2026年4月、大阪市の監査により、絆ホールディングス傘下のA型事業所が 就労移行支援体制加算を不正に水増し請求していたことが発覚しました。不正受給額は全国75自治体にまたがり、 総額150億円規模と報じられています。

絆ホールディングスとは

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絆ホールディングス株式会社は、大阪市中央区に本社を置く障害福祉サービス系企業で、2012年に設立されました。グループ各社では、就労継続支援A型事業所、児童発達支援、放課後等デイサービスなどを展開してきました。

絆ホールディングスは「 (社会性+事業性)×人やりたいことを仕事に障害者が戦力となって活躍できる会社」を企業理念とし、ホームページには、「障害を個性と捉え、障害者が「戦力」となって活躍できる会社を目指しています。」と記載されています。

https://www.kizuna-holdings.co.jp

絆ホールディングスの不正が発覚した背景

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この不正は、大阪市が絆ホールディングス傘下のの福祉事業所に定期監査を実施したことから発覚しました。監査の過程で、支援記録と雇用実態に不自然な点が多数見つかったことがきっかけとされています。特に注目されたのが、利用者の雇用形態が短期間で切り替わっていた点です。

つまり、「ローテーション雇用」を取り入れていたことが判明しました。具体的には、同じ利用者が、まず事業所の「スタッフ」として雇用されます。その後、一定期間を経た後、就労移行支援事業所の「利用者」に戻る、ということです。このパターンを繰り返すことで、制度上は加算金の上乗せがかのうになります。制度上の穴を突いた悪質な手法が繰り返されていたことになります。

不正の内容(就労移行支援体制加算の水増し)

不正の中心は「就労移行支援体制加算」の水増し請求でした。 この加算は、利用者が一般企業に就職し、6カ月間定着した場合に報酬が上乗せされる制度です。絆ホールディングスにおいても、多くの利用者は6カ月月間かそれより少し長い期間、スタッフとして雇用され、その後、利用者に戻る、ということが繰り返されていたと推測されます。さらに、再び同じ利用者をスタッフに戻す、といったことで、同じ利用者で加算を繰り返し請求していたことが、報道などで分かっています。

実際には一般就労していない利用者を「定着者」として扱い、 報酬を何度も不正に受け取る構造を作り上げ、組織的に行っていたことになります。合法的な雇用形態を装いながら、実質的には給付金の不正取得を目的とした悪質な操作でした。

行政処分と絆ホールディングス傘下のA型事業所閉鎖の経緯

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今回の行政処分から、その後の絆ホールディングスの対応は以下になります。

大阪市による福祉事業の指定取消処分

まず、2026年3月27日、大阪市は絆ホールディングス傘下の4つのA型事業所に対し 障害者総合支援法に基づく「指定取消処分」を発表しました。

絆ホールディングス公式HPで発表された事業所閉鎖の方針

その後、絆ホールディングスは公式HPで 「2026年4月末で全A型事業所を閉鎖」すると公表しました。

https://www.kizuna-holdings.co.jp/news/info/26032701

不正受給事件の問題点(制度・運営・倫理)

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この背景と手口は、福祉制度の構造的な脆弱性を浮き彫りにし、今後のA型事業所運営における「倫理」「透明性」「監査体制」の重要性を強く示す事例となりました。

不正受給を実現させてしまった制度の構造的欠陥

厚生労働省の障害福祉サービス等報酬は、近年、就労定着に重きが置かれる傾向にあります。一般企業への就労実績に加え、一定期間、定着させることで加算対象となります。

具体的には、以下になります。

  • 一般就労6カ月定着で加算
  • その実績が翌年度の報酬単価に上乗せ → 少数の実績を水増しすれば利益が膨らむ仕組み

つまり、6カ月以上就労させれば、加算対象になります。今回の事件では、

事業所に6か月間就労する⇒退職し、就労支援事業所等に利用者として戻る⇒一定期間を経たのち、事業所に就労

といった「ローテーション」が展開され、制度の隙間を突いた巧妙な操作が行われていたことになります。

利用者を利用した企業や事業所の倫理問題

企業が制度の穴を突き、悪質な手法を繰り返していた本件ですが、利用者の心情を置き去りにした点でも多くの問題が残りました。

例えば、

・6か月など一定期間を経た後、本人の障害特性や、仕事上の適性を無視したローテーション雇用が行われていたと思われること

・本来の目的である「一般就労支援」が形骸化していたこと

・利用者を加算の「駒」として扱い、本人キャリア形成を阻害していたこと

などが挙げられます。

監査体制の不備

一方、今回発覚した不正は、2024年4月ごろから行われていたとされています。そして、75の自治体が対象となっています。これだけ多くの自治体で、どこも不正を見抜けなかったこと、結果的に数年にわたり不正の横行を許してしまったことは、制度上の不備がなかったか、また、自治体間の連携をとることはできなかったのか、など、体制の見直しが図られるきっかけになるかもしれません。

