながら農園を運営しているところもあるでしょう。

しかし、障害者が十分に働く環境が整っておらず、勤務時間の大半がこれといった仕事もなくブラブラ過ごす、といったようなこともあるようです。もしそれが本当であれば、企業は自社で雇用する負担をかけたくないがために、代行業者にお金を払い「厄介払い」をしていることになりかねません。もちろん、企業も一部の代行業者のそのような実態を知らずにいる可能性もあります。企業がどのような意図で代行業者を利用しているのか、また代行業者は実際に障害者にどのような業務を指示し、管理しているのかなどを調べていく必要がありそうです。

https://www.47news.jp/8788807.html

エスプールプラスとはどのような会社か

今回の「障害者雇用代行業者」の問題で名前が挙がった企業が「エスプールプラス」です。「一人でも多くの障がい者雇用を創出し、社会に貢献する」とうたう同社の設立は2010年6月。農業を活用した障がい者雇用のコンサルティング事業、企業向け貸し農園(わーくはぴねす農園)の運営・開発・管理、障がい者就労支援事業などを展開しています。ただ、今回の報道を受け、エスプール(証券コード:2471)の株はストップ安となりました。※株式会社エスプールプラスはエスプールの子会社になります。

ただ、これまでのエスプールプラスの事業は好調なようで、多くの大手企業が取引をしています。障害者はエスプールが運営する農園で野菜を作るのが主ですが、定着率は90%を超えるとされており、利用は数年先まで待たないといけない状態となっています。また、いわゆる「助成金ビジネス」を展開しているということでもないようです。そういった意味では、民間のアイデアで大手企業の悩みを解決しながら障害者雇用を創出しており、離職率もとても低いためクライアントからの信頼も厚いと捉えることもできます。

今回の報道についてのエスプールの見解

なお、今回の報道についてエスプールはホームページ上でリリースを出しています。

https://www.spool.co.jp/

障害者雇用代行業者は必要悪か?

障害者雇用代行業がダメか、というと、非常に難しい問題です。仮に障害者雇用代行業者を利用していなかったら、大手企業のいくつかは自社で障害者者を雇用できなかったり、雇用しても短期間で退職してしまったりという事態に陥り、障害者雇用納付金(法定雇用率を達成していない企業は、不足1人当たり月額5万円の納付金を納める制度)を払っているかもしれません。特例子会社の運営がうまくいっていない企業などにとっても、自社で雇用しきれない、設備等の問題で良い労働環境を用意できないのであれば、代行業者のサポートを得ることで障害者雇用を実現できることは悪いとは言えないのかもしれません。

報道内容の一部だけを短絡的にとらえることの危険性

働く障害者にとっても、企業で慣れない業務に就くよりも、環境が整っていたり、自身にあっていたりするのであれば、エスプールプラスが運営する農園のような場で働くことは悪い話ではないでしょう。企業に働くのではなくても、企業に雇用されていることには変わらず、給与の変動などがないのであれば、不満は少ないのかもしれません。今回の報道ではエスプールプラスがやり玉にあがりましたが、報道自体、また本記事においてもエスプールプラスの事業を非難するものではありません。少なくともエスプールプラスでは農園を事業として運営しており、「農福連携」を担っていることは間違いありません。

そのため報道内容の一部を切り取って、エスプールプラスの事業実態やそこで農園事業に従事する障害者の声、その家族の声などを聴かずにを糾弾することは論外です。また、代行業者を「悪」や「悪知恵」がはたらく、と言い切ることも短絡的でしょう。たんに企業か抱えきれない障害者を「お金をもらって引き取る」のではなく、それぞれの特性を生かした業務に就いてもらったり、働く喜びや成長を実感できるようなことを真摯に考えている業者も多いはずです。「障害者を食い物にしたビジネス」をしている業者は一部にすぎないのかもしれません。これらは国の調査を進めるなどしなければ明らかにならないでしょう。今回の報道をきっかけに、障害者雇用代行業者の実態や、サテライトオフィスのような障害者雇用の形態が正しく運用されているのかの調査がより進むことが期待されます。

農園で働く障害者の家族らの意見も踏まえた議論も今後は必要

また、「障害のある子を持つ家族」の意見も無視できないところです。企業内で勤務できなくても農園などで長く働け、働く場所は違えど企業に雇用されている点は変わらず待遇も守られているのであれば、代行業者を、ダメと切り捨てることは難しいでしょう。就労継続支援事業所からのステップとして、障害者雇用代行業者が運営している農園事業などでの就労を前提として一般企業に雇用される障害者も多いはずです。しかし、そこで働く喜びが得られたり、就労継続支援事業所よりも多くの賃金が得られたりするのであれば、一般企業と障害者雇用代行業者は「幸せな雇用」生み出しているともいえます。

障害者の本質や障害者本人の「幸せな就労」について考えることの大切さ

本質を見誤ってはいけませんが、企業や代行業者がどのような意図を持っているか、制度の悪用や都合の良い解釈をしていないか、お金で解決するようなスタンスになっていないか、実際に勤務する障害者にとって幸せな環境であるか、などいくつもの視点で考えて以下なればならない問題なのかもしれません。

「エスプールショック」における識者やメディアの様々な見解を追記していきます。

障害者雇用「代行」報道は「一方的で不適切」 株価急落の企業が抗議「実態から大きく乖離している」

障害者雇用代行ビジネス報道に伴った「エスプールショック」に思う

エスプールショックを受けた会社側反論から見えたもの

「障害者雇用=コストと思った瞬間から差別が始まる」胡蝶蘭農園AlonAlonの当事者中心主義

エスプール社「2022 年 11 月期 (第23 期)決算説明会 質疑応答概要」

雇用代行ビジネスの虚実 ~障害者雇用の成果の陰で

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。