絆ホールディングスの就労継続支援A型事業所閉鎖による影響

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本件を受け、絆ホールディングスは傘下が運営する就労継続支援A型事業所の閉鎖を発表しました。

弊社グループ会社が運営するA型事業所の閉鎖に関するお知らせ

A型事業所は2026年4月末をもって閉鎖されるとのことですが、気になるのは、A型事業所を利用する約1280人と言われる利用者が、職を失う可能性があるということです。就労継続支援A型事業所は、事業所と雇用契約を結び、利用者は事業所で生産活動(業務)を行いながら、就労に向けたトレーニングを行います。雇用契約を結ぶことから、利用者は最低賃金が保証されます。月の収入は8万円~9万円とされ、絆ホールディングス傘下のA型事業所も、同程度の収入を得ている利用者が多いと思われます。

絆ホールディングスは受入れ先確保に努めるとしていますが、新たな受け入れ先がスムーズに見つかるとは限りません。受け入れ候補となるA型事業所がすぐに見つかったとしても、アセスメント(心身の状況の把握など)は欠かせませんし、本利用前の体験実習などを行う必要もあるでしょう。また、新しい事業所でこれまでと同様の業務が行われるか、同程度の賃金を得られるかも不明です。

もちろん、事業所が変わることで、本人の生活リズムが崩れたり、新しい人間関係の構築に苦労し孤立したりといったリスクもあります。

事業所閉鎖による地域・行政への影響

絆ホールディングスが傘下のA型事業所を閉鎖することで、多くの利用者は「失業」に追い込まれることになります。そこで、大阪労働局はハローワーク16カ所に相談窓口を設置することを決定しています。ただ、先述の通り、すぐに別の利用先のA型事業所が見つかるとは限りません。

また、A型事業所の閉鎖をきっかけに、就労を目指す人や、B型事業所に移る人もいるでしょう。いずれにしても、スムーズな移行は困難を極めることが予想されます。また大阪以外の各自治体も、急に持ち上がった問題への対処に追われることになります。

不正受給発覚による業界全体への影響

今回の件が発覚したことで、障害者福祉業界における影響は少なからずあると考えられます。具体的な影響は以下です。

  • A型事業所への監査強化
  • 加算制度の見直し
  • 新規参入のハードル上昇
  • 既存事業所の経営リスク増大

もちろん、「ローテーション雇用」などを行い、不正受給を行っている事業所は一部に限られると考えられます。しかしながら、「ローテーション雇用」や就労移行支援事業所に限らず、就労継続支援A型・B型事業所まで含めると、配置人数の不足を認識していながらそれを申請せず給付費を不正請求するなどの件は、年間で見ると、いくつかの自治体において発生しています。それらの件も踏まえ、監査の強化が強まる可能性はあるでしょう。

また、今回、制度の穴を突いた「ローテーション雇用」をすることで、計画的な加算が可能であることが露呈したと言えます。企業への就労と定着を促すことを目的としたこの制度を悪用されたことで、制度の見直しが図られる可能性もあるでしょう。

制度の見直しが図られることや、一層の監視体制の強化が実現すると、新たに福祉事業を始めるハードルが高まるかもしれません。また、制度の見直しが図られ、就労や定着による加算が厳しくなった場合、既存の事業所においても加算対象外となってしまうことも考えられます。

これまでのところ、大きくメスを入れるような報道はありませんが、注視していく必要はありそうです。

不正受給はどうすれば防げたのか?再発防止策や改善点はあるのか?

えは、この要は不正受給はどうすれば防げたのでしょうか。当然ながら、法人が悪意を持っていないこと、制度の穴を突くような仕組みを組織ぐるみで行わないことなどが前提となります。そのうえで、以下のようなことが考えられるではないでしょうか。

事業者側の改善点

  • 一般就労実績の第三者チェック
  • グループ内雇用の厳格化
  • 支援記録の電子化・外部監査
  • 利用者のキャリアプラン重視

まずは、第三者によるチェックです。監視体制の強化にも含まれると思いますが、制度に則った支援がされているか、不正受給などが発生していないかといったチェック体制を設ける必要があるかもしれません。

そして、重要なのは、「ローテーション雇用」などを利用者側が理解しているのか、納得して受け入れているのか、という点です。自ら希望し、6カ月での、就労・退職・事業所に戻り利用者として過ごし、一定期間をすごしたのちに再就職、を実現させているとは到底思えません。仕組みを作り上げ、利用者にそれを持ちかけているのであれば、利用者の幸せやキャリアプランを無視した行いと言えます。

A型事業所側としては、利用を通して一般就労にどのように結びつけるか、また、就労後の定着における体制の見直しを図る必要がありそうです。、あた一般就労に結び付かず、何年もA型事業所に通い続けている利用者も少なくありません。A型事業所本来の役割・目的を改めて見つめることも大切ではないでしょうか。

行政側の改善点

  • 自治体間データ連携の強化
  • 加算制度の見直し
  • 監査頻度の増加とAIによる異常検知

行政側においては、監視体制の強化はもちろん、今回は75の自治体において発覚したことから、横の連携も検討状況にあるといえるでしょう。また、制度の穴を突いた不正受給ということで、性善説ではなく、制度の見直しも必要となります。

さらに、他でも「ローテーション雇用」などが行われていないか。一度就労し、その後に退職した利用者が元の事業所を再利用することは良いとしても関係企業に再就職していないかなどのチェック体制を設ける必要があるかもしれません。

絆ホールディングスの不正受給のようなことは他のA型事業所でも起こりうるのか?

結論からいうと、今回は制度の穴を突いたものであり、他の事業所でも十分に起こりうることではないでしょうか。もちろん、今回は絆ホールディングスという一定の企業規模を持った組織で行われていたこと、グループ内企業で「ローテーション」していたことなど、ある程度の条件がそろっていたから可能であったことだと言えます。

しかしそれは、それを良しとする受け入れ企業と事業所、支援員と利用者が揃えば、可能であることも証明したとも考えられます。制度の見直しが図られないのであれば、同じような不正受給が発生する可能性はゼロではないでしょう。

また、起こりうる理由としては、以下もありそうです。

制度上のリスク

  • 給付金依存度が高い
  • 一般就労実績が利益に直結
  • 監査が自治体単位で全国連携が弱い

現在の仕組みでは、A型事業所の多くはその運営費を給付金に依存しています。また、その加算の中でも一般就労への実績の高さが、得られる給付金に関係します。給付金頼みからの脱却は容易ではありませんが、事業所全体の売り上げ構成比の大半が給付金であればあるほど、制度見直しの影響を受けることになります。EC・軽作業・BPOなど、給付金以外の売り上げを伸ばす事業所努力、企業からの外注獲得むけた営業は一層必要になるでしょう。

今後、生き残るA型事業所に必要なもの

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最後に、経営視点から、今後A型事業所が生き残るために必要なことをまとめてみました。

透明性の高い事業所運営

  • 支援記録・勤怠・工賃のデータ化
  • 外部監査の受け入れ
  • 利用者・家族への情報公開

まずは、第三者から見ても透明性の高い運営です。今回のような「ローテーション雇用」などではなく、当たり前のことですが、利用者のスキル向上、就労に向けた体調管理を目的とした事業所内でのトレーニングを行い、まっとうな就労・定着を第一とした運営をすることでしょう。そのためにもA型事業所での通所が安定した利用者を定期的に就労に結び付くこと。そして、短期での退職にならない定着支援も重要です。また、長年、A型事業所に通い続ける利用者を良しとしないことなど、業界全体での取り組みも必要になってくるでしょう。

一般就労支援の質の向上

  • 企業との連携強化
  • 職場実習の拡大
  • 定着支援の専門スタッフ配置

今回の不正受給は仕組みとして一定期間の就労・退職を繰り返したことから発覚しました。しかし、図らずとも、就労したものの短期間で退職し、元の事業所に利用者として戻ってくることは考えられます。A型事業所としては、就労に向けたトレーニングに加え、今後は就労先との連携、定着支援がより一層重要になってくるでしょう。

改めて求められる利用者中心の支援体制

そして、なんといっても利用者の将来を考えた支援体制の見直しが欠かせません。十分なアセスメントと利用者本人の希望が叶う支援を構築することの重要性です。個別支援計画の質向上や事業所内でのスキルアップにつながる業務をより充実させること、さらには、事業所や支援員が、利用者の幸せや、働く目的を尊重し、事業所の文化として定着させることが重要です。

まとめ:A型事業所に求められる一層の倫理観と利用者の就労、職場定着支援、給付金頼みの事業所運営からの脱却

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絆ホールディングスの不正受給問題は、 制度の欠陥 × 事業者の倫理欠如 × 行政監査の弱さ が重なって起きた業界最大級の不正といえるでしょう。ただ、この事件は、絆ホールディングスだけの問題ではないかもしれません。他の事業所でも不正受給が行われている可能性があります。今回の事件をきっかけに 、A型事業所の透明性・支援の質・経営体質が 大きく変わる可能性があります。

多くの事業所は、まっとうな運営をしているはずです。しかし、一部の事業所において、利用者の希望を無視し事業所の利益のみを追求した結果が、今回の不正受給事件だと思われます。他山の石とせず、今一度、事業所の体制、利用者の希望に沿った支援体制などを振り返ってみることが大切ではないでしょうか。

Written by

菅間 大樹

findgood編集長、株式会社Mind One代表取締役
雑誌制作会社、広告代理店、障害者専門人材サービス会社を経て独立。
ライター・編集者としての活動と並行し、就労移行支援事業所の立ち上げに関わり、管理者も務める。職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修修了。
著書に「経営者・人事担当者のための障害者雇用をはじめる前に読む本」(Amazon Kindle「人事・労務管理」「社会学」部門1位獲得)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0773TRZ77